花畑に咲く笑顔
鈴音
花畑に咲く笑顔
いつもより高い所にある青空から、さわさわと心地よい風が吹いてくる。その風に乗って、優しい花の香りが頬を撫で、心をそっと軽くする。
先日、趣味のクロスワードの懸賞で、花畑牧場へのバスツアーが当選した。
花には興味がなかったし、近頃嫌なこと続きで気が滅入っていたが、せっかく当たったものならばと朝早くに指定のバスセンターに向かい、ここへやってきた。
結論から言えば、来てよかった。
花の種類はわからないが、なんと言えばいいのか、雰囲気……が、良い。おすすめと言われたラベンダーソフトクリームも、色々な香りのハーブも、どれもこれも新鮮で、荒れていた心にすっと癒しを与えてくれた。
今日一日、この広い牧場を自由に歩き回って良いとの事だったので、あちこち探索してみたが、広すぎて周りきれる気がしない。が、それでもまぁいいだろう。
早めの昼ご飯を食べたあとも、しばらく季節の花を楽しみ、そろそろ疲れたからとベンチをみつけ、休もうとした時、隣に一人、誰かがやってきた。
その人は両手に味の違うアイスを持ち、交互に食べ始めると、目を細め、ふふんととても楽しそうに笑っていた。
その姿に見惚れていると、ざぁっと強く風が吹き、花々を揺らした。
舞い上がった砂埃に閉ざされた目を開くと、隣にいた人には砂埃ではなく、花びらが付いていて、何だか妖精のような、神々しい何かと見紛うような姿になっていて。
「――あー、あの、花びら取ってください……」
突然かけられた声に、驚いてしまった。
言われるままに、花びらをとり、ついでにと肩の砂をほろうと、さっき見せたあの優しい笑顔で、
「ありがとうございます」
と。
それからその人は、アイスを食べ終えて、またどこかへ消えていった。
たったそれだけの、なんてことの無い出会いとちょっとの非日常。それが、なんだかとってもいい思い出になった、そんな一日が、そこにあった。
花畑に咲く笑顔 鈴音 @mesolem
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