命を懸ける理由は無い
既に、百千万億生徒会長は彼の情報を入手している。
広報委員会・委員長との交渉によって得た情報は、彼の隅々まで明確に表記されていた為、百千万億生徒会長にとって、不死川命とはある意味、両親よりも見知った存在だろう。
「成程、…だから嫌な感情を此方に向けるワケだ」
不死原一族の事を思い浮かべる百千万億生徒会長。
「(不死原一族特有の死に関する直感か…厄介なものだね)」
死に関する直感。
それは、自身に害を及ぼそうと考える者の思考を読み取る。
こう記載すれば、便利なものと勘違いされがちだが、実際の所は其処まで万能な代物では無い。
ただ、相手が不死川命に対して『馬鹿にする』『嫌悪する』『怒りを露わにする』そう言った負の感情を明確に受信しやすい体質なのだ。
不死原一族は殺しの一族、殺意とは悪意の真骨頂。
他人の悪意が殺意に変わらぬ様に、悪意の時点で対象の殺意を読み取る。
でなければ、不死原一族が殺しの一族であるのに、逆に他人から殺されてしまうなど笑い話にもならない。
殺しの天才なのだから、殺しに関しては右に出る者が居ない様にしなければならないのだ。
右に出る者が現れる前に杭を打つ、それが不死原一族を示す言葉でもあった。
しかし、一つだけ訂正する事がある。
彼は、不死川命は、正確に言えば不死原一族の人間では無いと言う事。
そして、不死川命は、不死原一族の天性の才能を持ち合わせても、其処から努力をした際に得られる技術を持ち合わせていない。
それでも、今回の迷宮遠征では、不死川命の死を察知する感覚が必要不可欠。
だからこそ、百千万億生徒会長は不死川命と言う存在を知った事で、彼は必要だと思ったのだ。
無論、百千万億生徒会長の予想通りと言うべきか、不死川命の反応は悪い。
「俺は生きるのも死ぬのもどうでもいい、だけど…その行動は俺の為じゃなくて、誰かの為のものだ、この学園の生徒を生かす為の行動だ」
彼には他人には興味が無い。
元から無いのか、元々はあったのか、それも定かでは無い。
ただ、不死川命は、人間社会を生きる事に決めた、その際に、他者との関わり合いは避ける事に決めていた。
「あいつらが、どんな感情を俺に向けていようとも、慣れた事だし、どうでもいい、けど、多少はイラつく事もある」
他人に対して苛立ちを覚える事はある、しかし、殺したいと思う程では無い。
彼にとって他人とは、同じ人種の別の生物でしか無かった。
「あいつらの為に、俺が命を懸けるなんて、馬鹿じゃないか」
それが不死川命の本心である。
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