第24話 異変

「ニコラス・レオか……」


手配書を見てジャックも確信する。

手配書はまだ幼いが、あいつで間違いない。


「ど、どうしましょう……あのグレイスを

殺害したほどの冒険者を相手にしたら」


「まあ落ち着け。

いきなりここで暴れるようなやつじゃない」


「どうしてわかるんですか」


「さっき話してそう思った。俺の勘だ」


「いや、しかし……」


「とりあえず、市民には知らせるな。混乱を招く。

ギルドに知らせろ」


昔から奴隷狩りにあってきたエルフィアは

これ以上被害が出ないように

連合同盟に加入した。

おかげで、いくつかのギルドが

エルフィアに拠点を置いて

保護してもらえることになった。


「すべてのギルドですか?」


「いや、騒ぎになっても困るから、

知らせるのは一つのギルドでいい。

そうだな、あの一番信頼できるギルドにしよう」


―――――――――――――――――――――――


「おかえりなさい!」


帰還した冒険者たちのもとにエルフの

子供達が駆け寄る。


「お前ら元気にしてたか?」


「うん! 元気にしてたよ!

早く帰ってこないかなって待ってた!」


「ねー、遊ぼうよ!」


中心にいる冒険者に懐いた子供達を見て、

エルフの大人たちは微笑みながら、


「いやーすっかりエルフィアの英雄だな」


「彼らのおかげで、森の外に居る

モンスターたちがいなくなってるんですもの。

加えて、子供達とも遊んでくれるし」


「おかげで助かるわ~」


「ほんとね。ずっと彼らにいてほしいくらい」


一年前、エルフィアに襲来したホワイトドラゴン。

冒険者とジャックを含んだ

エルフィア護衛団は懸命に

このドラゴンの討伐を行った。


そこで最も活躍したのがこのギルド。

数年前までは名も知れていなかったが、

とあるリーダーの加入によって、

このギルドは急成長を遂げた。


「戻りましたか」


リーダーの帰還にギルドの者達が駆け寄る。


「ああ、それでどうだ?

他のギルドの動きは?」


「計画通り、数日前、序列20位のギルドが

このエルフィアから去りました。

ほとんどの仕事を我々が占領しているからです。

残るギルドはあと一つとなっております」


「そうか。一年かけてエルフィアの

信頼を上げたかいがあったな。

仕事がなければ、ギルドの運営ができない。

このまま、残るギルドも消したいとこだが、

それはどうも難しいな」


「はい。あのギルドに手を出すのは

まだ早いかと。しかし、あのギルドに

派遣されているのは三人。

計画を遂行する上では問題ないと思います」


「ああ、そうだな。包囲網も完成した。

そう簡単にエルフィアを行き来できないように

してきたから、外部に情報が漏れることはない。

援軍も来ないだろう」


「それでは……ついに計画を始動しますか?」


「ああ、今夜始める」


「かしこまりました。レッズ様」


―――――――――――――――――――――――


「お前はニコラス・レオで間違いないな?」


「ああ」


やっぱバレたか。


牢屋の前に立つ中年エルフの男にそう返事する。


「随分と素直だな。

それだけ余裕だということか?」


「……」


「それとも大人しくしておきたい

理由でもあるのか?」


俺は顔を伏せる。


その反応を見て、中年エルフは

何かを察した様子だった。


「どうやら……そこの子供が

それほどまでに大切ということか。

その子が俺たちに人質に取られるのが

怖いからだろ?」


「……」


「気持ちは分かる。

だが、お前は罪人だ。

それもとんでもないほどのな。

そんなお前と一緒にいたらその子が危ない」


たしかに。

このエルフの言う通りだ。


アルテミスは俺と一緒にいたら不幸になる。


「その子は元奴隷で、たまたま助けて、

一緒に旅をすることになった。

その証言が正しいのなら、

お前たちはここで別れるべきだ。

残念だが、俺はここに支部を置くギルドに

お前の存在を報告した。直に迎えが来る。

ここで提案だが、お前がもし大人しく

彼らに連行されるのであれば、

その子は俺が保護しよう」


その中年エルフの言葉に嘘偽りはない。

本当にこのアルテミスのことを

思って提案してくれている。


「なんでそこまでするんだ?」


そう訊ねると、中年のエルフは少し口を閉じて、

何かを考え込んだ。


「罪滅ぼしだ」


そう短く答える。


「で、どうするんだ?」


中年エルフは再度訊ねてきた。


「……そうだな……その提案を」


「嫌だ!」


すると、アルテミスの叫び声が俺の

答えを遮る。


「カメンと一緒にいる!」


「お、おい……アルテミス」


「嫌だ!!!!!」


その反応を見た中年エルフは少し顔を緩めた。


「まあ、お前のことは俺には

どうにもできないが、

その子のことは何とかしよう。

その子が同じ罪に問われないように、

ギルドの奴に事情を説明しておく」


そう言って、中年エルフが

立ち去ろうとした時だった。


「ジャック隊長!」


彼の部下が慌てた様子で駆け寄ってきた。


「どうした」


「たった今」


そこからは遠くて聞こえなかったが、

部下の報告を聞いた中年エルフは

俺に目もくれず、

外へと飛び出した。

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