羽休め パート2

!~よたみてい書

第1話

 私は下乃動物園にやってきた。

今日は休日ということで、精神的な疲れを癒しにやってきた。

きっと可愛らしい姿をした動物たちが私を歓迎してくれるだろう。


 動物園はやはり家族連れの客が多く見かけられた。

天気も快晴なので、来園者の数は多くなっているだろう。

もちろん恋人と思われる男女二人組の客も少ないながらも来園している。

恋人客たちは、はしゃぎながら檻や柵に閉じ込められた動物たちの前でキャッキャとわめいていた。

他の客がなにをしていようが私には関係ない。

しかし楽しんでいる他の客の様子が目に入ってくると、なぜだか私の心にささくれが出来るのを感じる。

天気がいいはずなのに、気分は曇り時々雷の中にいるみたいだ。

この晴れない気持ちを落ち着かせるために、背中から生えている両翼を思いっきり羽ばたかせたい。

自由に空を飛び回りたい。

だけど自分の都合で勝手な行動をしたら他の人に迷惑がかかるのは百も承知。


 私は自分の両手を目の前に伸ばしていく。

他の人から見たら、動物園にやってきたのに、一人でぼーっとしているように見えるだろう。


 私の指をじっと見つめ、昨夜の出来事を思い出す。


 就寝前に、空気が乾燥する時期に発生するささくれの対処をしていた。

指の爪の周囲の皮膚が、剥けている状態。

ささくれ。

自分の皮膚状態が回復に向かうように、指に出来上がった小さな棘を一つ一つ慎重に爪切りで切断していく。


 ささくれの尖った先が処理されたため、衣類に引っ掛けることはなくなった。

しかし深く根元から処理しようとした箇所は、少し血で滲んでしまっている。

このまま放置していたら、食器洗いの時に痛みを伴ってしまうだろう。


 私は部屋の棚に置いてあった液体絆創膏を取り、蓋を開けていく。

粘着質の薬剤を纏った、小指程の長さをした小さなほうきのようなものを該当箇所に塗る。

そのまま指を数十秒ほど眺め続ける。

すると、液体絆創膏が乾燥して、透明な膜が指を覆っていた。


 昨夜の治療のおかげで、動物園に来るまでにささくれ関連の不都合は何もなかった。

 

 そのまま私は動物園内を進んでいき、とある動物の檻の前で足を止める。

とても愛らしい動物がいた。

熊猫と書いて、パンダ。


 パンダは気だるそうに、簡易な森を模した檻の中で座っている。

まるで私たち来園者に、『笹くれー、笹くれー』と訴えかけているようだ。

残念ながら私たちには彼を助けてあげることはできない。

その役割は職員のものだ。


 私は職員が現れ、パンダが食事をする場面が訪れるのを期待しながら、そのままパンダを眺め続けるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

羽休め パート2 !~よたみてい書 @kaitemitayo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