27.気づけたのなら優秀ですよ
夫と宣言したアンネリースの態度に、ウルリヒは喜んだ。他国を圧倒する傭兵団を組み込めば、周辺国は容易に戦争を仕掛けられない。
若く美しい女王の国、それもムンパールだった豊かな海と街付きだ。自国に取り込みたいと願う王侯貴族は、こぞって仕掛けてくるだろう。その半数を、猛将ルードルフの名で避けられる。
「そんなに有名なのね」
驚いた顔を見せるアンネリースに、ウルリヒは彼の武勇談の幾つかを語った。兵力で不利であっても、後手に回った状況からでも、天性の戦上手は挽回してきた。大袈裟に聞こえるだろうが、すべて事実だ。
有名な逆転劇となったジェイド国の戦いも、ルードルフが絡んでいた。驚くアンネリースから目を逸らし、ルードルフは居心地悪そうに窓の外を睨む。誇っていい戦歴を、彼は口にしなかった。
不器用で真面目、そう評したウルリヒの言葉を思い出す。確かに裏表のない人だわ。アンネリースの側近になると決めた二人のうち、一人は策略の天才だ。ジャスパー帝国を支配し、その結果を未練なく捨てた。潔さも兼ね備えた稀代の策略家だろう。
ウルリヒの手腕を信用して頼っても、人柄は信頼できない。裏切られる心配をしながら、常に試されながら関係を築く相手だった。その点、ルードルフは裏がない。実直で忠実な犬のような存在だ。
「すべて手のひらの上で、気に入らないわ」
ルードルフに私を下賜した理由は、これね。未来を読んで、私が選ぶ道に柱を立てた。もし女王にならなければ、彼は私を妻として庇護する。今のように国主を目指すなら、懐刀として役立ち、心を預けても受け止める度量を示す男だった。
まるで預言者のようで、胡散臭いウルリヒに悪態をついて睨む。ルードルフは眉を寄せたが、何も言わなかった。
「気づけたのですから、あなたは優秀なのですよ。女王陛下」
不満をぶちまけたアンネリースへ、ウルリヒは黒い笑みを浮かべた。腹心ではなく敵のよう。ただ有能な彼を使いこなせれば、大陸の国家統一も夢ではない。
兄は協調路線を選んだ。各国に呼びかけ、手を取り合って平和を目指す。でも私は知っているわ。兄の理想論は、どうしたって砕かれるの。
隣の誰かより良い暮らしがしたい、高価な物を手に入れたい。そんな欲が人を形作る世界で、善人は踏み躙られてしまう。ならば兄の理想を、私は別の形で叶えましょう。人が人を裏切るなら、その前に手を打って芽を摘めば終わりだった。
国々を一つにまとめ、戦う理由をなくす。叛逆を許さず、公明正大な政を行う。兄以上の理想論だわ。外見の美しさだけで、真珠姫と呼ばれたのではない。彼女の稀有な才能と膨大な知識も、その称号の一部だった。知らない者は誤解し、上部だけで判断したけれど。
「ウルリヒ、ルードルフ。私は国の垣根を取り払い、戦いを排除するわ。それまで支えてちょうだい」
宣言に、二人は静かに深く頭を下げた。
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