第167話 罠



「お~い! あったわよぉ~」


先頭を歩く泉谷さんが、オークに関連する物を見つけた。

泉谷さんのいる場所に、後ろからついて来ていた全員が集まった。


「アレよ」


泉谷さんが指さす先、そこには岩から伸びた木の枝の先に、リュックのような鞄が引っ掛かっていて、さらにその鞄から木の箱が紐のような物で釣り下がっていた。

それを見て、俺たちは何とも言えない表情になった……。


「……何、アレ」

「……ねぇ、偶然過ぎるでしょ?」

「まさに、奇跡のような仕様だな……」


その紐のような物で釣り下がった木の箱が、風か何かで揺らされて、森に差し込む日の光に、偶然箱にはめ込まれていた宝石が照らされ、その影響でオークが召喚されるようだ。

それも、幻のオークがな……。


岩の下から、リュックを見上げるように覗き込みながら調べた結果、そういうことが分かった。


「これ、誰も信じないですよね……」

「目の前で、オークが召喚されなければ、私たちだって信じなかったと思うわよ」


そう、ここに到着してすぐ、俺たちはオーク召還の瞬間を目撃してしまったのだ。

これはもう、信じるしかない……。


「とりあえず、引っ掛かっているリュックを外さない?

あの木の箱を布か何かでくるんでしまえば、もうオークは召喚されることは無いでしょ?」

「だな。俺がとりに、なッ!!」

「片山君ッ!?」

「水澤さんッ!!」

「「きゃあああぁぁッ!!」」

「嘘でしょおぉぉっ!!」

「「いやああぁぁッ!!!」」


片山が岩を登ろうとしたところで、地面が消えた!

俺はちょうど、消えなかった地面の方にいたため落ちなかったが、俺以外の全員が落とし穴に落ちてしまった!


消えた地面の端に近づき、落とし穴を覗き込む。

すると、ドボンドボンという水に落ちる音が何回も聞こえてきた。

それと同じように、悲鳴や怒号も……。


消えた地面の周りを見れば、ちょうどあの木の生えた岩を中心に穴が広がっていた。

……もしかして、調査に来た冒険者や捜索に来た冒険者たちも、この穴に落ちたのか?


「ハッ! 大丈夫かぁーー!!」

「…………だ~…」


穴から聞こえてきたのは、水澤さんの微かな声。

どうやら、かなり深いところまで穴が開いているようだ……。


「ん~、これだと縄梯子は無理だな……。

ロープを垂らすにしても、どれだけの長さが必要か分からないし……」


みんなを助けようにも、どうすればいいか分からない。

ロープや縄梯子を垂らすにしてもどれだけの長さが必要か分からないし、もしかしたら行方不明の冒険者たちが生きているかもしれない。


「……とりあえずロープを召還して、それで下に降りるしかない。

下まで届くか分からないが、ここに一人でいるよりましだろう」


という安易な考えで、俺は百メートルほどのロープを召還して、片方を消えていない地面にある丈夫な木に括りつけ、消えた地面の穴にロープを垂らして降りていった。




しばらく降りると、地面が水になっているのが確認できた。

どうやらここに、みんな落ちたようだ。


「……ロープはここまでか。

穴の深さは、大体百メートルと少しだな。水面までは残り、十メートルってところか?」


下を見ながら、俺の大体の観測を述べる。

そして、意を決して手を放し、水に落ちた。


ドボンと落ちた後、息を吸うために水面の上に顔を出すと、すぐ近くに岸が見える。

俺は泳いで近づき、岸に上がった。


「はぁ~、しかし、とんでもない罠だな……」


上を見上げて、垂らされたロープを確認すると、ロープが上から落ちてきた。

……どうやら、地面が元に戻ったために切れてしまったらしい。


「……上からは、帰れないってことか……」


俺は周りを確認する。

すると俺が上がった場所から、複数の足跡が続いていた。

……これは、落ちたみんなが岸に上がって、移動したってことだな。


「とりあえず、みんなを追いかけるか」


そう呟くと、足跡を追って歩き出した……。




▽    ▽    ▽




Side ブロネーバル王国騎士団長 アイリース・ブロネーバル


「……なかったか」

「はい、シュリオンの船が通った航路に出現するという話の魔物の討伐記録や報告はありませんでした。

また、魔物出現の報告自体も消えていました」

「消えていた?

魔物出現の報告は、周辺国にも知らされているはずだ。

その報告書も消えていたのか?」

「はい、消えていました。

ただ、消えていたのは海に面した周辺国だけで、このブロネーバルをはじめとした海に面していない国への報告は残っておりました」


……変な話だな。

魔物の出現で、船が使えなくなったはずなのに、その魔物自体がなかったことになっている。

いったいどういうことなんだ?


「それと、もう一つ不可解なことが……」

「不可解なこと?」


そう言って、メイドのミミが手渡してきた報告書を読む。


「……ん~、私にはおかしいことはないと思うが……」

「それは、騎士団長として読んでいるからです。

よろしいですか?

シュリオン第二王女様一行に加わっていた、シュリオンの二つの騎士隊。

これが、第二王女様が船で帰国するときには、同行しなかった」

「ああ、これが?」

「第二王女が、陸路で公国まで言った理由は、魔物のせいで船が使えなかったから。

それで陸路で行く際に、信頼できる二つの騎士隊を同行させた。

それも、第二王女様自らが指名して同行してもらったそうです」

「ああ……」

「そして、シュリオンへ船で帰る時は、その二つの騎士隊は同行していません。

何故でしょうか?」

「……それは、別の護衛がいたから?

もしくは、安全だと分かっている……から……?」


安全?

帰りの航路が?

陸路で旅しているとき、襲撃にあっているのに?

航路は、魔物の影響で使えなかったのに……?


……何だ? 何かこう、もやもやしたものを感じる。

とんでもないことを見落としているような……。






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