第159話 異世界人の送還
Side 沢田 義雄
「……何故あなたがここにいるのかしら?」
ベルバノス公国の中心の都『ベルホール』に到着し、サラシェール様一行はすぐに、ベルホールの中心にあるベスヒル宮殿を目指した。
公国といえば、貴族を君主としている国ということらしい。
私も詳しくは知らないが、東にある帝国から公国として独立させられたらしい。
その支配領地は帝国の半分ほどあるというが、そのほとんどが山岳地帯で、帝国としては山岳地帯を領地としても益がないとかで、今の大公であるベルバノス公を説得して独立させたとか。
もちろん今も、帝国に臣従しており、扱いは辺境伯になるとか……。
ヒルビーとベルバノスとの国境を過ぎた辺りで野営したときに、私に話しかけてきたバスリー騎士隊の隊員が教えてくれた。
で、話を戻すが、ベスヒル宮殿を目指したサラシェール様一行は、ベルホールに入った後すぐに大公のいる宮殿を目指し、門番に話を通そうとしていたところで、一人の男が現れた。
「何故と申されましても、私はサラシェール第二王女様を追いかけてきただけでございますよ」
「追いかけて? 私を追いかけて、どうしようというのかしら?」
「まあまあ、ここは大公様の宮殿の前。
私が、皆様をご案内いたしましょう……」
そう言うと、門番の一人に近づき小声で話し始める。
外の空気がピリピリしだしたので、馬車の中から外を確認すれば、こんなことになっているんてな……。
「……ねぇ、あの男、どっかで見たことあるんだけど……」
「知らないの? あれ、オレリーナ騎士隊隊長のオレリーナ隊長よ。
シュリオンでも、一、二を争うほどの実力者って聞いたことあるけど……」
「何で、ここにいるんだろうな……」
門番と話がついたのか、門番が合図を後ろに送ると門が開いていく。
「さ、皆様。
私について来てください。厩舎にご案内いたしますよ」
オレリーナ隊長が、先頭を歩いて門を入る。
馬車の窓から顔を覗かせて対応していたサラシェール様は、難しい表情をしながら馬車をオレリーナ隊長について行くように御者に指示を出した。
そのため俺たちの乗った馬車も、オレリーナ隊長の後をついて行くことになった。
しばらく進んでいくと、宮殿の厩舎に到着。
馬車を泊めておく広場には、たくさんの人が集まっていた。
「ね、ねぇ! あれ!」
高校生ぐらいの女性が、荷物の隙間から外を指差す。
厩舎の前に集まっていた人たちの首に、隷属の首輪を見つけたらしい。
「何? どうした?」
「あそこにいる人たち、隷属の首輪をしている!」
「何だって?!」
俺ももう一人の女性も、邪魔な荷物の隙間から外を確認する。
すると、確かに集まっている人たちは隷属の首輪をしていた。
「ということは、あそこにいる人たちは召喚されてきた人たちか!」
「え?! じゃあ、みんな日本人なの?!」
「いや、召喚者は、日本人だけじゃないはず……」
「じゃあ、あの人たちは……」
その時、馬車が急に止まり、俺たちは荷台で転んでしまう。
そしてすぐに、馬車の外から声が聞こえた。
「オレリーナ隊長? どういうつもりなのかしら?
こんなに、奴隷を集めてきて……」
「おや、この方たちは、奴隷ではありません。
……お分かりになりませんか?」
「……分かっているわよ。
この者たちは全員、シュリオン王国が召喚した召喚者たち……」
「ご正解です」
「で?! この者たちを、あなたはどうするつもりなのかしら?」
そこで、オレリーナ隊長は右手を上げる。
すると、オレリーナ隊長の後ろから、二人で一つの宝箱を持った女性が現れた。
それを、馬車の中から見ていたサラシェール様の目が細められる。
「……?」
「……ご覧ください、この宝箱の中身を」
「……何?」
オレリーナ隊長が、宝箱の蓋を開けると、中に納められていた虹色に輝く魔石が七つ現れる。
それを見たサラシェール様は、何がしたいのか分からないといった表情だ。
「フフフ、どうやら本当にご存じないようですねぇ」
「だから、何を言っているの?!」
「こういうことですよッ!!」
そう大声を出すと、オレリーナ隊長は七つの魔石に魔力を流した!
すると、七つの魔石が、青白く光り輝き始める。
【異世界より召喚されし者たちよ、今ここで、元の世界へと送り返すッ!!!】
「何ッ!!!」
「その呪文はっ!!!」
【送還!!!】
オレリーナ隊長を中心とした光の中に、すべてのモノが飲み込まれるように見えた。
そしてすぐに、俺の首から違和感が消えていき、浮遊感に襲われる。
そして、俺は……。
▽ ▽ ▽
Side シュリオン王国第二王女 サラシェール・シュリオン
オレリーナ騎士隊長が放った光の眩しさに目を瞑り、馬車の中に身を隠して数刻。
私に覆いかぶさっていたメイドのララが、震える体を起き上がらせて周りを確認した。
「……ひ、姫、様……」
馬車の外を見て、目を見開いて驚いている。
私も、ララが見ている先を見て、同じように驚いてしまった……。
「人が、消えた……?」
「フフ、消えたわけではありませんよ。
ここにいた召喚者たち全員を、元の世界へ送り返したのです」
「何だとっ!!」
馬車の外から、驚く声が聞こえたと同時に、何かを破壊した音が聞こえた。
聞こえてきた方を見れば、馬車の荷台から木箱などの荷物を引きづり出した音だったようだ。
「……いないッ! 荷台に乗せていた、召喚者の三人がいなくなっている!!」
「こっちもだ! こっちの三人もいなくなっている!!」
別の荷台からも、声が聞こえた。
「ひ、姫様。あの男の後ろにいた者たちも、いつの間にかいなくなっています……」
「……どうなっているの?」
メイドのララが指摘したとおり、オレリーナ隊長の後ろにいた者たちもいなくなっていた。
これだけの人が消えるなんて、一体どういうことなの?
どんな魔法を使ったというの、オレリーナッ!!!
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