第17話 隠された仕掛け

「だけど今日、一つだけはっきりしたことがあるわ」


 簡単に親子丼とみそ汁で夕飯を済ませた後、再び居間に集まり腰を下ろした。


「朱緒に憑りついたのは、旧校舎の霊じゃなかった」


「ほう? どうしてそう言い切れる」


 神主がお茶を淹れながら尋ねる。


「音よ」


 確と神主が揃って「音?」と首を傾げる。


「一度目と二度目に呪符を仕掛けられたとき、ワーンというような気持ちの悪い音がした」


 夕飯を食べて元気を取り戻した今、音は少しましになっている。


「それと同じ音が、ダムの近くまで行ったとき、もっと大きく聞こえたの。なんていうか、地底人のうめき声みたいな低音に、神経を逆なでする高音が混じってるような」


 上手い例えが見つからないのがもどかしい。


「地底人?」と呟いてから確が言った。「俺には何も聞こえなかった」


「誰にでも聞こえるわけじゃないのかも知れない」


 初めて音を聞いたのは、呪符に触れた確の口からだったが、なんとなく言いそびれたままだ。


「それから屋上で確を襲った霊たちと、今日の首なしの霊。どちらも呪術で使役されていたという共通点がある」


「じゃ、高屋敷に憑りついているのは……」


「何者かは分からないけど、あのダム周辺にいると思って間違いないわ」


 居間に緊張が走った。


「やっぱり旧校舎の霊じゃなかったか」


「確が感じた違和感は正しかったようね」


 悔しいが認めてやる。だがそうなると、あの激しい頭痛を克服しなければ、近づくことさえ難しい。


「実は、二人に見てほしいものがあるんだ」


 神主が角封筒から紙の束を取り出す。


「マイクロフィッシュから複写した資料をもう一度見直したんだ。なにか、旧校舎の霊についてヒントがないかと思ってな。そしたら、前回は気が付かなかったある人物を見つけた」


 白黒の、拡大したせいでよけい不鮮明になった写真を見せる。


「製糸工場の女工達の写真だ。工場が閉鎖される前、明治四十三年に撮ったものだ」


 白いかっぽう着姿の女工達が、横一列に並び繭から糸を引く作業をしている。


「この端っこの女工、なんとなく旧校舎の霊と感じが似てないか?」


 確と写真を覗き込む。


「私も一度見たきりだし、ずいぶん昔のことだから、あまり自信はないんだが」


 他の女工達より一段と背が高く、面長でやや吊り上がり気味の目元をしている。


「……遠めに見ただけだから、なんとも。おまえはどう思う?」


 言ってから、しまったという表情になる。


「私はクロウがチャンネルをずらしてくれていたから、はっきりと見てない」


 神主に向かって説明する。


「そうか。このすっと一筆書きしたような目元が似ている気がしたんだが。まあ、高屋敷さんに憑りついたものが他にいるとなると、もう調べる必要もないか」


 残念そうに資料を封筒にしまう。続いて広げたままの地図を片付けようと手を伸ばした。


「ちょっと待って」


 ふと目に付いた印が気になり、地図の上に身を乗り出す。二つの地図を交互に見比べた。


「ここは、今高校がある場所で間違いない?」


 卍の印を指さし、神主の顔を見上げた。


「そうだが」


「お寺があったの?」


「ああ、昔は妙光寺という寺があった。しかし明治の廃仏毀釈の際、廃寺になっている」


 腕から頬へチリチリと電流が走った。急に視界が開けた気がした。


「その寺は、京都で言う比叡山延暦寺の役目をしてたんだわ」


「鬼門封じか。私としたことが、迂闊だった」


 神主がはっとしたように膝を叩く。


「俺だけ置いてくなよな」


 確が眉間にしわを寄せる。


「クロウが言ってた、霊を呼び寄せる仕掛けが分かったの」


 古地図の卍に人差し指を合わせる。その指先が興奮で震えている。


「方角で言うとここは過去も現在も梁瀬村の中心から東北に当たる。東北は鬼門と言って、名前の通り悪しきものが入って来る方角なの。平安京を築くとき、帝は都の鬼門に当たる比叡山に延暦寺を築いて守護に当たらせた。梁瀬村の場合、その役割を担っていた寺が廃仏毀釈で廃寺になってしまい、遮るものがなくなったせいで、悪いものが村に入って来るようになったの。でも仕掛けはそれだけじゃない。寺に付き物といえば墓。妙光寺の墓地は、明治の水害で流されたんじゃない?」


