第162話 メイドの判断



Side ララ


「側使えのメイドララ、出ろ!」

「は、はい!」


サラシェール様と同じ牢に入れられてしばらくすると、私だけが牢から出されました。

そして、呼びに来た兵士に連れられて屋敷の中を歩いています。


ベルバノス公国の中心の都『ベルホール』の中にある宮殿、ベスヒル宮殿の敷地内には、宮殿内を警備する兵士たちが詰める屋敷があります。

罪を犯したものなどを捕まえて入れておく牢屋があるのも、この屋敷の地下になります。


私はその牢から出されて、地上の屋敷の中を兵士に案内されているというわけです。


「ここだ」


そう言うと、兵士はドアをノックしました。


『はい』

「守備兵のグレガンです。

サラシェール様の側使えのメイド、ララをお連れしました」


そう言うとドアが開き、私と同じメイドが顔を出してきました。

そして、兵士を確認した後、私を確認します。


「彼女を中へ。

グレガンは、下がってください」

「ハッ」


兵士のグレガンさんがそう返事をした後、一礼して私を置いてどこかに行きました。

たぶん、屋敷の守備に戻るのでしょう。


「さ、ララ。中へお入りなさい」

「は、はい」


少し緊張気味な私が、恐る恐る部屋の中に入ると、ソファに座っているサラシェール様がこちらを見て、笑顔で挨拶をしてくれました。


「ララ、お帰りなさい。待っていたわよ?」

「サ、サラシェール、様?

えっと……」


私は、サラシェール様を確認した後、部屋の中を見渡します。

すると、私の隣に兵士の応対をしたメイドが一人。

後は、窓際に立っておられる男性がお一人いました。


私の視線に気づいたのでしょうか、サラシェール様が窓の側にいた男性を紹介してくれました。


「ララは初めてよね?

こちら、ベルバノス公国の代表のバンガン・ベルバノス様よ。

ご挨拶をして」

「?! は、初めまして! シュリオン第二王女であるサラシェール様のお側に仕えますララと申します」

「ああ、構わん構わん。

そんな、仰々しい挨拶はよいよい。

今回のシュリオン王国に関する計画は、我が公国も一枚かんでおるのだ」

「……え?」

「まあバンガン様、さっそくバラしてしまいますのね?」

「そうでもせんと、今回の計画の全容が分からんじゃろう。

この者にも、協力してもらうんじゃろう?」

「ええ、ララには影ではなく本人で協力してもらいたいから……」


え? 影?

姫様、どういうことでございますか?

それにベルバノス公国も、最初から今回の件に関係している?


何が何だか分からないといった感じで混乱していると、ソファに座っていたサラシェール様が声をかけてきました。


「フフフ、かなり混乱しているようね。ララ」

「は、はい……」

「まあいいわ、とりあえず座って?

私からすべてとはいかないまでも、ちゃんと説明するから」

「は、はい……」


私は返事をすると、ドアの前から部屋の真ん中にあるソファに座ります。

サラシェール様の前になってしまうのは、今も警戒しているからでしょう。


「さて、それじゃあ、まず私が誰なのかを教えるわね?」

「は、はい!」

「私の名前は、サラシェール・シュリオン。

今地下の牢に入っている、サラシェール・シュリオンの影よ」

「……影?」

「身代わりっているでしょ?

王族などが命を狙われた時なんかに、本人を守るために魔法で造られる影人形。

ドッペルゲンガーという魔物なんかが使う影魔法を、研究して誕生したのが私のような影なのよ」

「……それでは、あなたが姫様の偽物……」

「正確には、偽物ってわけでもないのよ。

本人の血などを媒体に、造られるわけだし。

それに、記憶も受け継いでいるのよ。

だから、ララが初めて私の側に仕えたときの思い出も覚えているわよ?

あれは、私の部屋に入ってすぐに……」

「そ、それは、覚えていなくていいです!!

……でも、確かにそれは、サラシェール様とだけの思い出。

何だか、本人としか思えなくなります……」

「フフフ、ありがとう」


私の目の前にいる姫様の影は、今回のシュリオン王国にまつわる計画を話してくれました。

切っ掛けは、厩舎でオレリーナ隊長は話してくれた内容で間違いないそうです。

それからシュリオン内の異世界人に関することなどを調べていくうちに、シュリオン王国の歪みを見つけてしまったそうです。


さらに、国内の問題のほとんどが貴族や王族絡みだということも分かり、シュリオン王国の滅亡を考えてしまったそうです。

このままでは、内乱や革命が起きてシュリオン王国が大変なことになる。


すぐに騎士団長や、王族に報告したそうですが、問題にしてもらえず、それどころか、オレリーナ騎士隊は左遷させられることになったそうです。

行先は、海を渡った先にある島『コバストール』。


そこは、遺跡があるだけの無人島らしく、左遷された当初は大変苦労したそうです。

ところが、島には遺跡という名のダンジョンがあり、オレリーナ騎士隊はそれを制覇。

ダンジョンマスターとなって、ダンジョンを支配し生きるための危機を乗り切りました。


その時、ダンジョン内にいたドッペルゲンガーの魔法を収得し、影魔法を使って腐ったシュリオン王国を乗っ取って正しい道に戻そうと計画。

協力者を、探していったそうです。


「だけど、一つの国を乗っ取ろうという計画よ?

協力者を探すのも、一苦労だったらしいわね……」


それはそうでしょう。

国を乗っ取るなど、国家反逆もいいところです。

そこで役に立ったのが、影魔法。


協力してくれるかどうかを、影魔法で影を作りだし、その影に王家乗っ取りを話して反応を見るということを繰り返したそうです。

反対なり歯向かってきたりすれば、影を消して何事も無かったかのようにふるまう。


協力してくれるという反応ならば、本人を交えて協力を要請する。

そうして協力者を、一人一人探し出して計画を進めていったそうです。


……いったい、いつから入れ替わっていたのか……。

話の中には、国王陛下や王妃様がすでに入れ替わっているという話もありました。


「……ララ、ここまでの話を聞いて改めて聞くわ。

私たちに、協力してくれる?」

「……はい、サラシェール様のご命令とあらば」

「……そう。分かりました。

ララ、命令です。私に協力してください」

「はい! サラシェール・シュリオン様に協力させていただきます!」

「……ありがとう」


私には、どうしていいのか分からない。

メイドにこの計画は、重過ぎるのです。

ですから、シュリオン王国第二王女様のご命令として、お受けいたします。


少し姫様の表情がすぐれませんが、これでいいのです。

これで……。







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