試し切りは出来ない
阿久刀壱心は彼女にお願いをしに来た。
それは、百千万億生徒会長が紹介した研ぎ師に対してだった。
「やあ、喰代さん、実は折り入ってお願いがあってね」
目の前にいる少女。
喰代日和子に対して、彼は刀を差し出す。
彼女こそが、模造刀を研ぐ事が出来る人物であるらしい。
阿久刀壱心のお願いと言う言葉に反応した喰代日和子。
彼女は両手で指を絡ませながら、視線が右往左往としていた。
「え…あ、あの…動物のお肉は、殆ど料理に使ってて…」
彼女の言葉は懐疑的だった。
不死川命と阿久刀壱心も首を傾げたが、先に阿久刀壱心が察すると、晴れやかに笑った。
「ん…あはは、違うよ、別に試し切りをしたいってワケじゃないんだ」
彼の言葉で、ようやく不死川命も察する事が出来た。
「(…あ、試し切りと勘違いしてんのか、この人)」
確かに、刀を持って来たら、試し切りと思ってしまうかも知れない。
普通の人間が刀を持ってきたのならば、その様な発想に至る事は無いだろう。
だが、阿久刀壱心が持ってくると、自然とその様に考えてしまう。
不死川命も、彼女と同じ立場であるのならば試し切りと考えてしまうだろう。
それ程に、彼は何かを斬りたそうな雰囲気を醸し出している。
「あ、そ、そうなんですか…てっきり、そういう感じだと思って…刀持ってるし…」
安堵の息を吐いて彼女は安心していた。
試し切りであれば、食用の肉はもう無いと言うのだ。
現在では、生徒たちの為に炊き出しをしている。
百人程度であれば、三日分はあるのだろう。
だが、千人規模になると、料理部の食料倉庫は、すっからかんになる。
事実、食肉はもう在庫が無かった。
彼女の言葉に、阿久刀壱心は言う。
「どうせ斬るなら生きている方が良いしね」
その言葉に、身震いする喰代日和子。
近くに居た不死川命も、思わず隣に居る阿久刀壱心から数歩離れた。
「(怖ぇーよ)」
「(こ、怖い…)」
二人の考えは一緒になっていた。
そんな二人の表情を見て、なぜ恐れているのか、阿久刀壱心は理解出来ない、と言った様子で首を傾げている。
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