第161話 消えた印



「え?!」


ブロネーバル王国の王都へ向かう街道を、セシリア騎士隊の馬車三台が進んでいた。

その中の一台の荷台に乗っていた召喚組の中の一人、大神さんが何かに気づいて驚いた声を上げた。


「ど、どうしたの?」

「美奈さん、大丈夫?」

「え? ええ、大丈夫です。

それより高坂さん、沢田さんに付けておいた連絡用の印が消えました」

「消えた? 今、連絡取れますか?」

「……ダメですね。反応がありません」


大神美奈さんのユニークスキル『メッセンジャー』は、大神さんが付けた印の人物と、いつでも連絡が取れるというものだ。

携帯電話の機械がいらないで、連絡できるようなスキルといえばいいのか。


便利といえば便利だが、一度でも会わないと印をつけることができない。

だから、前の騎士団では隊長付きでいろいろと便利に使われていたようだったらしい。

そのため、心も体もかなり疲労していたが……。


「考えられる原因は、何だろうか?」

「水澤さん、考えられる原因は主に二つ。

一つは、沢田さんが亡くなった場合です」

「ん~、でもそれはないと思うかな」

「何故ですか? 高坂君」

「もし沢田さんが死ぬような状況だとしたら、何かしらの知らせが入るはずです。

助けてくれーとか、気をつけろーとか」

「……あの沢田さんなら、何かしらの連絡を入れそうだな」

「でしょう?」

「となると、もう一つの原因は何ですか? 美奈さん」

「もう一つは、元の世界に帰ることができた時です。

私のメッセンジャーで付けた印は、私たちと同じ世界にいるかぎりどんなに離れていても連絡することができます。

亡くなって印が外れるか、この世界からいなくならない限り、連絡はできますから……」


大神さんのスキルも、チート級だよな~。

でもそれならば、大神さんが付けた印が外れたということは……。


「ならば、沢田さんは日本に帰ることができたということだな……」

「いいな~。わたしたちも、早く日本に帰りたいですね~」

「そうね、舞。私も、日本に帰りたいわね……」


熊谷さんと武内さんが寄り添いながら、そんなことを言う。

俺たちが日本に帰れるのは、いつになるのか……。


「問題は、何故沢田さんが日本に帰ったかだけど……」

「でも、あの沢田さんが自分だけで日本に帰るかな?」

「泉谷さん、それはどういう……」

「みんなも見たでしょう?

私たちに会って話を聞いて、奴隷の首輪の事や日本に帰れることとか初めて知ったって感じだったし……。

他に召喚された人たちのことも、心配していたよね?」

「……確かに沢田さんは、自分だけがという人ではないよな……」

「それなら、誰かが沢田さんを日本に帰した?」

「……なあ、例のシュリオン乗っ取りを画策した連中、怪しくないかな?」


シュリオンの王族を、偽者と入れ替えて王国を乗っ取るという荒唐無稽な計画か。

でもアレ、かなり進んでいるようなことをあの王子様が言っていたんだよな……。


「で、その計画をした連中が沢田さんを日本に帰した?

何のために?」

「それは、異世界人の能力を恐れたからじゃない?」

「私たちの能力で、あれだけすごいんだよ?

ハズレスキルと言われたものでも、使い方次第でとんでもない力を発揮するみたいだし……」


武内さんはそう言って、大神さんを見る。

確かに、大神さんのスキルメッセンジャーは、使い方次第でかなりの便利スキル。

他のスキルも、使い方次第ってわけだな……。


「そういえば、沢田さんのスキルって何だったのかな?」

「水澤さんは聞いてますか?」

「いや、私は聞いていないな……。

高坂君はどうだ? 片山君は?」

「俺も聞いてませんね……」

「俺もです」


イヤそもそも、沢田さんは自分のスキルのことを知っていたのか?

召喚されて、隷属の首輪をはめられて、雑用係として行使されたと聞いたが、自分のスキルがどうのこうのというのは聞いてない。


「……もしかして、シュリオンの召喚者たちは自分のスキルを聞かされていない?」

「それとも、ワザと知らせていないか、だな」


そうなると、シュリオン王国はとんでもない国に思えてくるな。

シュリオンに召喚された異世界人は、等しく奴隷として扱われている……?

水澤さんの発言に、召喚組のみんなが黙り込んでしまった。


街道を進む馬車の音が聞こえるほど、馬車の中が静まり返っていた……。




▽    ▽    ▽




Side ララ


「……」

「……」


私は今、牢の中でサラシェール様から睨まれています。

それも当然でしょう。

私は、どちらのサラシェール様が本物か分からなかったのですから……。


本物か偽物か。

私から言えば、どちらもサラシェール様であり、長年お世話をしたサラシェール様です。

穏やかな余裕のある態度のサラシェール様も、焦り怒鳴るサラシェール様も、どちらも本物にしか思えませんでした。


もういっそのこと、どちらが本物だろうと私はお世話をするだけです。

こういうと、考えることを放棄したように思われてしまいますよね……。


「……」

「あぅ……」


ずっと睨まれています。

牢に一緒に入れられ、ベッドの上からずっと睨みつけられています……。


「ハァ、もういいわ」

「姫様?」

「それにしても、オレリーナは何故異世界人たちを送還したのかしら?

何か考えがあるとしか思えないんだけど……」


そういえばオレリーナ様は、異世界人たちの扱いに関して思うところがあり、送還の儀を行ったのでしょうか?

別の世界から、わざわざ強制的に呼んでおきながら、役に立たないと決めつけて始末する。


そんな傲慢ともいえるシュリオン王国の扱いに、憤慨して今回の行動を起こしたのでしょうか?

私には分かりません……。

分かりませんが、何か違う者たちの思惑があるような気がしてなりませんね……。


シュリオン王国は、恵まれた国ではありません。

領土も力も、恵まれているわけではない。

だからこそ、女神聖国から異世界人召喚の許可を受けているのですから……。







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