第27話 解放
フェアリンはその小さな体で檻の中に入り、
俺の胸に飛びついた。
その様子を見て、
ロナとケイリーは目を点にして驚いた。
「危ないですよ! フェアリン様!
今すぐ彼から離れて!」
「そうです!」
ロナがすぐさま背中に背負っていた
弓を手に取って弦を引いた。
「待って! ロナ! レオは大丈夫!」
そう言って、フェアリンは二人を静止した。
「今から僕がレオの過去を説明する」
それからフェアリンは事細かく、
俺がグレイスを殺害した犯人の
濡れ衣を着せられたことを説明した。
「そんな……ありえない」
「そうですよ! フェアリンさん!
その凶悪犯に騙されてます!」
この二人の反応は当然だ。
見たところ、この二人は
まだ冒険者になって三年も経っていない。
冒険者になった頃から、グレイスさんを
殺したのは俺と教えられてきたのだろう。
そんな二人にフェアリンは、
「僕がそんな嘘ついて、何の意味があるのさ」
と、聞いたこともないくらい冷たい言葉を投げた。
それに二人の訝しんでいた顔が真っ青になって、
「フェ、フェアリン様が怒った……」
「じょ、冗談です! 私!
フェアリンさんの言うこと信じます」
と背筋を伸ばした。
「にしても、ここの護衛団からレオの
名前を聞いたときはびっくりしたよ。
まさか、生きてるなんて」
「……まあ……フェアリンとグレイスさんに
助けてもらった命だし、
そんな簡単に捨てるわけには
いかないからな……」
本当は申し訳なかった。
こんな惨めに生きてきた
俺をフェアリンに見せたくなかった。
いっそのこと、
「あと、一つ言いたいことがあるんだけど」
「え?」
「ばかあ!!!!」
叱ってほしかった。
と、思っていたとき、
フェアリンが怒鳴り声を上げた。
「今までどこで何してたんだよ!
僕! 心配してたんだよ!
それに! あれから世界はめちゃくちゃになって……
もう皆大変だったんだ!
生きててくれたのは嬉しいけど!
もっと早く戻ってきてほしかった!」
……俺は正直、この言葉を待っていた。
罪悪感でいつも眠れなかった。
ようやく、謝罪ができる機会に恵まれた。
「すまなかった……フェアリン……」
「いいよ!」
「いいのかよ……」
あっさりと許してくれたことに
拍子抜けしてしまった。
「うん! 死んでたら許さなかったけどね!」
そう言って、フェアリンは檻の外に出る。
「なあフェアリン。あれから大変だったって
言ったけど、今世界はどうなってるんだ?」
「それはあと! 今はそれどころじゃないんだよ!
なんか外で騒ぎが起きてるの!
本当は僕達も加勢に行きたかったんだけど、
今はこの三人しかいないんだよね。
レオの存在が他に露見しないように
ルンベルには報告してないから、援軍も来ないし。
だから、先にレオを助けるべきかなって。
その分、レオには働いてもらうからね!」
そう言って、フェアリンは辺りをちらちら見渡す。
「フェアリン様。お言葉ですが、
先程の話が本当ならば、このレオという人は
あの伝説のグレイスを
倒したわけではないんですよね?」
「そうだよ。レオにそんなことできるはずない。
僕達のギルドメンバーなんてレオのことを
雑魚呼ばわりしてる人もたくさんいたくらい
弱かったんだから」
初耳なんだが……
「で、あるならば、彼を解放したところで
何の戦力にもならないのでは?」
「むしろ、足手まといになるかもですよ」
ケイリーとロナが不安そうに言う。
「そ、それは……」
フェアリンの動きが静止した。
フェアリンが不安げに俺の顔を見る。
「レオ……」
大丈夫?
そう訊ねてる感じがした。
「フェアリン。
牢屋と手錠の鍵ならそこの机の上から
二番目の引き出しだぞ」
それに三人が驚いた顔をする。
フェアリンはばっと引き出しを開けた。
「あった……」
「な、なんで……そこの牢屋から
見えないとこにあるのに」
ロナは不思議そうにそう言う。
「さあ、解放してくれ。
フェアリン」
そう頼むと、フェアリンは嬉しそうに
「うん!」
と檻と手錠の鍵を開けた。
「おい、アルテミス。
いつまで俺の後ろに隠れてるんだ。
お前も手錠外してもらえ」
俺がそう言うと、フェアリンたちが
来てから息を殺していた
アルテミスがひょこっと顔を出す。
「え? この子誰?」
フェアリンはぽかんと口を開けた。
「まあ……奴隷の子を助けて……
色々あって一緒に旅することになった。
俺がここにいるのもこの子のおかげなんだ」
そう言って俺はアルテミスの頭を撫でる。
「カメンはいいヒューマン!」
「フェアリンの前なら
本名で呼んでも大丈夫だ。
この妖精は俺の味方だよ」
「いい妖精?」
そんな俺らのやり取りを見ていた
フェアリンが慈愛に満ちた表情をした。
「レオはレオのままでいてくれたんだね」
「え?」
「ううん! さあ行くよ!
何が起こってるのかわからないけど、
助けに行こう!」
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