「その通りだ。今は高台に場所を移してある」


「やっぱり」


 確が焦れたように身動きした。


「昔の墓には、魔物の侵入を防ぐため結界が張り巡らされていたの。寺が無くなり墓地が水害で流された後、結界だけが残された……」


「それはつまり」


 確が視線を宙に漂わせた。


「鬼門から入って来た霊は、逆に結界というトラップに引っかかって出られなくなる……。そう言うことか」


 目を合わせて頷く。さすがに理解が早い。


「それが学校を霊の溜まり場にした仕掛けだったのよ」


「だとしたら……」


 確は両手で髪をくしゃくしゃにかき混ぜ始めた。脳内が渋滞している時にこうなるのが、短くて濃い付き合いの中で分かってきた。指を口元に持っていき、神主に黙っているよう伝える。


「凶事を吉事と入れ替える……、加害者が被害者……、入替る……」


 頭を抱えたままぶつぶつと呟く。


「敵じゃないのかもしれない」


 指の間から髪の束を突き立てたまま動きが止まった。


「おまえが最初に祓った霊が、それこそ百年位かけて学校に蓄積したのに比べて、その後同等の数の霊が、ダムのサイレンと共に押し寄せてくるようになった。明らかにサイクルが変化し加速している。寺が無くなった後も、何らかの抑止力が働いていたと考えられないか?」 


 髪を掴んだ指がゆっくりと解けてゆく。


「旧校舎の霊がこの世に留まる理由。調伏法の相手が人間じゃなかったら。村に流れ込んでくる悪しきものが相手だったら!」


 確の見開いた眼の光が強い。


「呪術には、白黒両方の側面があるわ」


 首筋の皮膚が粟立った。鼓動が早くなる。


「使い方次第で、呪術は白くも黒くもなる。旧校舎の霊はあの屋根裏で、呪詛を盾に鬼門を封じ続けていた。廃寺になった寺の代わりに、村を守っていたのよ」


「だが悪霊が鬼門を突破して入り込み、高屋敷に憑依した。呪術を使って俺たちを惑わし、あたかも旧校舎の霊が張本人であるかのように見せかけ、俺たちに祓わせようとしている。そう考えると、何もかも辻褄が合う」


 愕然とし、居てもたってもいられず居間を歩き回る。


「私を呼んだのは、力を貸して欲しかったから」


 握りしめた拳の、爪が手のひらに食い込む。


「旧校舎が取り壊される前に、助けを呼ぼうとしたのよ。それなのに、私は」


 神主が耳障りな咳払いをした。


「いや、すまん」


 腕を組んだまま長い首を伸ばし天井を見上げていたが、私に向き直って言った。


「気を悪くしないで欲しいんだが」


 頷いて続きを促す。


「旧校舎の霊は万琴を呼んだというより、クロウ殿を呼びたかったのではないかと思ってな」


「なるほど!」


 確が腰を浮かせ、資料の入った封筒に手を伸ばした。


「きっとそうだ。万琴を知っていたと考えるより、坊さんを知っていたと考えた方が自然だ」


 もどかしそうに封を解き、白黒の写真を引っ張り出す。


「クロウの、知り合いだっていうの? この女が」


 切れ切れに呟き、能面のような顔を呆然と見つめた。膝の力が抜け、ソファーに沈み込む。


「凄いじゃないか、坊さんのことが何か分かるかも知れないんだぞ」


「……一体誰なの、この女は」


 冷静でいようとするが、胸の奥から熱い塊がこみ上げるのを止められない。クロウに、もう一度会えるかもしれない。胸に浮かんだ希望が膨らみすぎないうちに慌ててもみ消す。だがこの感情にあらがうことがどうしてできるだろう。


