活人鬼

そして、体育館へと入って来る別の生徒。

それは、他の生徒達は、彼を見て安堵の表情を浮かべていた。

現状、その生徒は、多くの小鬼を討伐した実力者として認識されている。


「お待たせしたね」


教壇へ上がる胴衣姿の男性。

彼の登場に、百千万億生徒会長は頬を緩めた。


「阿久刀主将、来てくれたのかい?」


剣道部主将・阿久刀壱心である。

爽やかな笑みを浮かべる好青年であり、男女からの人気が高い人物だ。


「うん、百千万億生徒会長、事情は聞かせてもらったよ、…外に出るらしいじゃないか」


彼は嬉しそうに語っている。

今がどういった状況であるのか、理解しての言葉なのだろう。

阿久刀壱心は、木刀を腰にぶら下げていて、其処に腕を置いている。


「僕の役目は、化物退治らしいね」


そして、いち早く自分の役目を理解してそう言った。

百千万億生徒会長はその通りだと頷いた。


「今回の捜索隊だと、先ずキミの力が必要になる…剣術ならば、先ずキミが一番だろう」


そう言われて、彼は素直に喜んでいる。


「キミの眼がそういうのなら本当なんだろうね、その台詞は光栄な事だよ」


どうやら、百千万億生徒会長とは昔から知っているらしい。

彼の目が特殊である事も、阿久刀壱心は理解している様子だった。

一通りの会話を終えた後、阿久刀壱心の視線が不死川命の方へ向けられる。

その瞬間、不死川命は体が強張った。


「で、今回の捜索隊に選ばれたのが、きみだね?不死川命くん」


ゆっくりと、阿久刀壱心の手が伸びると、彼は握手を求めている。

その手を、不死川命は恐る恐ると手を伸ばして、握手に応じた。


「…どうも」


「日常生活をする上だったら、キミとは接点は無かっただろうけどね、この異常事態だ…是非とも、キミとは仲良くしたいな」


爽やかな笑みを不死川命に向ける。

それを受けて、ようやく不死川命は、自らに感じる不快感を理解した。


「…(一見、優男らしいけど…この人からは嫌な視線を感じる、純粋な、いや、無意識な殺意だ)」


彼は知らぬのだろう。

自分が他者との接する際に、無意識に殺せるかどうかを判別している事に。

不死川命は、不躾な質問ではあると理解しているが、思わず彼に聞いた。


「もしかして、人を殺した事、あるんですか?先輩は」


その質問に対して、虚を突かれた様子で唖然とした表情をする。

そして、手でそれは違うと振りながら答える。


「ん?いや、ボクは古流剣術を扱うけど、人を活かす剣術でね、人を斬った事も、殺した事も無いよ、だからか、生易しいって意味合いで『活人鬼』なんて呼ばれてるけどね」


彼の反応、その言葉は本当の事なのだろう。


「(じゃあ、なんなんだ、この人の殺意と、血の臭いは…)」


まるで生粋の殺人鬼。

多くの生命を奪った人斬りの如き才覚。

感覚一つで同類と分かるが、しかし全然それは違うと本人は否定する。

それが不可解だった。

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