第28話 反撃

外に出ると俺は絶句した。


辺りから火が上がり、

地べたには多くのエルフが倒れている。


「何が起きているんだ……」


そう言葉を漏らすとアルテミスが

不安げに俺の服を掴む。


「たぶん……奴隷狩りだよ……」


フェアリンがそう答えた。


「エルフィアで奴隷狩りだと……?」


あれほどの厳重な結界を敷いていたのに。

護衛団もたくさんいたし、一体どうやって。


「フェアリンさん! 今すぐ治療を」


ロナが近くに倒れているエルフに駆け寄って

助けを求める。


「そいつはもう死んでいる」


代わりに俺が答えた。


「ここにもう生きてる奴はいない」


「そ、そんな……どうして貴方に

それが分かるんですか!」


「信じなくてもいい。

時間を浪費したいのならな」


そう言って、反論するロナを横切る。


「ええ……何て冷徹なんですかあの人!」


ロナがフェアリンにそう言う。


「レオ……」


フェアリンは少し驚いた顔をした。


「もう死んだエルフよりも、

まだ息のある奴を助ける方が先だろ」



俺の言葉にフェアリンは頷いた。


そこから燃え盛る木々、荒らされた集落。

そして、そこら中に転がる死体を尻目に

微かに見える生存しているエルフの元に駆ける。


「は、速い……」

「私もう……」


背後からケイリーとロナの

疲れた声が聞こえてくる。


アルテミスはがっちりと

俺の背中にしがみ付いていた。


フェアリンは付いて来れているのだろうか。

そう思ってちらっと後ろを向くと、

フェアリンも俺の肩にしがみ付いていた。


「フェアリン大丈夫か?」


「うん! 寧ろ、嬉しい」


「嬉しい? 何が?」


「だってあのレオがこんなにも

速く走ってるんだもん。

あの頃は」


そのとき、俺はその場に制止して隠れた。


後ろから追いかけてきたケイリーとロナが

不思議そうに、


「どうしたんですか?」


と訊ねてくる。


「この先に敵がいる。

数は12人。全員冒険者だな。

その中央に瀕死状態のエルフがいる」


そのエルフがあのジャックであることも

既に気づいていた。

寧ろ、あのジャックとかいう強い

エルフだったから、遠くでもその気配を

感知することができた。


俺たちは気配を消して彼らが

視認できる距離まで忍び寄る。


見れば、複数人の男が血だらけの

ジャックを痛めつけているところだった。


あいつらが奴隷狩りを。


「12人か……フェアリン様を除いて

俺たち三人で相手できるか?」

「で、でもここで私たちがやらないと……

あのエルフさんが殺されてしまいます」


ケイリーは魔法書を取り出し、

ロナは弓を構える。


「と、とりあえず、レオ……って言ったよな。

双剣を持ってるってことは盗賊なんだろ?

今から俺があいつらの中央に魔法を放つ。

その後、混乱した冒険者たちの中から

あのエルフを助け出してくれ」

「援護なら私たちに任せてください」


そんな彼らの提案を


「いや、いい」


と一蹴して、アルテミスをロナに預ける。


「この子を守っておいてくれ」


「……え? 

まさか、一人で乗り込むつもりですか?