「あ」と呟き、確が写真から顔を上げた。 


「なに、なんか閃いた?」


 期待を込めて身を乗り出す。


「本人に直接、話を聞けばいいんだ」


 眼鏡の奥の目がらんらんと輝いている。


「おまえの従妹って、口寄せをやるんだったよな」


 私の腕を掴んで揺さぶる。自分の思い付きに夢中になっている様子だ。


「それは凄い。いいアイデアだよ、確君」


 神主まで加勢に入る。まさか……。不味い展開になってないか?


「いや、どうかな、もう時間も遅いし……。明日にしない?」


「まだ十一時だぞ。従妹なら気を使う相手でもないし。今すぐ電話しろよ」


「メールで聞くとか……」


「いいからさっさと電話しろ」


 スマートフォンを無理やり手に押し付けられる。神主と確は興味深々というように私を見守っている。逃げ場はない。私は観念して、御典の番号を呼び出した。二人が息を殺す中、呼び出し音が鳴り響く。


「あ、もしもし、御典?」


 無視されますようにという願いも空しく、相手が出た。


「御鈴だけど?」


 綺麗だが冷ややかな声に否応なしに緊張が高まる。


「御鈴か、ごめん遅くに」


「何よこんな夜更けに」


「まだ十一時だけど。もしかして起こした?」


 京人形みたいに可愛らしい顔をした従妹が、私は昔から苦手だった。


「もう十一時でしょ。相変わらず常識が無いわね。早く寝ないとお肌に悪いじゃない」


「ごめん。急ぎの用だったものだから……」


「ちょっと、何? この気持ち悪い音! あんたとんでもないものに関わってるわよ」


 スマートフォンを握る手に脂汗が滲む。


「ばれた? それでちょっと頼みがあってさ」


「知ってて電話してきたの? 信じられない! 私たちまで危険に巻き込むつもり?」


 脇の下をツツーッと汗が伝い落ちた。


「無神経にも程があるわ」


「ごめん、もう切るよ。お肌、お大事に」


「ちょっと待ちなさい!」


 キンキン響く声がスピーカーから漏れている。神主と確は、あっけにとられた顔で私を見つめる。


「あんた、クロウ様はどうしたの! クロウ様のお姿が見えないじゃない! いったい、」 何があったの? という言葉を飲み込むのが分かった。


「……で、用って何なの」


 幾分落ち着いた声のトーンで尋ねる。


「いいの? 引き受けてくれるの?」


「それは話を聞いて決めるから」


 突き放すような調子の裏に、気遣いが感じられた。御典と御鈴にかかると、何でもお見通しなのだ。心の中で言った悪口まで聞かれるから、私はこの二人が怖い。


「実は、呼び出してほしい人がいるの。派遣先の高校の旧校舎にいる女の霊で」


「黙って。今、霊視してるから。運動場の上手にある建物ね。裏に林がある。……ああ、屋根裏があるのね。分かった。話を聞いたらまた電話するから」


 一方的に切れたスマートフォンをテーブルの上に置く。


「すげー」


 確が詰めていた息を吐いた。


「鳥肌が立った」


「これは、本物だな」


 神主と顔を見合わせ頷く。こらこら、君たちの目の前にも本物がいるのですが。


 知らないうちにうつらうつらしていたらしい。真っ暗な山道を、獣のように駆け抜ける夢を見ていた。足を動かしている感覚が無かったから、鳥のように飛んでいたのかもしれない。どこへ続くとも知れない道を、ただひたすら突き進んでいく夢だった。

