第21話 旅立ち

マーブルシティから逃げ出して、

4年が経過した。

あれから東に真っ直ぐ駆けてアバロニア第二の都市

ゲルニアシティに逃げ込んだ。

しかし、数日もすれば俺の似顔絵が載った

指名手配書がゲルニアシティ中に貼りだされた。


ここにいてはいずれ捕まると悟った

俺は直ぐに南に向かい小さな国々を横断した。

しかし、そこでも俺の顔は知れ渡っていた。


それだけグレイスさんが有名だったのだろう。

その彼を殺した犯人にされた俺も

一躍有名になってしまった。


この分だと連合同盟に加わっている

エルフィアにも指名手配書が回っているはずだ。


俺はルートを変え、エルフィアのある森林に

入らないように大きく遠回りをした。


そして、たどり着いたのがここ。

無法大陸。


ここには俺以外の指名手配書が多くある。


加えて、ここには悪者を取り締まる人もいない。


ここが唯一の俺が生活できる場所だった。


「おい、聞いたかよ。

あのグレイスが死んだってよ!」

「まじかよ! ひゃほおおおおお!

これでアブソリュート・ルーラーズも

なくなったんじゃないのか?

犯罪やり放題だろ!?」


来たばかりの頃はその話題で持ちきりだった。


……やっぱりもう俺が安全に生きれる

場所はないみたいだな……


こうして俺は姿を隠すために仮面を被った。


「レオ?」


ふと、アルテミスに呼ばれて、

昔の記憶から現実に引き戻された。


「おい……俺の本名を呼ぶなって」


「えーだって……

どう呼んだらいいか分からない」


「仮面でいい」


「カメン? 分かった!」


そう返事をして目の前にある

料理に手を突っ込む。

まるで、原始人みたいな食べ方だ。


「そこにフォークがあるだろ」


「どうやって使うの?

カメンお手本みせて!」


「こうやるんだ」


俺はフォークを手に取り、

皿のステーキを小さく切って

アルテミスの口に運ぶ。


それを何の疑いもせずに

アルテミスは頬張った。


すると、今度はアルテミスが同じように

ステーキをそのまま刺して俺の口元に寄せる。


「俺はいい」


「なんで? お腹減ってる」


「仮面を外せないんだよ。

言っただろ。正体を隠してるって。

俺は持ち帰って後で食べる」


「一緒に食べたら美味しいのに」


そう不満げにステーキにかぶりつく。


どう見ても普通のヒューマンだ。

言語力が同年代に比べて劣っているが、

次第に良くなるだろう。


それよりも、気にするべきは

このオーラ。

イーター特有のもの。


4年ぶりに見た。


本人に訊ねてみたが、

そもそもイーターという言葉自体を

知らないらしい。

どんな能力なのかも全く分からないのだとか。


これまでも奴隷は何度か助けてきたが

それ以降の面倒は見ていない。

自分でどうにかして生きろと

少しの金をあげただけだ。


だが、この子に関しては

ここまで連れてきてしまった。


イーターだと知って、

ふとグレイスさんのことが蘇ってきた。


グレイスさんがイーターである

俺に素質を感じてあそこまで

世話をしてくれた。


なら、俺もその意志を引き継ぎたい。


そう思ってしまった。


本当にグレイスさん、エリシアさん、

ハンターさんには世話になった。

いつかあの人たちに肩を

並べられるくらい強くなる。

それを夢見ていたのに、

もうあの三人はいない。


俺は……この四年間何をしていたんだ……

考えるだけで……胸が苦しくなる。


惨めに生き残って……ただひたすらに

この地でモンスターや冒険者たちを殺してきた。


自分のためだ。


自分のためにしか生きてこなかった。


俺がこうなるとグレイスさんが分かっていたら、

きっとあのときグレイスさんは

俺のことを命がけで逃がしてくれたり

しなかっただろうに。


「悲しそう……」


そのとき、アルテミスが涙を

流しながらそう呟いた。


俺は驚いてしまった。


「な、なんで泣いているんだ!?」


「分からない……けど……カメン……

すごく悲しんでる……」


「は……?」


俺の表情を見て?

いや、俺は仮面をしてるし、

顔を見れるはずがないだろ。

なのにどうして、


「ほら、涙を拭けよ」


泣いているアルテミスに周りの視線が集中し、

たまらず俺は布でアルテミスの顔を拭いた。


「なあ、アルテミス。お前、本当に自分がどこから

来たかも分からないし、帰る場所もないんだな?」


「ない」


「そうか。なら、どこか周辺諸国の

孤児院にでも……」


「孤児院って?」


「アルテミスみたいな親とか帰る場所がない子供達を保護してくれるとこだよ」


「カメンも一緒?」


「俺はそこにお前を届けに行くだけだ」


「やだ!! カメンも一緒にいないとダメ!」


「あのな……わがままを言うな。

俺はお前の面倒を見れるほど余裕はない。

孤児院の人なら俺よりもお前のことを

大切に育ててくれるさ」


「そうじゃない! そうじゃなくて! 

カメンは誰かと一緒にいないとダメ!」


「……は?」


「そうしないと、

きっとカメンはどんどん悲しい色になる」


「……悲しい色? 

……お前、さっきまで奴隷だったくせに

俺のことを心配してるのか?」


その質問にアルテミスは自信満々に首肯する。


思わず、その反応に笑ってしまった。


「なんで笑うの!」


「いや、すまん。おかしくて」


「どうしたら、カメンと一緒に居られる?」


「……え?」


子供のわがままだ。

適当に答えるか。


「そうだな。まあ、俺は追われる身だし、

俺を守ってくれるくらい強ければ

一緒にいてもいいかもな」


「わかった! アルテミス、強くなる!」


と宣言すると同時に

アルテミスは立ち上がった。


「どうしたら強くなれる?」


「強くなりたいなら冒険者になることだな。

ギルドに行って、冒険者登録をして、職業を選ぶ」


「分かった! じゃあそのギルドに行きたい!」


「この無法大陸には闇ギルドしかないから、

アルテミスみたいな子供を冒険者には

登録してくれないよ。

下手したら、捕らえられてまた奴隷になるだろうな」


「無法大陸のギルドじゃなかったら、

冒険者に登録してくれる?」


「ま、まあ……」


「じゃあここから出よう!!

別の所に行こう!」


「……は、はあ? 

だから、俺は追われる身だから

無法大陸にしかいられないんだって」


「じゃあ、カメンはずっとここにいるの?」


ずっとここにいる。

その言葉に体が硬直した。


このままでは駄目だ。

四年間、そう思っていた。


「ほら! やっぱりカメンは一人じゃダメ!」


アルテミスは俺の近くに歩みより、

その小さな両手で俺の手を握った。


「行こ!!」


「お、おい、待て!

どこにだよ」


「外の世界!!」




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