オーク事件の章
第163話 奇妙な出来事
Side ブロネーバル王国騎士団団長 アイリース・ブロネーバル
「はぁ」
今まで読んでいた報告書の紙を、机の上に放り投げると溜息を吐く。
シュリオン王国の第二王女一行の護衛兼案内は、何度かの襲撃はあったが無事終わらせることができた。
と思ったら、最後の最後であの襲撃だ。
しかも、国境を越えてすぐの襲撃で、王女が乗る馬車が我が王国側に避難してきたために魔物も一緒に入ってきてしまい対処せざるをえなかった。
「魔物の襲撃とはな……。
それも国境を越えてすぐとは……。それほどに第二王女は狙われていたのか?」
「ん~、どうなのでしょうか。
報告ではなんと?」
「セシリア隊長曰く、どこにでもいる王族の姫様だったそうだ。
狙われていると注意されたが、あそこまでの襲撃があるとは思わなかったとか……」
「そうですか……」
私の秘書も兼任している、メイドのミミが考え込んでしまった。
王族とはいえ、第二王女への襲撃にしては過激すぎではなかったのか?
白い騎士の集団に、魔物の襲撃の後の白騎士の出現。
これはシュリオンから同行してきた騎士隊の副隊長が相手をして戦ったらしいが……。
そして、その後の国境を越えての襲撃か。
ヒルビーの騎士隊に多少の犠牲が出たらしいが、何とか撃退。
だがその後出現した男は、姿を見せた後消えたらしい。
「第二王女一行は、目的の公国に無事に到着したのだろうか?」
「はい、無事到着されたようです。
そして、無事用事を済まされて、船でシュリオンへお帰りになったと」
「?! 船で?!」
私は、船で帰国したことが気になりミミを見た。
ミミは、少し焦った様子だったが、それは私が勢いよくミミを見たせいだろう。
「な、何か?」
「今、船で帰国したといったか?」
「はい、そう聞いておりますが……」
「シュリオンの第二王女は、ベルバノス公国へ向かうのに船ではなく陸路で向かった。
何故だったか覚えているか?」
「確か……、海に強力な魔物が……ああっ!」
大声をあげて驚くミミ、ようやく気付いたようだ。
そうだ、第二王女一行は、海に魔物が出るからと船ではなく陸路で移動したんだ。
だが、帰りは船で帰ったという。
おかしいじゃないか?
海に出るという魔物はどうした?
討伐されたという報告は受けていない。
「討伐されたという報告はあったか?
シュリオンからベルバノスへ向かう航路のある海域は、様々な国にとって重要な漁場となっていたはずだ。
現に我がブロネーバルにとっても、魚介類を輸入しているしな」
「す、すぐに調べてまいります!」
ミミはすぐに、騎士団長の執務室を出ていった。
調査課の職員を動員して、報告書を調べるのだろう。
今夜は、徹夜かもしれないな……。
「ん?」
机の上に、まだ読んでいない報告書を発見する。
手に取り読む。
「……教会の本国、女神聖国からの知らせか。
シュリオン王国での、異世界人召喚を封印、禁止とする、か……」
まあ、驚きはないな。
シュリオン王国での異世界人の扱いには、常日頃から驚いていたからな。
まあ、自殺者を出しての隷属の首輪は、応急処置としてはいいが継続するものではない。
何だかんだと、あの国はおかしなことだらけだ……。
▽ ▽ ▽
ブロネーバル王国の西側にある村『キール』。
この村は林業が盛んで、西にある『魔女の隠れ住む森』と呼ばれる森の恵みで成り立っている。
ある日、その森から一匹のオークが村に姿を現した。
だがそのオークは、村人を襲うでもなく、村を荒らすでもなく、ただ村を通って出ていっただけだった。
オークを見つけて騒いでいた村人たちも、何もせずに通り過ぎるオークが村を出ていったときには不思議な表情をしていた。
だが、村長だけは何かあると感じて、近くの町の冒険者ギルドに報告を上げた。
それから、月に何度もオークが村をただ通り過ぎるという事件が起きる。
村人にしてみれば、被害はないものの、村を通り過ぎるだけのオークにある種の不気味さを感じて、村を出て行く者も出てきた。
村長は、村の存続の危機と感じ、冒険者ギルドに調査と討伐を依頼。
五日後、町から二組の冒険者パーティーが調査と討伐に現れた。
魔女の隠れ住む森に入り、オークの調査を始めるものの、十日経っても誰も戻ってこなかった。
それから三日後、三人の冒険者が村を訪ねてきた……。
「レブ、ここが例のオークの通る村か」
「ああ。村の名前は『キール』だそうだ。
昔の、村長の名前をとって名付けたそうだぞ」
「へぇ~、よく知ってんなぁ~」
「依頼を受ける時は、ある程度調べているからな」
村の入り口で、二人の冒険者が会話をしているところに、後ろからもう一人の冒険者が大きな荷物を背負って近づく。
「レブさん、ロージさん、村に入らないんですか?」
「ん? サロ、今入ろうとしていただろ?」
「そうだぞ、サロ。
それより、今回の依頼の内容は覚えているか?」
「えっと、村に現れるオークの調査と討伐の依頼を受けた冒険者たちの、行方を探すことです」
「……よく覚えているじゃねぇか」
「よし! まずは村長の家を訪ねようぜ!」
「だな!」
レブとロージの二人は、荷物持ちをさせているサロという少年を置いて、村の中へと入っていく。
サロは、大きな荷物を背負っており、走ることができないので、歩いて追いかけるのだった……。
村長の家の前に到着すると、歩いて近づいてくるサロを確認して、二人で村長の家に入っていった。
「はぁ…、はぁ…、はぁ…」
背負った荷物が重すぎて、息が切れる。
村までは乗合馬車で来れたが、村の入り口から村長の家までは距離があった。
何で僕が荷物持ちなんかと、考えながら歩いていると、ふと前から誰かが歩いてくるのが分かった。
サロは、顔を上げて歩いてくる人を見ると、それがオークだったのだ。
「……え?」
サロは驚きのあまり固まってしまい、歩いてくるオークを目で追うことしかできなかった。
オークはそのまま、サロの横を通り過ぎ、村の出入り口の方へ歩いていく。
キョロキョロと周囲を見渡すこともなく、まっすぐ前を見てオークは歩いていた……。
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