 テーブルの上でスマートフォンが震えていた。慌てて飛び起きる。


「もしもし」

「あんた、寝てたでしょ」


 従妹の冷たい声に胃の腑が縮まる。


「御鈴? ごめん、なんか分かった?」


「私は御典。今から話すから、スピーカーにしたら?」


 言われた通りにする。ソファーの中で、ゴソゴソと確と神主が身を立て直した。気まずそうに髪を手櫛で整える。一気に眠気が吹き飛んだようだ。


「彼女の名は千姫。安政四年の生まれ。東京神楽坂辺りに住んで、新興宗教の教祖の立場にあったようよ。当時、彼女の神通力はかなり有名だったみたい。お忍びで通ってくる大物政治家もいたらしいわ。信徒も大勢いて教団は勢力を伸ばしていた。で、ここからが本題。ある日、噂を頼りに遥々吉野の長瀞村郷長一家が訪ねてきた。娘の病気を治すため祈祷を受けたいと言って。病気というのは表向きで、ようは憑き物落としを頼みに来たのね。千姫が言うには、それはみだりに触ってはならないものだったけど、娘を見殺しにできなくて、仕方なく引き受けたらしい。でもその時、彼女は何か重大な過ちを犯してしまった。死人が出たと言っていたわ。その時のこと、今でも悔やんでいる」


「重大な過ちって? 何をやらかしたの」


「分からない。彼女、プライドが高いのよ。自分の失敗は口にしたがらなかった。でも償いのため教団を解散し、素性を隠して梁瀬村に移り住んだの。いい? これから彼女の言葉をそのまま伝えるわよ。二度と繰り返さないから、よく聞いて」


 神主が慌ててペンと紙を取り出し、走り書きする。


「長瀞村にはスソの御社ありて邪神を祀る。人々、サバエナス神と呼ぶ。人血を欲する神なれば、生ける者を捕り伏せ、その首を奉じる」


 ごくりと生唾を飲み込む音がした。ダムで私たちを襲った式が、すぐ背後に立っているような寒気を覚えた。あれは生贄になった人たちなのだろうか。


「これ以上は口にするのもおぞましい。分かったでしょ。あんたが相手にしてるのは、魔物とはいえ神格を与えられているの。しかも生贄を要求する。一筋縄じゃいかないわよ。覚悟はあるの?」


「腹を括るしかないでしょ」


 聞こえたのは、自分のものじゃないみたいに掠れた声だった。


「何か、クロウのこと言ってなかった?」


「いいえ、何も」


 やっぱり。そう呟くには、落胆が大きすぎた。


「私もクロウ様に呼びかけてみたけど、応えて下さらなかった」


 心配してくれているのが胸に届く。姉妹のように仲良かった頃もあったのだ。惨めな気持ちが少し救われた気がした。


「そっか。サンキュー。それから、嫌な思いさせてごめん」


「……あんた、死ぬんじゃないわよ」


 そう言って、御典は一方的に電話を切った。


「ふん、カッコつけちゃってさ」


 強がって息まいてみたものの、薄暗い居間の天井に空しく響いた。放心状態から回復した神主が、メモした紙を取り上げる。


「スソの御社は呪詛の御社ってことだろう」


「今までのやり口からして、間違いないと思います」


「サバエナス神だが」


「何かご存じですか?」


「記紀に登場する原始の邪神だ」


 紙の余白に、『蠅聲す』としたためた。


「普都の大神が天下るまで、葦原中国は原始の世界で、磐や草木までがよくものを言う荒れた土地だった。夜は蛍火のかがやく神、昼は蠅聲す邪しき神がいたとされる」


「草や木が喋ったの?」


 思わず聞いた私に、神主が苦笑する。


「いや、記紀は大和王国が国家の起源を正当化するために作った歴史書だ。国家統一に不都合な事実には冷たい。草木がもの言うとは、くさぐさのもの、つまり名もない庶民が不平不満を言って逆らうということ。蛍火のかがやく神や蠅聲す神は、その人たちが信じた神。つまり大和王権にとっての邪神だ」


