生き残った者たち
廊下を歩いていると、生徒が死んだ小鬼達を抱き上げながら校庭へ運んでいる。
校庭の中心ではキャンプファイアー並の焚火がされていて、其処に小鬼達を投げている。
いや…それだけでは無かった、手袋とマスクをした生徒たちが、手に持つノコギリで小鬼の肉体と胴体を分けていると、小鬼の頭部を加工した杭に突き刺して晒し首を作っていた。
「…なんだアレは」
生徒が気でも狂ったのかと思った。
見ているだけで気分が悪く、不死川命は視線を逸らす。
「早く、行きましょう」
柊麗も不死川命を急かして歩き出す。
廊下では、衣服を破かれた状態で我が身を抱きながら泣きじゃくる女子生徒が複数いた。
どうやら、小鬼たちに弄ばされたらしい、その中には、小鬼の死体を恨めしく、掃除用具のモップを折って作った槍で何度も何度も突き刺す光景も目にした。
そんな彼女の状態を見て慰めになる言葉など掛けようとは思えなかった。
中には、死亡した生徒を二人掛かりで担いで外へと出て行く生徒の姿もあった。
その時、生徒の目は死んでいた。もう片方は涙を流して大切に生徒を運んでいる。
もしかすれば、友人であったのかも知れない。
そんな事を考えながら、校舎から外に出ると、少し離れた位置に体育館があった。
この学園は兎に角広い、それもその筈、この学園は約千人の生徒が収納出来るマンモス校である。
が、先の小鬼の襲撃でどれ程の生徒が死んだのだろうか。
そんな事を考えながら体育館の中に入ると、外よりも暖かな空気で満たされている。
体育館の中には、百名以上の生徒が騒いでいた。
泣いていたり、怒っていたり、他者万別の反応をしている。
「…人が多いな」
そう言いながら体育館の中に入ると、眼鏡を掛けた女子生徒が声を掛けた。
「貴方、何年の、何組?」
そう言われて、不死川命は視線を向ける。
体育館の入り口には、ホワイトボードがあった。
そして、ホワイトボードには数多くの生徒の名前が書かれた出席簿が全クラス分貼られている。
どうやら、生きている生徒はその出席簿に印をつけているらしい。
赤い線で名前を引かれている生徒は…どうやら死亡として扱われている様子だ。
「…って、あぁ…不死川命さんか…生きてたんだ」
「…まるで、死んでいた方が良かったって反応だな」
皮肉を込めて不死川命はそう吐き捨てる。
「死んでた方がマシだったかもね…そっちは?」
そう言われて、不死川命を杖替わりにする柊麗は自らの名前を口にする。
「柊、麗…うん、おめでとう、貴方たち二人、302番目と303番目の生存者だよ」
そう言うと、彼女は黄色のテープを伸ばすと、不死川命と柊麗の腕に貼った。
二重確認による手間を省く為の処置であるらしい。
「出入りは自由、もしもテープを張ってない生徒が居たら、体育館に来る様に伝えて」
そう言われて、不死川命は頷くだけでそのまま体育館の中に入る。
今、現在、壇上では今後の話をしている最中だった。
壇上には、見覚えのある生徒の顔があった。
「(生徒会長か…)」
千を超える生徒が集うマンモス校・八百万学園の頂点に立つ生徒である。
八百万学園は政財界出身の生徒が多数存在し、OBの殆どが表舞台で活躍する政治家や芸能人が多い。
八百万学園にて生徒会長を務めた人間は、後に日本の頂点へと立つ内閣総理大臣に成ると言われる程であり、生徒会長に選ばれれば少なくとも人生は成功したも同然である。
百千万億天満生徒会長が壇上の上に足を組んでパイプ椅子に座っていた。
そして、彼の両隣に立っているのは、見覚えの無い生徒だった。
一人は、女性だ。
それも背が高い生徒であり、同時に漆黒の髪も長く、座っているのに髪の毛が地面に触れそうだった。
そしてもう一人は、帽子とマフラーを装着して厚着をした女子生徒だ。
女子生徒の方は、何処か見覚えがあった。
「…確か」
不死川命が名前を口にしようとした時。
彼を杖替わりにしていた柊麗が代わりに答える。
「広報委員兼生徒会書記の
名前を聞いてそうだ、と不死川命は思い出した。
「…名前、知ってるのか?凄いな」
彼はあまり人の顔を覚える事が出来ない。
クラスメイトの顔ですら、ろくに覚えて無かった。
「はい、…大体の生徒の顔と特徴は覚えてます…その、御家柄、覚える事が大事、でして」
不死川命に褒められて、少し照れくさそうにする柊麗。
「そうなのか…」
と軽く流した。
八百万学園は先述の通り、千を超える生徒が集う。
