第164話 騎士隊の介入



オークが村から出ていくと、サロはすぐに悲鳴を上げた。


「うわあああぁぁぁッ!!!」

「な、何だ?!」

「ど、どうしたッ?!」


サロの上げた悲鳴を聞いて、村長の家の中からレブとロージの二人が飛び出してきた。

そして、辺りをキョロキョロとした後、腰を抜かしているサロを発見。

すぐに近づき、事情を聞いた。


「サロ、どうした?!」

「何かあったのか?!」

「……オ、オーク」

「「オーク?」」


サロは村の入り口を指差しながら、恐怖に震えながら何とか、オークという言葉だけを絞り出した。

サロの指差した先を見ながら、不思議に思うレブとロージ。


指差した村の入り口には、何もいなかったからだが……。


「やはり出ましたか……」


そこへ村長が現れ、サロが指さす先を見ながら疲れた表情でつぶやいた。

レブとロージは村長の呟きを聞き、村長の方を見る。


「出たって、さっき話していた?」

「はい、依頼で出したオークでしょう」

「村を通るだけのオーク、ですか……」

「そうです。

一月前ごろから、何故かオークが一匹だけ、村の中を通り過ぎていくのです。

誰かが襲われるわけでもなく、暴れるでもなく、ただ通り過ぎるだけ……」

「……それは」

「確かに、不気味……」

「ですね……」


それがレブとロージ、そしてサロの共通した感想だった。

ただ通り過ぎるだけのオーク、これが不気味でなくて何なのだ……。

だが、ここでひとつ疑問がわいた。


「通りすぎるだけのオークに、襲い掛かった奴はいなかったのか?」

「襲いかかった?」

「だってそうだろ?

通り過ぎるだけなんて、気味悪くてしょうがない。

ならば、襲い掛かって倒そうというやつがいてもおかしくないだろう?

もしくは、冒険者で来た連中の中に、村を通ってきたオークに戦いを挑んだとか?」

「……そういえば、そのような話は聞きませんでしたね。

村の人間は、森にオークが出ることは知っておりますから、オークの恐ろしさは知っています。ですから襲い掛かるなんて、とてもとても……。

冒険者の方たちは、私から話を聞いてすぐに森へ向かいましたから、村を通るオークに遭遇していなかったかと……」

「そうか……」


レブが、考え込む。

それを不思議に思ったロージが、話しかける。


「レブ、何か気になるのか?」

「いや、蜃気楼貝という話を思い出してな?」

「「蜃気楼貝?」」


ロージと村長の声が重なった。

サロも、座り込んだまま首をかしげる。


「蜃気楼貝というのは、蜃気楼を見せる貝のことだ。

海に生息しているらしく、時々蜃気楼を見せて船の航海の邪魔をするらしい」

「……それが、どうかしたのか?」

「いや、もしかして村を通るオークは、蜃気楼ではないかと思ってな?」

「つまり、幻ではないかと?」

「ああ。

だって、おかしいだろ?

魔物のオークが、普通に村を通るだけって……」

「村で暴れもせず、村人を襲いもせず、ただただ村を通るだけ……。

確かに、おかしいよな……」

「そ、そう言えば!!!」


急に大声を出して、レブとロージに意見するサロ。

レブもロージも村長も驚いた。


「……うるさいな、サロ」

「そんな、大声出さなくても聞こえるって。

で、何思い出したんだ?」

「ゴ、ゴメン。

いや、それで思い出したんだけど……」

「ああ」

「さっき僕の側を通って行ったオークは、僕のこと気づいてないみたいだったんだ」

「……気づかなかった?」

「うん。僕のことが見えていなかったっていうか、チラリとも僕の方を見なかった」


それを聞いて、レブとロージに村長も考えこむ。

サロは、三人の顔を見ながら立ち上がる。

ゆっくりと、重い荷物を地面に置いたまま……。


「確かめる必要があるな……」

「村長、次にオークがここを通るのはいつだ?」

「……オークは五日に一度、ここを通っていきます」

「……と言うことは、次に通るのは五日後か……」

「そんなに待つことはできねぇぞ?

依頼で三日後には、ギルドに報告しないと……」

「なら、森の中に入って帰ってこない冒険者を捜索、三日後、ギルドへ報告をするために町に帰った後、またこの村に来ようぜ。

で、その時に村を通るオークの正体を確認だ」

「よし!」

「了解!」

「じゃあ村長、俺たちは森へ捜索に行ってくるぜ」

「あ、ああ、気をつけてな……」


レブとロージに、地面に置いた荷物を背負い直したサロの三人は、そろって村を出て、冒険者を捜索しに森の中へと入っていった……。




▽    ▽    ▽




「で、それが十日前ですか……」

「はい。

あの森に入って、誰も帰ってきませんでした……」


村長は、村の出入り口から見える森を見ながら心配していた。


俺たちセシリア騎士隊一行は、国境の町『ミル』を後にして王都へ帰る途中、この『キール』の村に立ち寄った。

そこで、村長らしき人が村の出入り口で、森を眺めているのを不思議に思い、声をかけたのだ。


そして聞かされたのが、十日前に森に入っていった三人の冒険者の話だ。


「隊長、どう思います?」

「森で迷子、ってことではなさそうねぇ~」

「ええ。三人組の前にも、冒険者が帰ってきていないようですし……」


話を聞いていたセシリア隊長をはじめ、シャーリーさんとオルブランさんが相談をしている。

今回のキール村が抱えている問題に、騎士隊が介入するには、冒険者ギルドに話を通す必要がある。

何故なら、キール村が冒険者ギルドに依頼しているからだ。


ここで話を通しておかないと、別の冒険者が依頼を受けて来てしまったり、解決したときの報告ができなかったりしてしまうためだ。

他にも、村が出している報酬も宙に浮いてしまう。

村に返却して終わり、とはいかないのだ……。


「オルブラン、町にひとっ走りして、冒険者ギルドに報告を。

その間に、いつかに一度通るというオークを調査するよ!」

「「了解!」」


どうやら、町の依頼に介入することで決まったようだ。






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