第23話 エルフの隊長

尋問室に入るまで、

俺はこの周囲を見渡して情報を集めた。


なるほど。

この森中に魔法の結界が張り巡らされている。

これがあの中年の男が口にした

エルフ王の魔法ってやつか。


俺がまだ冒険者になる前に、

マーブルシティの図書館で

そんなことを書いていた本を読んだ覚えがある。


だいたい1000年前。

エルフはその美しさから、

他の種族の奴隷狩りに遭うことが多かった。


それを解決するために、

侵入者を感知するための

魔法の結界を張った王がいる。

そいつは何かしらのイーターだったはず。


どことなく普通の結界魔法とは異なるから、

おそらくはその魔法の気配を消す系の能力か。

厄介だな。俺の眼でも気づくのが遅れた。


この尋問室がある村に到着するまで、

いくつか小さな集落を目にした。


エルフの住処はヒューマン族の

文明のように発展せず、

古来からの自然と共生している。


1つの大都市に皆が集まって

暮らしている様子はない。


この村もおそらくエルフィアの中心に

位置しているものの、大都市と言えるほどの

大きさとは言えない。


エルフィアは連合同盟に加入しているから

ゲルニカシティやマーブルシティのような

風景をイメージしていたが全然違っていた。


「では、まずその仮面を取って、

素顔を見せてもらおうか」


尋問室に連れてこられた俺とアルテミスに、

中年のエルフがそう命令する。


ここで戦ってもアルテミスを

人質に取られるかもしれない。


俺は大人しく仮面を外す。


だが、この中年エルフは俺の顔を見ても

何も驚いた様子はなかった。


ただヒューマンか……と種族を

確認しただけのようだ。


しかし、隣いる何人かの若いエルフたちが

眉を曲げて顔を見合わせる。



「それで何しにお前たちはこのエルフィアに来た」


「水を確保するためだ」


「水?」


「ああ、この子供が水を

飲み干してしまったからな」


中年の男はじーっとアルテミスを見る。


「お前らはどこから来た」


「無法大陸」


「そうか。あの方角からなら言ってることは

間違ってないな。ならば、次の質問だ。

そのヒューマンの子供は

お前とどういう関係だ?

身なりが奴隷のようだが、

まさか奴隷狩りの冒険者じゃないよな?

肯定した場合、俺は今すぐお前を殺す」


そう言われれば誰だって否定するだろ。


「違う。そう言ったら信じるのか?」


俺がそう問い返すと、中年の男は俺と

その子供を見定める。


「カメンは酷いことする奴から

助けてくれた優しいヒューマン!」


隣に座っていたアルテミスがそう答える。


すると、中年エルフの顔が少し和らいだ。


「そうか。ならいい。

だが、お前たちは不法侵入者だ。

例え、水を確保をするためとはいえ、

罰しなければならない。

一週間、この留置所の牢屋に居ろ。

運が良ければ、そのまま出す」


そう言われて、俺とアルテミスは手錠をされたまま

牢屋にぶち込まれた。


一週間か。

その間、俺の正体がバレなければいいが……


―――――――――――――――――――――――


レオを捕らえた中年のエルフの名を

ジャック・リドラーと呼ぶ。

元々はエルフィアを飛び出したそれなりの

名のある冒険者だった。


規則に縛られるのが大嫌い。

なれ合いも嫌い。


好きなのは女の体と酒。

あとは誰かに勝利した時の優越感。


才能はあれど、エルフィアの民は皆が

ジャックが苦手だった。


そんな彼は今、このエルフィアにはいなくてはならない

戦士になっている。


そう変えたのは、二十年前の出会いだった。


久しぶりにエルフィアに戻ったジャックは、

居酒屋にいた容姿のいいエルフの女と意気投合して、

そのままの流れで夜を共にした。


なんてことない。

たまにある良い日。


そう思っていた。


だが、いつもと違ったのは、そのエルフの女が

妊娠してその腹の子供を産んだことだった。


その場の流れで、その日にあった男の子を

生むなんて想像もしていなかった。

だが、そんなことがあっても、ジャックは

子供を育てるつもりなどなかった。


しかし、その女は子を産むと同時に他界した。


後で知ったのだが、その女は重い病気にかかっており、

もう長くないと知っていたらしい。

だから、せめて死ぬ前に我が子を

この手で抱いてみたい。

そんな願いがあったから、

ジャックと夜を共にしたのだと。


エルフは他の種族よりも家族間の

関係を大切にする種である。

だから、自分の子供を放置すれば、重罪。


仕方なく、ジャックは我が子を引き取った。


しかし、親に捨てられたジャックが子育て

などできるはずもなく、金で雇った

世話係に全てを任せていた。


鬱陶しくて仕方がなかった。

こいつがいなければ、

俺は一人で自由にできるのに。


あの頃はずっとそう思っていた。


「ジャック隊長!」


レオを牢屋にぶち込んだ後、

自室で昼寝をしていたジャックを

血相を変えた部下が起こした。


「何だよ……」


「大変です!」


「何が」


「さきほど捕らえた侵入者です!

どこかで見たことあるなって思って

過去の手配書を調べてたんですけど、

あいつニコラス・レオですよ!」


「ニコラス・レオ?」


「あのグレイス・イシュターンを

殺害した張本人です!」






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