 心なしか神主が楽しそうなのは私の見間違いだろうか。


「ところで、二人は伊弉冉が火の神を産んで神去った後、伊弉諾が黄泉の国へ会いに行く話は知ってるか?」


「伊弉冉に姿を見てはいけないと言われたのに、見てしまうやつですよね」


 私も知っていたので頷く。


「古事記によると伊弉諾が見てしまった妻の亡骸は、ウジタカレコロロギテと表現されている。つまり腐敗した骸に湧いた蛆がコロロク、まあ、ざわざわと咽ぶように鳴いている、とでも言おうか」


 耳の奥で、再び不快な音が蘇る。あれは腐肉に蛆の湧き群がる音、そして羽化した蠅の羽音なのだろうか。


「恐ろしい妻の姿を見てしまった伊弉諾は慌てて逃げ出す。怒った伊弉冉は黄泉平坂まで追いかけてきて、あなたの国の人間を毎日千人殺そうと言う。それに対して伊弉諾は毎日千五百人の産屋を建てようと返すのだが、これぞ神同士の呪詛合戦。伊弉冉が最後に産んだ神こそ呪い神、蠅聲す神であったといえるのではないだろうか」


「それが長瀞村とどう関係あるの?」


 私の冷たい視線を受け、神主は慌てて顔を引き締めた。


「問題は、なぜ長瀞村の人たちが蠅聲す神と呼んだかですね」


 確が窮屈そうに足を折り曲げ、身を乗り出した。


「私が思うに……」


 神主は私たちが頷くのを見て話しだす。


「サバエは稲につく害虫、ウンカを指すこともある。長瀞村は平地も少なく稲作には不向きな土地だが、たつきを繋ぐのに必要な作物は作っていただろう。そして、鉱山には事故がつきものだ。不遇な死に方をしたものが大勢いたはずだ。そんな時、害虫が大発生し作物が壊滅状態になったらどうだ。村の人たちが、死者の呪いと虫害とを結びつけて考えるのは自然の成り行きじゃないかな。つまり鉱山で事故死した者たちの亡骸から発生した蛆が羽化し、村を飛び回り呪いをまき散らしたと。ま、ただの思い付きだが」


 謙虚な言葉とは裏腹に、悦に入った口調は隠しようもない。


「サバエという音が亡骸から湧く蛆を想起させるのは分かります」


 確と神主は考えを言葉にすることで感情の整理ができる質なのだろう。


「だけど稲作は不向きな土地だとさっきおっしゃいました。実際は粟や稗を作っていたとしたら、害虫はウンカではなく、蛾の幼虫やバッタだったかもしれない。だとするとその理論は当てはまらなくなります」


 神主が口を開きかけるのを遮って、立ち上がった。


「名前なんてこの際どうだっていい! 村に災いをもたらす魔物だったからこそ、神として祀り上げ、鎮めるしかなかったんだから!」


 だが私は怒ってないと不安に押しつぶされそうになる。


「問題は、どうやって倒すかでしょ。曲がりなりにも相手は神。だから堂々と呪詛を仕掛けてきたんだわ。神相手に呪詛返しは効かないから。それに神を祓うなんて話しは、古今東西聞いたことが無い!」


 こめかみに拳骨をぐりぐりと押し当てる。


「クロウなら、クロウだったらどうするのか、考えろ!」


「まあ万琴、そう悲観するな。三人寄れば文殊の知恵というだろ。私は明日というか今日、国会図書館に行って色々調べてくる。千姫と、死人が出たという事件についても何かわかるだろう」


「国立国会図書館の関西館へ行くんですか? いいなあ、俺も行ってみたかったなあ」


「また次回な。明日は学校だろ」


「残念ながら。おい、そんな状態で名案なんて浮かぶか。もう寝るぞ」


 二人ともさっさと立ち上がり、それぞれの部屋へ向かう。頭を抱え込んだまま見送った後、静まり返った居間にぽつねんと立ち尽くした。


「何さ二人とも。やる気あんの?」


 ごちて時計を見ると午前二時をまわっている。


「仕方ないな。私も寝るとするか」


 部屋を出たとたん、大欠伸が出た。

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