その生徒の殆どは、一般枠、特待枠、推薦枠の三通りあった。
一般枠は名の通り、受験にて合格した生徒の事だ。
次に特待枠、一般枠の生徒よりも寄り運動面や勉学面で優秀な生徒に設けられた枠だ。
最後に推薦枠、これは特待枠とは違い、学園側が欲する才能を持つ生徒であり、各分野に置いて天才と称される生徒の為に設けられた枠である。
推薦枠にもなれば筆記試験・学費免除となり、更に自身の研究の為に個人的援助も施される程に優遇されており、表舞台で活躍している人間は八百万学園の推薦枠生徒が多い。
殆どは一般枠と特待枠の生徒が多いが、それでも推薦枠の生徒でも百を超えるので、覚える事など出来ない。
「文違鳩子さんは特待枠で、物集女美夜古さんは推薦枠ですね」
「(…どちらにせよ一般枠の俺とは違う、エリートって事か)」
しかし、何故彼女たちが壇上に上がっているのか分からない。
三人は何かを話していて、不死川命は黙って話を聞く事にしたが。
壇上の上に立つ生徒…文違鳩子の視線が不死川命の方へを向けられた。
すると、目を開いて手を振る仕種を行う。
「あ、来たっすよ、会長」
そう言われて、百千万億生徒会長の目が不死川命の方へ向けられた。
「そうか、…やあ、上がって来たまえよ、不死川くん」
と、不死川命は名指しされるのだった。
数時間前。
数多くの生徒が小鬼の群れと衝突し、何とか小鬼の群れを撃退する事が出来た。
その際、生徒会役員は現段階の状況と治安維持の為に委員会連合と結託した。
生存者は体育館に集まる事となり、百千万億生徒会長は他の情報が来るまで体育館にて待機をしていた。
そんな時に現れたのが、オカルト研究部・部長である物集女美夜古である。
「物集女部長、何か情報を知り得ている用だね」
百千万億生徒会長は学帽を被り直して彼女に伺う。
すると、彼女はセーラー服の中から古臭い書物を取り出す。
「先ず、私たちが何処に居るか、知りたいでしょう?」
突如として空から光は失われ、周辺は崖の如き砦に覆われている。
更に時間経過と共に霧が溢れ始めて視界不良が続いていた。
天変地異や地盤沈下したと言う生徒も居たが、どれも決定打に欠ける内容である。
そんな最中、彼女はこの状況を説明出来るとして、百千万億生徒会長の前に現れたのだ。
「オカルト研究部では、この八百万学園の歴史を調べた事があるの」
そう言って、彼女は先ず、古書を取り出して百千万億生徒会長の前に見せた。
それは筆で描かれた静止画だった。
だが、その古い挿絵には、小鬼と同じ格好、体格をした絵が描かれている。
まるでこの挿絵から小鬼が出て来た程に、多少の個体差はあったが、相違は無い。
「八百万学園の文献を色々探ってみたのだけれど」
更に、他の古書を彼の前に見せつけた。
それは古い字で『八十土凶殺』と言う名前で記されていた。
「昔からこの地域では多くの神隠しや原因不明の過労死が多く、土地自体に何かが住み着いていると、当時の民俗学者が研究していたみたい」
古い記録であり、民俗学者の研究内容が描かれているらしい。
あまりにも古く、所々が虫食いになっていて、読み難いが、それでも百千万億生徒会長は解読する事が出来た。
「それで、色々を調べた結果、この土地から多くの人骨や、様々な生物とは非なる骨格をした遺骸が出土、その他にも、呪術関連を纏めた文書に儀式に使用する道具などが現れたわ」
最新の写真を彼の前に出す。
子供程の小ささをした人骨や大人サイズの人骨の中に、明らかに動物とは言い難い骨格をした骨も紛れていた。
その写真に目を通すと、彼はある疑問を思い浮かべる。
そしてそれは恐らく、物集女美夜古の想定した解答なのだろうと思った。
「それは実に気になる話だね、ロマンを感じるよ、けれど事態は早急だ、結論から教えて貰おうか」
彼女の話を否定しない様にそう言うと、結論を急ぎそう言う。
物集女美夜古は冗談交じりに頬を緩めて笑うと、艶美な吐息と共に結論を口にする。
「ロマンを全然分かっていないのね、まあ良いわ、遥か昔、鬼や妖怪と言った化物が実際に存在し、それらの生物を現世に出さない様に、土地に封じ込めた、魑魅魍魎の類が外に出ない様に、入り組んだ迷宮としての結界を構築してね…『
つまり。
今、彼らが居る場所は、結界の中と言う事だ。
化物が辺りをうろつく迷宮…流行りの言葉で言えば、ダンジョン、と言うのだろう。
