第26話 始動

燃え盛る集落と男たちの死体。

中には男子の死体もある。


そして、裸体にされ辱めを受ける

エルフの女たち。



「はあ~ずっとこの女どもを

抱きたかったんだよな~」

「夢叶ったわ」

「おい、次回せよ」


けだもの。


ここは地獄か。

こんなことが現実で堪るか。


こんな糞どもがいて許されるか。


ぶち殺す。


ジャックは鞘から刀身をむき出しにする。


突如、風の如く疾駆したジャックの刀身が

冒険者の頭部から股間に滑り落ちた。


「な! なにもの」


瞬間、目にも止まらぬ速さで

隣にいた冒険者に

横薙ぎが飛んでくる。


冒険者の首が飛んだ。


「おい! 気を付けろ!

こいつ強いぞ!」


さきほどまで無警戒だった

冒険者たちが武器を構える。


「ひゅ~強い奴がいるじゃん」


そのときだった。

どこからか男の声が聞こえた。


その直後だった。


ジャックの眼球の寸前に剣の切っ先が迫る。


危機一髪のところでジャックは躱した。


「これを躱すのか。強いな、おっさん」


目の前に現れたのは赤髪短髪の青年。


持ってる武器からして、同じ剣士か。


「レッズさん!」


近くにいた冒険者がそう口にする。


(こいつが……あのレッズか……)


二十年前とはいえ、ジャックもそれなりの

冒険者だった。

直ぐにこのレッズが只者ではないことを察して

間合いを取る。


「なら、これはどうかな」


瞬間、レッズからの剣が光る。


(これは!?)


ジャックも同じように剣を光らせる。


『斬光!』


互いに同じ言葉を口にして、

同じ動作で剣を振るう。


その剣から光の斬撃が飛び、

その斬撃が衝突した。


(これはSランクの剣士が覚える技だぞ!?

まさかこのレッズってやつは

Sランクなのか!?)


衝撃と同時に次の一撃に構える。


だが、その一撃は来なかった。


「なっ!? これは!?」


代わりに背後からの攻撃に

気づくことができなかった。


「これはアサシンの拘束技か……!?」


「ばーか。一対一でやり合うわけねえだろ。

少しは頭使えよ。おっさん」


レッズはそう言った直後、

鋭い斬撃をジャックに叩き込んだ。


「あああああああ!!!」


痛みで膝を突く。


ガンと容赦なく頭を踏んづけられ、

顔を上げることすらできない。


「貴様らあああ!」


「悪いなおっさん。

俺らは長いができないんだ」


そう言ってレッズは立ち去る。


「レッズさん。

このエルフどうするんですか?」


「お前らが始末しとけ。

俺はD拠点に戻って指揮を取る」


(くそ……くそ……また俺は失うのか……

同じ過ちをするのか!)


そのとき、シルフィーの顔が浮かぶ。


(シルフィー……)


そして、同時にさきほど捕らえた罪人と

その隣にいた子供のことを思い出した。


(あの子には悪い事をしたな。

何の罪もないのに捕らえてしまった……

俺がこの子は罪人と無関係だと

ギルドに説明するつもりだったのに。

いや、だが……あのギルドならしっかり

身元を確認してくれるだろうから、

あの子が共犯になることはないか。

烈風のレッズギルドには報告しなくて正解だった)



―――――――――――――――――――――――


あのジャックと呼ばれた中年エルフが飛び出して

30分後。


「来た」


俺がそう小さく口にすると、

隣にいるアルテミスが不思議そうな顔をしていた。


何が外で起こっているのかは知らないが、

先程から人の気配がなかった。


だから、この留置所に人が入ってきたのに

直ぐに気が付けた。


気配は3人。


一人は身長160センチの男のドワーフ。

もう一人は170センチの女のヒューマン。


最後の一人の正体を調べるために

観察に集中する。


なんだ……?


気配があるのに……見えない……

一体誰だ。


「こいつがあのニコラス・レオか……」


目の前に現れたドワーフの冒険者が

脂汗を滲ませながら言う。

意外に、若いドワーフだった。


「ケイリー先輩。

あ、あまり近寄らない方が良いのでは?

何をされるか分かりませんよ」


続いて現れたのは気弱そうな

黒髪ロングのヒューマン。


「馬鹿言えロナ! 

俺たちがこいつを連れて帰るのに

近づかないでどうする!」


どうやらドワーフの方がケイリー、

ヒューマンがロナと言うらしい。


「あ~最悪です……まさか私が

こちらに派遣されているときに

こんな凶悪犯が捕まるなんて」


「そんな弱音を吐くなよ。

これでも俺たちは

ホーリー・ガーディアンズなんだぞ」


その言葉に思考が停止した。


瞬間、さきほどの不思議な感覚を思い出す。


そういえば、以前にも

似た経験をしたではないか。


そう。

あのときも、洞窟の中で見えない何かに気づいた。

あのときと全く同じ感覚。


まさか……!


「どうしますか? フェアリン様」

「やっぱり私たちには無理ですよ、

フェアリンさん。応援を呼びましょう」


二人の冒険者が虚空を見詰める。

俺もその視線の先を追った。


「レオ……」


……いた。


そこにはあのときと変わらない、小さくて

可愛らしい妖精のフェアリンがいた。

彼女は震えた声で俺の名を呼ぶ。


「……フェア……リン?

なのか?」


そう訊ねると、彼女はにこりと笑みを浮かべた。

と、思った瞬間、その笑みが崩れて

涙を流し始める。


「……ああ……よかった……

生きていたんだね……」


そのフェアリンの噛み締めるかのような言い方に、

俺の心が熱くなる。


「……会いたかった……」


俺も思わず、そう口にしてしまっていた。



















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る