第31話 揺らぎ
「レオも気づいていたんだろ?
ここ数年で世界が変わっていったのを。
街には闇ギルドの冒険者や犯罪者が溢れ、
人攫いや犯罪が活発化した。
マーブルシティでは禁止されていた奴隷制も
再開して、女子供は毎日怯えて暮らしている。
それを弾圧してくれる組織は僕らのギルドしかなかった。
けど、次第にマーブルシティでは狼牙震撼の勢力が増し、
彼らの意思に従うギルドばかりとなり、
邪魔者の僕たちはマーブルシティを
追い出されてしまった」
確かに。俺はずっと無法大陸にいたが、それでも
街がより物騒になっていくのを肌で感じていた。
だが、あのホーリー・ガーディアンズが
マーブルシティから追い出されるほどに
餓狼が力を蓄えていたなんて。
『もっと早く戻ってきてほしかった』
フェアリンがさきほど口にした
その言葉の意味を俺はようやく理解できた。
「すまん……俺はそんなこと何も知らないで……
ただ……自分のことばかり考えて生きていた」
「ううん……しょうがないよ……
きっとレオの方が大変だったんだろうし。
僕こそさっきは熱くなってあんなこと言ってごめんね。
本当に生きていてくれてよかったよ」
「話しているとこ悪いんだが……」
そのとき、完全に回復したジャックが介入してくる。
「俺はそろそろ行く」
「行くってどこにだよ。
エルフィアを襲撃した奴らのとこにか?」
「当たり前だ。
このままみすみす同族を連れ去られてたまるか。
お前たちは命の恩人だ。
礼を言う。ありがとう。
特にレオとアルテミス。
お前たちの事情を知らずに
牢屋にぶち込んでしまって悪かったな。
お前たちは自由だ。エルフィアから脱出してくれ」
「……ジャックって言ったっけ?
まさか、一人で行くつもりなの?」
フェアリンがそう尋ねる。
「それ以外に他ないだろ。
もうエルフィアの戦士も
俺しか残っていなさそうだしな」
それを聞いてフェアリンたちはロナとケイリーに
目を移す。
「フェアリン様……まさか加勢するつもりですか?」
「わ、私たちが加勢したところでどうにも……
ならないかと」
その二人の弱気な発言に、
本当にホーリー・ガーディアンズが
弱体化したことを思い知る。
「……レオ」
続いて、フェアリンは俺を見た。
俺がそれに答えを出そうとした瞬間だった。
「お前たちのその気持ちだけで十分だ。
お前たちは逃げろ。
相手はあのレッズだ。
お前たちまで戦って死ぬことはない」
その言葉に俺の思考は停止した。
「レッズ……だと?」
俺以外にもフェアリンたちも動揺していた。
「まさかレッズってあの?」
「ギルド序列17位。烈風のレッズ。
ここ数年で頭角を現してきたギルドですね……
中でも特筆すべきはギルドマスターであるレッズ。
若くして今年のSランク試験に合格した実力派です」
「彼はそんなに悪いイメージはなかったんだけど。
まさか、人身売買に手を出していたなんて」
フェアリンたちが何かを話しているが
俺には何も耳に入らなかった。
レッズ……
その名を聞くだけで、
除名されたあのときの記憶が蘇る。
勝てるのか……? 俺が?
あのレッズだぞ?
俺が一番知っているじゃないか。
「レオ? 聞いてる?」
あいつが天才だって。
あいつには絶対敵わないって。
何度も何度も思い知ったじゃないか。
「カメン!!!!!」
アルテミスの呼び声にはっと我に返った。
見れば、皆が俺の顔を不安げに覗いている。
どうするんだ?
そんな顔をして、みんなが俺の言葉を待っていた。
「……お、俺は……」
どうすればいい。
勝てるわけないだろ。
あのレッズに。
俺なんかが。
そのときだった。
がしっとアルテミスが俺の手を握った。
「アルテミス?」
「不安にならないで」
そうアルテミスが言った。
「カメン。不安にならないで。大丈夫」
幼い少女が俺にそう言ってくる。
なぜだか、その言葉がすごく心強くて、
乱れた心が落ち着いていく。
「レオ。どうしたの?
もしかして、レッズと知り合い?」
フェアリンのその質問にどきりと心臓が鳴った。
「レッズって名前を聞いた瞬間、
レオの顔色が悪くなったから」
「……ああ、そうだ。
俺とレッズはもともと仲間だった」
俺は包み隠さず、俺の過去をフェアリンたちに話した。
「……そうだったんだ」
フェアリンは噛みしめるようにそう口にした。
「もしかして、レッズが怖いの?」
そのフェアリンの言葉が心に突き刺さる。
「お、俺は」
その直後、
「いつまで過去に縛られてるんだよ!!!」
フェアリンの怒りのこもった声が森林中に響いた。
ロナとケイリーはフェアリンのその怒声に
驚いている。
「何年も前の話だろ!?
レオが弱かったのは昔じゃないか!
今は違うだろ!
さっき自分がここにいる
冒険者を倒したの忘れたの!?
もうあの頃の弱かったレオはいないんだよ!」
その言葉が俺のもやもやしていた
気持ちを晴らしていく。
「しっかりしなよ!!
今の君はレッズの仲間じゃないだろ!!
グレイスの仲間だ!!!」
「で、でも……もうグレイスさんは……」
気が付けば、俺の声は震えていた。
そう。もういないんだ。
俺を導いてくれた人は。
グレイスさんはもう……
「死んだよ!!!!
けどね! 彼の意思は消えてない!!
彼の思いは今も生き続けている!!
今僕の目の前に!!」
そう言って、フェアリンは俺を指さした。
「……一体……何を言って……」
「伝えたかったんだ。
グレイスの言葉を。
ようやく伝えることができる。
レオ。よく聞いて。
グレイスが君に託した言葉を」
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