迷宮と言われて、百千万億生徒会長は唸る。
極めて現実的では無い。
あまり彼はオカルトやフィクションには疎く、嫌厭としていた。
だが、極度の
話に繋がりがあり、根拠があるのならば、その話を呑み込む程の器量はあった。
「俄か信じ難い話だが、鬼の群れを考えるに先ず間違いは無さそうだ、それで…」
どうすれば脱出出来るのか、と言う話の前に。
話を遮る物集女美夜古は、先ず自らの話を優先して話し出す。
「待って、先程の話を信じたのなら、先ず優先的にやって貰いたい事があるのだけれど」
そう言われて、百千万億生徒会長は一度自らが口にしかけた言葉を呑んだ。
そして、彼女の話を優先する様に、手を差し出した。
「…分かった、何をすれば良いのかな?」
会話のバトンが渡され、物集女美夜古が話は自らが持っている古書『八十土凶殺』を持ちながら話を始める。
「『八十土凶殺』には呪術的内容も書かれてるわ、低級の化物が忌避する結界の張り方も書かれてる、化物の臭いを使い、土地の縄張りを主張する事で他の化物が寄り付かなくなる呪術があるの」
この古書を書いた著作者が考案した呪術の文字が記載されている。
それは象形文字の様で、言語としては決して読めない代物だった。
古書の内容が正しければ、化物が校舎に寄りつく事は無くなるらしい。
「先ず、生徒を使って、学校敷地内に呪術を刻み、他の化物が学校に侵入する事を避けるの」
具体的に物集女美夜古は言う。
その話を遮り、反論する百千万億生徒会長。
「それを行う事で、本当に化物が寄り付かなくなる、と言う根拠はあるのかな?」
すると、彼女は鼻で笑った。
自慢するかの様に、豊満な胸を張って彼女は告げる。
「オカルト研究部の教室や備品は、何も壊されてないの、勿論、小鬼たちは部室に近寄る事すら無かったわ、鶏の血で魔除けの呪術を描いたら、小鬼達は血相を変えて逃げて行ったから、効果は実証済みよ」
実際に試したのならば、効果は先ず間違いが無いのだろう。
今回ばかりは、百千万億生徒会長は部活動監査の際に動物の死骸の使用許可を不許可にしなくて良かったと思った。
「…成程、実際に効果があるのならば、それに越した事は無いだろうね、許可しよう、今すぐ動けそうな生徒を使い、敷地内付近に呪術を敷く」
パイプ椅子から立ち上がると、物集女美夜古は補足を口にした。
「それと、重ね掛けだけれど、小鬼達の死体の頭部、あれも魔除けの効果があるから、杭を作って案山子として使った方が良いわ」
呪術の重ね掛けによる絶対領域の形成を告げる。
「許可しよう」
百千万億生徒会長は頷くと共に、体育館に居る生徒達に向けて命令を行う。
「十二人一組で活動し、東組、西組、南組、北組、中央組の五組に分かれて活動を、中央組は小鬼の死体回収、頭部の切り分けと血を回収、東西南北は決められた位置で、化物の血を使って物集女部長の言う通りの呪術結界の紋様を描く様に」
生徒達は騒々としていた。
だが、生徒会長の声を聞く為に、彼らは声を殺して待つ。
「東組は鎌久保蒼音、国屋唯伊、椎路簾、弗田仁之、米峰聖己、酉家蘭子、吉下廣夫、越河瑠世、横辻民頼、道珍球洋、老泉壱翔、楠林裕行の十二名」
「西組は新保屋琴葵、比能巨真、禅定房侑、嘉本笑皆、東谷口治之、浜元浅尋、仲邑功貴、 松房桂里、狭場樹告、湯ノ谷佳寿彦、上白戸美都樹、地黄芳実の十二名」
「南組は満永玖留瑛、半村宣義、和久屋紗奈美、居坂藍之仁、後芝凜翔、水早由見、載寧実賀子、永井口妃世香、粠田和誉、眞戸原歩友子、十二季里菜、弗蘭歩愛、の十二名」
「北組は青菜百佑実、助光玄悠、中関左依子、島丸靖菜、東灘八恵子、 辻森新恵、續谷朝之丞、古濱湊人、養正聡、陣座羽多能、油瀬彩賀、田勢万福の十二名」
「中央組は原嶌 藍珠、貝村絵都、秀能井亜矢、井戸崎弥充、淨徳日々、辰重穂野美、増埜凱悠、石栗早絵子、須長友喜叶、眞船一晴、枦木周輔、加賀利琴英の十二名」
「軽傷であるキミたちは、重傷者、心身共に傷を負った仲間の為に我が身を犠牲にして欲しい、キミたちならばそれが出来ると信じている、頼んだ」
生徒の名前は全て覚えている。
同時に傷の無い生徒を選び、運動や技量を見定めて的確に判断を下した。
これが支持率90%を超える百千万億生徒会長。
彼の言動は他の生徒を動かす魅力があった。
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