第157話 戦いの後と船の一室で
「はぁ~……」
「高坂君、どうしたんですか?」
「いえ、嵐のような出来事だったな、と……」
「そうですねぇ~……」
シュリオン王国の第二王女様一行を国境の門から見送った後、五体のサイクロプスの襲撃に始まり、国境の門がこじ開けられたり、第二王女様たちの馬車が避難してきたり、サイクロプスが襲ってきたりと、護衛兼案内が終わったと思って気を抜いた矢先の嵐のような出来事だった。
今は、国境の門の修復を見ながら、俺たちセシリア騎士太はこの地に足止めされている。
「何々? 高坂君、また気を抜いていると何か起こるかもよ?」
「熊谷さん、勘弁してください……」
セシリア騎士隊は、王都へ戻るための準備をしていた。
サイクロプスによる襲撃のおかげで、準備ができていなかったからだ。
「それにしても、あの男は何だったのでしょうか?」
「ああ、森から出てきた男?」
「そうだよ小春ちゃん。
第二王女様一行について来ていた、二つの騎士隊を相手にしようと戦闘態勢をとった途端、転移して消えた、あの男」
「シャーリーさんからの説明だと、テイマーか召喚士じゃないかって言われていたけど?
後、シュリオンの騎士隊の人の話だと、第二王女様の足止めだったんじゃないかって……」
「足止め? 何のために?」
「さぁ~。何のためだろう?」
「……何か、変な襲撃だったわね。
倒したサイクロプスも、操られていたらしいし?」
「あ、そうそう。
最後に、苦しんでたサイクロプスがいたじゃない?
森から出てきた男が消えたら、すぐにサイクロプスたちも消えたよね?
苦しんでたサイクロプスも、死体となったサイクロプスも……」
「うん、地面に流したはずの血も消えていたらしいって……」
「……私たち、幻を見せられていたのかしらね?」
「あ、シャーリーさん。
シュリオンの王女様一行は、無事に出発しましたか?」
「ええ、出発したわよ。
ヒルビー王国から、追加の護衛が到着したらすぐに……」
そう、シュリオン王国の第二王女様の一行は、ヒルビー王国が追加でよこした騎士隊が到着したその日に、出発していった。
しかも、急ぐように……。
おそらく、俺たちが聞いたあの例の件が関係しているんだと思う。
シュリオン王国の王族の入れ替え、そして王国の乗っ取り……。
まあ俺たち召喚者にとっては、国の頭が変わるだけであまり関係ないように思えるが、シュリオン王国に召喚された沢田さんたちにとっては、自分たちの扱いに関わる重要なことになるのだろう。
シュリオン王国の召喚者たちを、どうにか救えればいいんだけど……。
▽ ▽ ▽
Side ???
船の中にある宝物室。
暗く、静かな宝物室に忍び込んだ私。
誰にも見つからないように、あの人が甲板にいるのを確認してここに忍び込んだ。
ゆっくりと宝物室の中を進み、部屋の一番奥にある台の上にある立派な宝箱。
金で装飾されている宝箱だが、私の目的箱の宝箱じゃあない。
手を伸ばし、ゆっくりと宝箱の蓋を開ける。
ギギッと音がするが、気にせず開けると、中身が私の視界に入った。
そこには、赤いクッションの上に鎮座する七つの魔石。
その魔石は、私の拳と同じぐらいの大きさで、青白く淡く光っている。
私はそのうちの一つを取ろうと、両手を伸ばす……。
「ダメだよ、ヨリコ。
その魔石を手に取って、ここで使ってしまっては……」
急に声をかけられて驚いた私は、素早く振り返る。
入り口の扉の前にいたのは、甲板にいたはずのあの人……。
「オレリーナ隊長……」
「それを今手にとってはダメだよ、ヨリコ。
その魔石は、君たち召喚者たちを送り帰すためのもの。
ヨリコ一人だけを帰したとなったら、他の召喚者たちが悲しむじゃないか?」
「ごめんなさい、オレリーナ隊長。
でも私は……」
「大丈夫ですよ、ヨリコ。
シュリオン王国が召喚した召喚者は、ほとんどこの船に乗せて連れてきた。
後は、第二王女一行が連れている召喚者だけ。
第二王女が到着したら、その七つの魔石で送還陣を起動すれば、ヨリコの故郷へ帰すことができる。
……もう少しの辛抱だよ、ヨリコ」
「……はい……」
私は、涙を流しながら返事をした。
この世界に召喚され、隷属の首輪をはめられてからずっと、私は死んでいた。
いや、生きてはいたが、心が死んでいたんだ……。
首輪の主が、シュリオン王国の第二王妃のジナという方だった。
これは、私たち召喚者の尊厳を守るための主知だったのだが、実際は、私たちの尊厳は傷付けられ続けていた。
毎夜毎夜、貴族の相手をさせられる日々。
貴族以外でも、王の夜の相手もさせられていた。
私たちの尊厳は踏みにじられ、自殺しようにも首に嵌められた隷属の首輪のおかげで自殺することもできない。
ジナ王妃様は、私たちに嵌められた首輪の主というだけで、命令権は譲渡されていたのだ。
あの日々は、地獄そのものだった……。
そこへ一筋の光となったのが、目の前にいるオレリーナ騎士隊隊長のオレリーナ・ソルベルだった。
シュリオン王国全体の腐敗を、騎士隊隊長ながら嘆いていて、何とかしたいと考え続けていた。
そこへ、召喚者たちの現状を聞きつけ、まずは召喚者たちの開放をと立ち上がってくれたのだ。
「オレリーナ隊長、公国へは到着したのですか?」
「もうすぐだよ。
先発したサラシェール様はすでに到着して、公国の王宮で歓待を受けていることだろう。
そして、後から来る偽者のことも知らせているはずだよ……」
シュリオン王国第二王女、サラシェール様の偽者。
いえ、本当の偽者は、最初に到着した方。
後から来る方こそが、本物のサラシェール様……。
オレリーナ様に先導されながら、宝物室を後にする。
もうすぐ、もうすぐ私たち召喚者は、この隷属の首輪から解放され、日本に帰ることができる。
ああ、早くお母さんに会いたいなぁ……。
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