第29話 救出
返り血を浴びて真っ赤に染まった俺を見て、
フェアリンたちは絶句していた。
その表情には微かに恐怖がにじみ出ている。
そんな中、アルテミスだけが駆け寄ってきた。
「レオ……大丈夫?」
「ああ、怪我はしてない。
もう敵を倒したから安心だ」
「そうじゃなくて……悲しそう……」
「……え?」
アルテミスの言葉の意味が分からなかった。
悲しい? そう見えたのか? 一体どうして。
「レオ……」
「どうしたんだよ。フェアリン。
お前もそんな暗い顔して」
「ううん……レオが強くなってることに驚いたんだ。
あと……ここまで強くなるためにレオが
どれだけ自分を追い詰めてきたんだろうって……
ちょっと心配になっただけ」
「追い詰めてきた……か……」
たしかに。俺のこの数年間は
そうだったのかもしれないなと……
アルテミスの頭を撫でながら思った。
そのとき、意識を失っていたはずの
ジャックが息を吹き返した。
それを見て、慌ててフェアリンが
回復魔法をかけ始める。
しばらくして、ジャックは完全に
意識を取り戻した。
「お、お前ら……なんでここに……
というか、他の奴らは誰だ!?」
俺とアルテミスを見て一度、
フェアリンらを見て二度驚く。
「こいつらは俺を引き取りに来た
ホーリー・ガーディアンズのフェアリンたちだ。
お前が呼び寄せたんだろ?」
「……フェアリン? 聞いたことがあるぞ。
確か正体不明のSSランクのヒーラーがいると。
まさか……それが妖精だったなんて」
「僕のことは内緒にしてね。
それで助けてあげたことは
チャラってことにしてあげる」
「ああ、すまん。本当に助かった。
けど、なんでお前たちがここに」
「俺がこのフェアリンたちに連行されるところで
騒ぎに気が付いたから駆け付けたんだよ。
そしたら、これだ。奴隷狩りにあったんだろ?」
その言葉に、ジャックは思い出したかのように
顔を歪めて泣き始めた。
「俺は……俺はまた……誰も助けてやれなかった……
自分の娘も……守れなかったのに……」
まだこのジャックと会ってそんなに経っていないが、
あまり人前で泣くような奴には見えない。
それがここまでむせび泣くなんて。
それほどまでに今のジャックの精神は
ぼろぼろということか。
落ち着け。そう言おうとしたが、その前に
「よしよし」
先にアルテミスがジャックの頭を撫でた。
それにジャックはようやく自分が情けなく
泣いていたことに気が付いたようで、
必死に涙をふく。しかし、それでも涙は溢れてきた。
「俺は……前にも……前にも助けられなかった……
娘だった。あのときは、娘に関心なんてなかった。
なのに、あの子はそんなくそみたいな俺のために……
チルドの花を取りに行ってくれてたんだ。
それで……あの子は……奴隷狩りにあった……
もう……何年も前になる……あれから……俺は……
もう二度とこんな悲劇を起こさないようにと
努力してきたつもりだ。
だが、それがこの様だ……また失った。
ははは……なんだったんだろうな。
俺のこの数年間は……
きっと娘に冷たくしてしまったから
罰が当たったんだ。
もう二度と……娘に会えないに、それでも
探し続けていた俺を見て神様は
嘲笑っていただろうよ」
精神が崩壊しているジャックに
フェアリンは魔法をかける。
次第にだが、ジャックは正気を取り戻し始めた。
「すまん。外部のお前たちに何度も助けられて」
「いいよ。僕たちホーリー・ガーディアンズは
エルフィアとの貿易で君たちに長年お世話になってるから。
こういうときぐらい恩を返さないと」
「本当に助かる……」
ジャックはフェアリンに礼を言いながら、
ふと辺りを見渡して口を開いた。
「……ところで……この冒険者たちは
お前たちが倒したのか?」
「そうだよ。僕たちじゃなくて
レオが一人でやったんだけどね」
その言葉にジャックが
目を点にしてこちらを向いた。
「まさか……いや……しかし……
あのアブソリュート・ルーラーズの、しかも
グレイスパーティーのメンバーなら……
それも可能なのか?」
「事実ですよ。本当にこの人強かったんです」
と距離をとったロナが言った。
ケイリーも側にいる。
あの二人には完全に怖がられてしまったようだ。
「知ってるんだな。グレイスさんのことを」
「当たり前だろ。俺ももとは
冒険者だったんだから。
冒険者じゃなくても彼の名前は誰もが知ってる。
あの名前とギルド名が書かれた旗を
エルフィアに置いていただけで、
このエルフィアの平和は保たれていた。
一度だけ会ったことがあるが、
すさまじいオーラを纏ったドワーフだった」
「ああ。本当にグレイスさんはすごい人だったよ」
そうしみじみと言ったときだった。
「せめてグレイスが亡くなった後も、
アブソリュート・ルーラーズが
存続していれば……こんなことには」
ジャックの口からこぼれた言葉に衝撃が走った。
いや、もうあのギルドがなくなっているいことは、
薄々は気づいていた。
けど、もしかしたら、まだ残っているんじゃないか。
そう期待もしていた。
知りたくなかった。
もうあのギルドがなくなっていることが。
知るのが怖かった。
「……な、なあフェアリン。
ということは……
もうアブソリュート・ルーラーズは
なくなったのか?」
その言葉にフェアリンはゆっくりと首肯した。
じーんと胸に痛みがくる。
フェアリンは俺に再会したとき言っていた。
あれから世界はめちゃくちゃになったって。
もういい加減、受け入れなければ
ならないのかもしれない。
グレイスさんを失った世界がどう変わったのか。
「フェアリン。教えてくれ。この四年間のことを。
今、世界がどうなったのかを」
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