オペ

JEDI_tkms1984

オペ

 激務に次ぐ激務で休む暇もなかったドクターは、わずかなスキマ時間を使って全力で休養していた。

 医者というものは、人生の大半を捧げなければやっていけない。

 覚悟はしていたのだが、ここ数日は特に忙しい。

「ドクター!!」

 看護師が駆け込んできた。

 またか、と彼がつぶやく暇もなく、

「急患です!」

 この頼りになる助手は短すぎる休憩の終わりを告げた。

「分かった、すぐ行くわ」

 術衣を羽織りなおし、戦場へと赴く。

 幅を広くとられた通路を、他の医者や看護師たちがひっきりなしに往復している。

 せわしないがこれが日常だ。

 そしてこの日常こそがドクターに力を与えてくれる。

 誰もが誰かを救うために戦っている!

 自分もその中のひとりである、という自覚と自負が――。

 彼をこの現場につなぎとめているのである。



 手術室では準備を終えたスタッフたちが彼の到着を待っていた。

「すみません、ドクター。お休みのところを」

「患者のためや。そんなん言うてられへんわ。きみらこそ休憩抜きで大丈夫なん?」

「私たちも気持ちは同じです」

「そっか……そやな。おおきに。ウチら、最高のチームやわ」

 患者が運び込まれた。

 若い男だ。

 本来なら施術の説明をして麻酔を打つ――という流れだが、患者が錯乱状態であったためにやむなく眠らせている。

「ひどい有り様やな……」

 ドクターはつぶやいた。

示指じしおよび中指ちゅうしの末端部および周辺部位に、外的要因による皮膚の剥離――か。これ、けっこう長丁場になるで? 準備できとうか?」

「はい」

「よっしゃ。ほな始めよか。今から患者のさかむけの治療や」

 ドクターが鼓舞するように言った。

 だがスタッフたちはきょとんとしている。

「どないしたん?」

「さかむけって何ですか?」

「さかむけはさかむけやん。ほら、指んとこのこういうやつ」

「それ、”ささくれ”ですよ?」

「は? なに言うとん。昔から”さかむけ”って言うんやで?」

「いえ、私は小さい頃から”ささくれ”でしたよ」

「ぼくも」

「わたしも」

「あ、私もです」

「ぼくもですよ。”さかむけ”って言ってるのはドクターだけみたいですねw」

「なに笑とんねん。ほんま関東モンはこれやからな! こんな話、どうでもええわ! 早よ始めるで!」

 ドクターは苛立たしげに鉗子を手に取った。

「あ~あ、ドクター、すっかりささくれちゃいましたね」

「やかましいわ!」






   終

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