第158話 帰還に向けて



国境の町『ミル』にある国境をまたぐ重厚な門が、今音を立ててゆっくり閉まっている。

シュリオンの第二王女様一行を襲ったサイクロプス五体との戦闘で、門と城壁を繋ぐ番が壊されたり、扉自体も歪んだりと被害を受けていた。


だが、第二王女様一行を見送ってからは、敵からの襲撃もなく修理を早く終わらせることができ、今こうして門を閉めながら稼働するかどうか試している。


「……ガブルさん、門もようやく直ったんですね~」

「ああ、セシリア騎士隊の君たちが、護衛として残ってくれたおかげだよ。

無理を聞いてもらって、君たちの隊長さんには感謝しているよ」


そういうのは、門の修理修復を担当する責任者のガブルさんだ。

この町『ミル』の、国境警備隊に所属している修理担当者で、門の修理の責任者だ。


国境の門は、かなり丈夫に造られているので、普段は月に一回から二回ほどの点検だけで終わる。

今回のように、修理が必要なほど壊されたことは初めてのことで、ここまで修復するのに結構時間がかかってしまった。


まあ、それでも二週間ほどで完了したわけだが……。

さすがファンタジーの世界。

力技と魔法で、扉の歪みを直したところは見物していたがすごかったね。



だが修理修復の間、門による防御力はなくなるわけで、通常は傭兵や冒険者などに町の護衛などを頼むのだが、間の悪いことに今この町に護衛ができる傭兵も冒険者もいなかった。


そこで、王都に帰ろうとしていたセシリア騎士隊に、依頼が直接来たということだ。


セシリア隊長も、修復の間の護衛を依頼されて、一週間ほどならばと受けたのだが、実際に掛かって期間は二週間。

期限の一週間を過ぎても修理が終わらず、苦情を入れるかと思われたが、セシリア隊長は、この町での待遇が良かったのか文句も言わずに、護衛の依頼をこなしていた。


シャーリーさん曰く、期限に近づくころから待遇が劇的に変わっていったそうだ。


「そういえば、期限の一週間が経ってから、宿の食事が変わったよね?」

「そうそう、いつもの食事にデザートがついたんだよね~」

「あれってやっぱり、期限が過ぎたからお詫びってことだったのかな?」

「そうじゃない? 私たちを足止めしておくためのね~」

「そうなんだねぇ~」


俺とガブルさんが話している後ろで、熊谷さん、武内さん、山口さんにシャーリーさんとセシリア隊長が雑談している。


カフェテリアのように、机と椅子を持ってきて休憩がてら見物していた。

もちろん、机の上に並ぶデザートは、俺が召喚したものだ。


「セシリア隊長、良いんですか? こんなところでサボっていて……」

「サボっているわけじゃないよ~。

シャーリーと一緒に見学に来たら、クマヤたちに誘われたのよ」

「まあ、準備も終わっているし、いいじゃない?

高坂君も、休憩したらどう?」


振り返って、セシリア隊長を注意したらこれだ。

まあでも、帰還準備はとっくに終わっているし、護衛依頼が終わればすぐに、王都に向けて帰るだけだからね。


「まったく……」

「まあまあ、コウサカ。

国境の門の修理修復も終わったことだし、依頼は明日で終了だ。

隊長たちの気が抜けるのも、分かる話だろう」

「そうなんですけどね、ガブルさん」

「フフフ、コウサカ。

この二週間、修理修復に集中でした。

本当に、急な依頼を受けてくれて、ありがとう」

「ガブルさん……」

「いいえ~、どういたしましてぇ~」


俺が感動している後ろから、セシリア隊長の気の抜けた声が聞こえた。

はぁ~、なんだかな~。




▽    ▽    ▽




Side 沢田 義雄


ブロネーバル王国とヒルビー王国の国境の町で、サイクロプスに襲われたようなハプニングはあったが、第二王女一行は無事に、ヒルビー王国の国境を越えて目的のベルバノス公国へと入った。


後は、公国の中心の都に急ぐだけ。

だが、あのサイクロプス戦からオストア騎士隊とバスリー騎士隊の仲が悪くなっていた。

特に親しい関係ではなかったが、ここのところは特に口も利かないようになっている。


サイクロプス戦で、何かあったのだろうか?

それともここにきて、関係が悪化するようなことがあったのだろうか?

私たち召喚者たちは、何を命令されるか戦々恐々としている。


特に、女性たちの表情は暗かった。

もちろん私への命令も、かなりきつく命令されたりしていた……。


「ハァ、空気が悪いな……」

「……しょうがないわよ。私たちは、騎士隊の奴隷なんだから。

馬車のこんな場所に押し込められることなんて、いつもの事でしょ?」

「そうなんですけどね?

他の召喚者たちのことを考えると、ね……」


騎士隊の荷物が押し込まれた、馬車の荷台の奥に座る私たち召喚者たち。

外からは見えないように、こんな場所に押し込まれているのだ。


「……そういえばおじさんは、他の召喚者に会ったって言ってたわね……。

どんな様子だった?」

「ん~、私たちのような首輪をしていませんでした」

「えッ、何それ! 羨ましい!」


私の前に座る二人の女性。

私と同じ日本人で、右の女性は大学生の学生だそうで、左の女性は高校生だそうです。

どちらも、私と同じように召喚されて首輪をはめられたとか。


「あ、後、彼らが言うには、日本に帰る方法があるそうです」

「えっ?! 帰る方法があるの?!」

「そのようです」

「ど、どんな方法ですか?」

「わ、私も聞きたいっ!」

「……彼らの話では、町にある魔石屋で召喚の魔石を手に入れて使うと、日本に帰れるそうです」

「……それだけ?」

「はい、それだけです。

ただ、その召喚の魔石がかなりの高額のようで、今お金を貯めるために騎士隊で働いているとか」

「……」


二人とも、帰れる方法を聞いて黙ってしまいました。

何やら考えこんでいるような……。


ここに押し込まれて、ずいぶん経つが、野営の時と休憩の時以外はここに押し込められる。

町や村についても、ここから降ろしてもらえるのは、宿の馬車置き場だけ。

召喚者の扱いは、かなりひどかったが、もう慣れたな……。


「もうすぐ、目的の都市に着くらしいが……」

「……ええ、そうみたいね」

「私たち、どうなるんだろう……」


騎士隊の所有物として扱われ、私は雑用係。

目の前の二人の女性は、どんな扱いを受けているのか……。

そんな私たちは、今後も騎士隊での扱いは変わらないのだろうな……。


はぁ~、あの人たちが羨ましい。

私も、シュリオンではなく別の国に召喚されればよかった……。






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