相手の強さも分からないのに」


「……カメン」


ロナとアルテミスが不安げに見てくる。


「レオ、流石に無理だよ。

僕の強化魔法だけでも」


「アーチャーが一体、剣士が二体、戦士が一体、

盗賊が五体、魔法使いが二体。サモナーが一体か」


「レオ?」


フェアリンが俺の名前を呼んでいる気がする。

だが、集中し過ぎてそれどころじゃなかった。


「ヒーラーはなし。

殺せば終わりだな……

問題は盗賊が逃げて応援を呼ばれることだけか」


「お、おい聞いているのか」


「レオ。しっかり僕の部下の話を」


「フェアリン」


「なに?」


「俺だってこの数年、

ただ惨めに生きてたわけじゃない」


そう言い残して、俺は冒険者たちの元に飛び込んだ。


「おいおっさん。 聞こえてるのか?」

「痛めつけ過ぎだ。

死んでるだろ」

「いや、まだ呼吸をしている。

生きてるぞ。そろそろ遊んでないで殺せ」

「はいよ。あーあ。こいつが来なければ、

まだあのエルフの女共と遊べたってのによ」


そう言って、一人の冒険者が

手にしていた大剣を振り上げる。


瞬間、俺はそいつの首を切り落とした。


その時間はきっと常人にすれば、

視認できない程であっただろうか。


現に、こいつらは仲間の首が地面に落ちるまで

状況を理解できていなかった。


それから死んだ仲間を見て動揺した声を

上げるまでに五体。

計六体の冒険者の血を舐めた己の双剣をぶんと振って、

血を吹き飛ばす。


辺りに血潮が飛び、腰を抜かす冒険者もいた。

彼らには、突然六人の仲間の首が飛んで

一斉に血が噴き出したようにしか

見えていないだろうか。


「誰だ! 取り囲め!」

「俺達に手を出してただで済むと思うなよ!」


そんな中でも怖気づくことなく

武器を構える者が二人。


「お前はだいたいBランクか。

そして、こっちの方がAランク。

けど、そんなに序列は高くないな」


俺がそう言うと、彼らは動揺した。

どうやら正解のようだ。


「他のC、Dランクレベルの冒険者に比べたら、

お前ら二人は突出している」


「あ? なんだ? 

褒めたところで今更助からないぞ?」


「助けてもらいたくて言ったんじゃない。

本当にそう思ったから言ったんだ。

お前らは強いって」


「な、なんだこいつ?」

「構わねえ。さっさと、殺すぞ」


片方の冒険者が剣を抜いて駆け寄って来る。

そして、その後ろには魔法書を手に取ったもう一人。


そんな中、俺はずっと二人の体の動きを見ていた。


「だが、お前ら程度の冒険者は

無法大陸には腐るほどいるぜ」


俺がそう言った直後、二人の体が静止した。


当然だ。

もう切ったのだから。


俺はこの数年、死に物狂いで生きてきた。

いろんな化け物とも対峙してきた。


モンスターだけではない。

冒険者ともだ。

どこのギルドにいるのかもわからない

くそみたいに強い冒険者と命を奪い合ってきたんだ。

そんな中で一つ分かったことがある。


それは俺には驚異的な

スピードが必要だということ。


俺は観察眼を鍛えまくって、

相手の体の動作を見て、次の動きを

読むことができるようになった。

といっても、三秒先ぐらいまでしか予測できないが。


それでも、大きな利点になる。

だが、次の一手を予測できても、

その隙を突くスピードがなければだめだ。


そう思っていたとき、

冒険者たちのとある話を聞いた。


無法大陸のあるダンジョンに、食えば

俊敏力が上がるモンスターがいると。

だが、それはとてもレアで発見するのも

難しいらしい。


そのとき、はっとした。

俺にはこの目があるじゃないかと。


それから約二年間。

俺はそのダンジョンに籠り、

観察眼でそのモンスターを発見しては討伐して

喰らい続けた。


誰にも負けないという意志で。

ひたすらに。


仮に今殺した冒険者の剣士。

Aランク冒険者の方だ。

そいつの俊敏力を数値化すると俺は約1000と見た。

これは俺が今まで見てきた冒険者の中で

どれくらいに位置するかを独断で決めてるだけだ。


そして、俺の場合、

二年もダンジョンに籠り続けたおかげで、

俺の俊敏力の数値化は約3万まで跳ね上がっていた。


「な、なんだよこいつ!!!」

「だ、誰か助けを呼んで来いよ!」


「もう盗賊は殺してるからそれは無理だ」


その俺の言葉に残りの冒険者が

全員腰を抜かしてしまった。


そんな中、ある冒険者が俺のことを指さす。


「おおお、お前! その仮面!

思い出した! 最近奴隷商人を襲ってるとかいう

仮面の男だろ!」


どうやら、俺は悪い界隈でも

それなりに有名になってしまったらしい。


「な、なあ頼むよ!

俺らは命令されていただけなんだ!」

「そうだ!だから、助けてくれ!」


「命令された?」


「そうなんだよ!」


「でも、お前らそこら辺にいる

エルフを殺したんだよな?

その事実は変わるのか?」


その言葉に冒険者たちは真っ青になる。


「お前ら全員。

まともに殺してもらえるとは思うなよ」

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