顔合わせ

話が纏まった事で、今まで黙っていた外野が口を出して来た。


「捜索隊では、私が動向するわ」


その内の一人が、オカルト研究部部長・物集女美夜古だった。

彼女の手に持っているのは、穢土回廊が記された古書『八十土凶殺』である。

彼女の姿を見て、百千万億生徒会長が名前を口にした。


「物集女部長」


彼が名前を口にすると、彼女は腕を組んで言う。


「だって、気になるんですもの、八十土凶殺に書かれている事が本当なら…蘇りの秘薬もあると聞くわ」


穢土回廊には現世には無い妙薬が存在する。

具体的に言えば、妙薬を作る為の材料がある、と言った所だろうか。

八十土凶殺には、呪術の他にも薬品の調合などが書かれている。

それらを駆使すれば、今回の探索もある程度楽になる可能性があった。


「そんな不思議アイテム、気にならない方が不思議じゃない?」


彼女は生死など頓着していない。

全ては自らの知識欲を満たす為。

そして、呪術の神髄が己にも使役出来るのかと言う高揚感。

それらの為ならば、彼女は命を捨てるのも惜しくは無いのだろう。

しかし、不死川命は彼女の参戦に対して乗り気では無い。


「遊び感覚かよ…死ぬかもしれないのに」


普通の人間であれば、死に対して恐怖を覚えるものだ。

だが、死すら感じない人間は狂人でしかないだろう。

不死川命は、命を弄ぶ様に笑う彼女が余り好きにはなれなかった。


「探求心を遊び心だなんて言われるなんて、失敬しちゃうわ」


頬を膨らませる。

しかし、その視線は人を簡単に射殺せる、呪術の様な力を秘めている。

このままでは一触即発しそうな勢いだった為に、先に百千万億生徒会長が彼女と彼の間に割って入る事にした。


「物集女部長は今後の方針には必要な人材だ、不死川くん、キミの仕事は化け物との戦闘以外にも、彼女を守る事でもある」


現状、八十土凶殺を解読出来るのは彼女だけだった。

百千万億生徒会長も、時間を掛ければ解読出来るのだろうが、彼は、今回の探索には参加する余裕が無かった。

なので、現状では彼女が、この穢土回廊の案内役として最適だろうと思ったのだ。

百千万億生徒会長に言われた事で、不死川命は渋々了承していた。


「なるべく善処はする…」


そう言って、物集女美夜古の顔を見た。

苦手だとは思っている。

しかし、彼女の顔は少しだけ色っぽい。

得も言えぬ色気を醸し出していて、下手をすれば見惚れてしまう。

事実、彼女の顔を見て、呆然としてしまった。


「あら、どうかしたの?私の顔を見て」


その事を指摘される。

彼女は自分の顔を見ていた事に対して理解していた。

顔が良いのは勿論の事だろう。

だが、それ以上に、彼女の匂いが男を誘う様になっている。


「別に…」


首を振って、そっぽを向く不死川命。

彼女の匂いが原因で見惚れていたなど、彼はまだ知らなかった。

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