第160話 二人の第二王女
Side ララ
サラシェール様が馬車を降り、オレリーナ隊長に詰め寄ります。
そして、声を荒げられました。
「何をしたの、オレリーナ!!」
「そんな大きな声を出さなくても、説明してさしあげますよ。
三年前の召還の儀でのこと、覚えておいでですか?」
「……三年前?」
三年前?
シュリオン王国の召還の儀は毎年行われていますが、大きな事故などはなかったはずです。
オレリーナ隊長にとって、三年前に何かあったのでしょうか……。
「召喚に関しても、召喚者に関しても何もなかったはずだけど?
それとこの行動と、どんな関係があるというの?!」
「フフフ、焦らずお聞きください。
三年前、召喚の儀で、一人の異世界人が召喚されました。
名前は、サクラ・オオハシ。
歳は、とうに五十を超えた女性でした。
シュリオン王国の召喚術師たちは、いつものように隷属の首輪をその女性の首に嵌めると、これまたいつものように、ジナ第二王妃の前に連れて行きました。
隷属の主とするためです」
「自殺防止のためですわね。
シュリオン王国では、昔召還した異世界人が自殺したことから自殺防止のために隷属の首輪をはめて自殺を防いでいる。
何も、おかしいことはないはずですが?」
サラシェール様のその説明を聞いたオレリーナ隊長の表情が、突如変わりました。
憎い敵を見るような目で、サラシェール様を睨んできます。
オレリーナ様の急な変貌に、サラシェール様も周りで警戒していた騎士隊の方たちも驚いています。
「おかしいことはないだとっ?!
……私は、その場にいましたよ。
召喚されたその女性と、他にも何人か同じように召還したらしく、全部で六人ほどいました。
そして、あの悲劇が行われた……」
「悲劇……?」
「ええ、ジナ第二王妃は、目の前に連れてこられた六人の召喚者たちを見て、こう命令されました。
『一人、老婆が混ざっているわね。
老婆は使いものにならないわ。この場で処断して他は欲しがっていた貴族のいる騎士隊に与えなさい』とね……」
「……」
「そして、控えていた騎士が剣を抜き、オロオロするサクラ・オオハシを切り殺したのです。
それを見た他の異世界人の中に、サクラ・オオハシの娘がいました。
自分の母親が殺されたところを見て、パニックを起こして騒ぎだした。
それをジナ第二王妃は、『いいわ、その子も処断して』と言って、同じように殺してしまいました……」
「……ま、まさか!
ジナ第二王妃様は、慈悲深く民のことを第一に考えるようなお方です!
召喚された異世界人と言えど、殺すなんて……」
私は、信じられずに叫びました。
そしてサラシェール様に、同意を求めるように見ると、目をそらされます。
「……サラシェール、様?」
「ごめんなさいララ、ジナ様の表の顔はララの言う通りの方よ。
でもね、ジナ様には裏の顔があるの……。
それは、はっきりとした区別意識。この世界の人と、異世界から来た人とを同列に扱っていないこと……」
「特に隷属の首輪が、ジナ第二王妃の区別意識を極端にしました……」
「そ、そんな……」
オレリーナ隊長の表情が、笑顔に変わりました。
「あの日のことは、忘れられませんでしたよ……。
ずっと私の心の奥に、引っかかっていました。
それが、去年の終わり頃のことです。
ちょっとした依頼で、他国へと出向くと気がありました。
その時、本当の異世界召喚を学んだのですよ」
「本当の異世界召喚?」
「ええ、本当の異世界召喚は、隷属の首輪など使わない。
それどころか、召喚した異世界人を元の世界へ帰すことができる、とね」
「?! まさか……」
「ええ、そうですサラシェール様。
先ほど行った光の暴走! あれこそ、召喚した異世界人たちを元の世界へ帰すための送還の儀式なのです!!」
「送還の儀式?!
送還の儀式には、召喚陣が必要なはずです!
こんな場所でなど………、何ですかこれはっ!!!」
サラシェール様が地面を見ると、先ほどまで何もなかった地面に魔法陣がくっきりと描かれています。
いつの間にこんなものを……。
「これこそが、召喚陣ですよ。
この場所に描いて、隠蔽魔術を使って隠しておいたのです。
そして、魔石を持ち込み、シュリオン王国に召喚された異世界人たちをここに集め、送還の儀式を行ったわけです。
フフフ、大成功でしたよ」
「……ここで送還したところで、国に帰れば新たな異世界人が召喚されます!
あなたのしたことは、無駄に終わります!!」
「いいえ、無駄にはなりません。
何故なら、シュリオン王国は二度と、異世界人を召喚できないのですから……」
そう言って、オレリーナ隊長はニヤリと笑いました。
何を企んでいるのでしょうか?
もしや、私たちを国に帰さない計画でも……。
オレリーナ隊長が右手を上げると、厩舎の影からたくさんの騎士や兵士が現れ、私たちを囲みます。
現れた騎士や兵士は、シュリオンの騎士や兵士ではありません。
この騎士や兵士たちは一体……。
「飛んで火に入る何とやらですわね、私の偽物……」
「なっ?!」
「ええぇっ?!」
騎士や兵士たちに囲まれた後、さらにサラシェール様が現れました。
私は、その姿が信じられなくて、何度も二人のサラシェール様を往復して見てしまいました。
ど、どちらも本物に見えます……。
「わ、私の偽物?!」
「あら、あなたが偽物でしょう?」
「私が本物の、サラシェール・シュリオンです!!
偽者は、あなたの方でしょうっ!!」
「私こそが、本物のサラシェール・シュリオンですわ。
私になりすますなんて、大胆ですわねぇ」
「グギギ…」
「フフフ…」
何でしょう、こちらのサラシェール様が焦っているように見えてしまいます。
向こうのサラシェール様には、余裕があるように見えますが……。
「ララ! 長年仕えてくれたあなたなら、私が本物であることぐらい、分かりますわよねっ?!」
「へ?」
「フフフ、ララ。
そんなに焦ることはないのよ?
自分の頭の中にある私を思い出せば、どちらが本物かなんてすぐに分かりますでしょ?」
「え? ええ?!」
こ、困りました!
その姿はどちらも、私の仕えるサラシェール様です。
雰囲気は、余裕がある分、あちらのサラシェール様が本物に見えます。
私は、二人のサラシェール様を何度も見比べながらも、決められないでいるとこちらのサラシェール様から怒鳴られてしまいました。
「ララ! 何度見比べても、本物は私です!
長い間仕えたあなたが、私のことが分からないのですか?!」
「も、申し訳ございません!」
ダ、ダメです。
あちらの優しそうなサラシェール様が、本物のように思えてきました……。
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