第166話 魔女の隠れ住む森



「カーラと言います」

「私は、レビナです。よろしくお願いします」


二人の女性が、俺たちセシリア騎士隊の隊員の前で一礼している。

町の冒険者ギルドへ、手続きに行っていたオルブランさんが連れてきた二人だ。

帰ってきたときに、二人も女性を連れていたからどうしたんだとみんなが騒いでいた。


水澤さんは、厄介事の匂いがするねとニヤニヤしていたけど……。


カーラさんは背が高く、凛々しい感じはまさに女冒険者だ。

レビナさんは、白に青のストライプが入ったローブを着ていて、魔石の付いた杖を持っていることから、魔術師か魔法使いだと思う。


そんな二人は、オルブランさんと何やら話をしていた。


「は~い、では班分けを発表しま~す!

オルブランの班に、その二人を入れるから面倒をよろしく」

「わ、分かった」

「後は、レオンの班、シャーリーの班、私の班と分かれて探索と調査を行います。

コウサカたち召喚組は、シャーリーが面倒見るから」

「は、はあ……」

「それじゃあ、この森で行方不明になっている冒険者たちの探索や、村の中を通って行くオークがどこから来ているのかの調査を、開始します!」


そう言うと、それぞれの班に分かれて『魔女の隠れ住む森』に足を踏み入れていく……。




▽    ▽    ▽




森に入ってしばらく進んだところで、ひらけた場所に到着する。

周りを警戒するが、何かが隠れている感じはなかった。


「……大丈夫そうね。

それじゃあ、一旦ここで休憩ね」

「「は~い」」


大神さんと山口さんが、シャーリーさんの指示に笑顔で答えた。

どうやら、森に入ってからずっと歩き続けていたために、かなり疲れていたようだ。

でも、一時間も歩いていないんだけどねぇ~。


「はぁ~、疲れた……」

「同じく……」

「私も、同じく……」


そこへ、佐藤さんも同じように座り込んで休憩し始める。

歩いて森を進んだだけなのに、そんなに疲れるのか……。

周りを見れば、水澤さんやシャーリーさんも座り込んで休憩していた。


「登山靴を履いているとはいえ、こうも道なき道を進むとな~」

「そうそう、草木をかき分けながらの進軍は体力を奪うんだよね……」

「……あれ?」

「ん? 高坂君、どうした?」

「いえ、水澤さん。今、気づいたんですけど……」

「うん」

「森からオークが出てきて、村の中を通って行くんですよね?」

「みたいだな。俺は確認してないけど……」


水澤さんとの会話に、片山が加わる。


「森の中から出てくるオークは、どこを通ってきたんでしょうか?」

「ん?」

「そういえば……」


俺の疑問を聞いて、シャーリーさんと大神さんが気が付いた。


「オークは森から出てきて、村の中を通っているそうです。

なら、森のどこを通って村に入り込んでいるのか……」

「ああっ?!」

「……そうか! そうだよ!」


山口さんと片山が、大声をあげて気が付いたようだ。


そう、オークはこの魔女が隠れ住むという森から出てきて、キールの村の中を通っているらしい。

ならば、あるはずのモノを俺たちは森の手前で発見できていなかった。


それは、オークが通ったはずの森の道だ。

こんなにも木々や草がたくさん茂っている森で、道を作らずに、オークが村へ出て行けるものなのだろうか?


もし、オークが通ったという道ができていたのなら、森の入り口で、俺たちが発見していてもおかしくはない。

だが、そんなモノはなかった……。


では、オークはどうやって、森から出てきたのか?



この疑問が発覚した後、車座になって座ると、みんなで考察が始まった。


「オークが森の中を通れば、俺たちが通ってきた所のように、獣道のような道ができるはずだ」

「だけど、森の入り口には無かった……」

「では、オークはどうやって森から出てきたのか?」

「ん~」

「……森を通っていなかった、とか?」

「いや、村の人が、森から出来るオークを見ている。

それに、オークが出てからは、見張りを立てて確認しているそうだぞ」

「じゃあ、これはないか……」


大神さんの意見だったが、オークは確実に森を通っていたと村人からの証言があるため、却下となった。


「それじゃあ、森の手前に転移したとか?」

「それで、村を通って行った?」

「そうそう」

「いや、それも、村人の証言と食い違う。

村人は、森の中からオークが出てくるところを見ていたらしい。

オークは確実に、森の中から出てきていた……」

「……それじゃあ、後考えられるのは……」

「森から出てくるオークは、幻、ということになるな……」

「幻のオーク、ですか……」

「でもそれなら、村で暴れない、村人を襲わないというのも納得できないか?」

「「「……」」」


確かに、その仮説が正しければ、被害のなさも納得がいく。

だがそれだと、新たな問題が出てくる。


「オークが幻となると、何故オークが森から出てくるのかという謎が出てくるな。

誰かの仕業か?」

「村への警告、とか?」

「誰からの警告です? それに警告なら、直接村長に報告した方が……」

「だよね~」


車座になって、あーだこーだ話していると、森の奥から乳ッとオークが一匹、出現した。

それも棍棒を右手に持ち、左手は何も持っていない。

姿形も、漫画やアニメに出てくるような豚の頭部に人型の体。


そのオークが、俺たちを見ることもなく前を向いて村の方向へ歩いていった。


「シャーリーさん! 見て!」


武内さんが、オークの通った場所を指差す。

そこには、オークの足跡はおろか、通って行った道すらできていなかった。

さらに、木々の間を通って行ったはずなのに、折れた木々の音なども聞こえていない。


そう、俺たちの前に現れたオークは、音もなく出現していたのだ……。


「決まりだな!」


出現するオークは、幻だ!

では、どこからこの幻のオークが現れているのか?

俺たちはそれを解明するため、オークの現れた場所から森の奥へと歩いていく……。







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