第48話 彼女たちの名前



俺と片山、水澤さんの三人は、隊舎にある隊長室で正座をさせられていた。

そして俺たちの前には、机に腰かけて俺たちを睨むセシリア隊長とその側に立つシャーリーさん。


さらに、オルブランさんも腕組みをして俺たちを見ている。

さらにさらに、正座している俺たちの後ろでは、熊谷さんと武内さん、それに佐藤さんに抱きついて泣いている水澤さんの奴隷になった女性三人がいる。


「……さて、ミズサワ?

あなたは、召喚された異世界人の中では一番の年上よね?

もう少し、自制心を持った方がいいんじゃない?」

「……はい、すみません」

「だいたい騎士隊の隊舎に奴隷を、それも三人も連れて来るってどういうことですか?

三人で分けるってことですか?」

「……いえ、そう言うわけでは……」


水澤さんがセシリア隊長に自制心を持つように責められ、さらにシャーリーさんに、三人の奴隷を連れてきたことを責められる。


「うえぇぇえぇぇ…」

「もう大丈夫だよ~、怖かったよねぇ~」

「クズな三人は、隊長が叱ってくれるから……ね?」

「大丈夫、大丈夫です……」


三人の奴隷の女性たちは、熊谷さんたち三人がそれぞれ抱きしめて慰めている。

三人とも奴隷商を出てから、この隊舎に到着するまでずっと黙ったままだったが、この隊舎に到着して入り口にいた佐藤さんを見て、涙を流しだした。


佐藤さんは、それで何かを察したのか、その場で涙を流す三人の奴隷たちをそのままに、セシリア隊長と熊谷さんや武内さんを呼んできた。


涙を流す、三人の女性の奴隷にアワアワしている俺たちを見たセシリア隊長は、すぐにその場にいる全員を隊舎内の隊長室に連行し、シャーリーをメイドのマリーさんに呼んできてもらっていた。


で、今の隊長室の状況になったのだ……。


「オルブランから聞いたわ。

ミズサワ、身の回りのお世話をしてもらうために奴隷購入を考えていたそうね?」

「あ、いや、それは……」

「で、我慢できずに、その三人を購入してきたと?」

「い、いや、そうではなくて……」

「はっきり言いなさい! 夜のお世話も考えて、購入したんでしょ?!」

「え、い、いや、そ、そんなことは……」


水澤さんが、セシリア隊長とシャーリーさんの攻めにしどろもどろになっている。

珍しいな……。


そこへずっと黙っていたオルブランが、腕組みを解き水澤さんを庇いはじめる。


「まあ落ちつけ、セシリア隊長にシャーリー。

ミズサワにも、言いたいことがあるだろう。

そう二人で攻め立てていては、話したいことも話せないだろうが……」

「オルブラン……」

「し、しかし……」


言い淀むセシリア隊長とシャーリーさんを手で制すと、水澤さんに声をかける。


「それで、何で今、奴隷を購入したんだ?

俺に相談してくれたときは、もう少し考えるとか言ってなかったか?」

「……あの時は、そう考えていた。

今もそうだ。私にはまだ、奴隷は早いと思っている」


再び攻めようとしたセシリア隊長とシャーリーさんを、もう一度手で制した後、オルブランさんは質問する。


「なら何故、あそこにいる奴隷たちを?」

「……後ろの三人の奴隷は、私たちと同じ異世界人だ」

「え?」

「……ちょっと待って、異世界人?

ミズサワ、本当にあの三人の奴隷は、異世界人なの?」

「はい、間違いありません」


セシリア隊長をはじめ、みんなの視線が佐藤さんに慰められている三人に注がれる。

みんなの視線を感じて、しゃくりあげながら泣き止んだ三人は、佐藤さんたちに抱きついた。


「ねぇミズサワ、その三人について教えてくれるかしら?

奴隷商から、情報はもらっているんでしょ?」

「は、はい。

一番左端の佐藤君の側にいるのが、泉谷明日香(いずみやあすか)と言い、歳は23。

職種は、忍者です」

「ほう、忍者か。

情報収集能力や諜報活動に特化した職種だな。

ただ、戦闘能力はイマイチという弱点があるが……」


忍者か。女性なら、くノ一に成りそうなんだがそうは成らなかった、というわけか。

でも、有能職種のような気がするけど……。


「その右隣りの熊谷君の側にいるのが、山口美月(やまぐちみつき)です。歳は20。

職種は、メイドマスター」

「メイドマスター!

マリーたちメイドの、上位職種だな。

ただ、マリーたちは戦闘メイドだが、メイドマスターは戦闘能力はない」


オルブランさんの説明によれば、メイドマスターはメイドとしては超優秀だが、戦闘力がないため戦いでは役立たずとなるようだ。

でも、メイドとして超優秀なら使いどころはかなりあると思うが……。


「最後の武内君の側にいるのが、大神美奈(おおがみみな)、歳は25。

職種は、メッセンジャーです」

「メッセンジャー?

……確か、メッセージを指定の人物に届ける能力だったか?

その射程は無限で、どんな場所にいようともメッセージを届けられるらしいが……」


メッセンジャー、そんな職種もあるんだな。

でもこの職種も使い方次第で、チート能力にもなりそうな気がするな。

三人とも、結構な能力を持っているような気がするが……。


「……三人とも異世界人で、職種があるということは……」


シャーリーさんは、三人が異世界人で職種があることに何か気づいたようで、セシリア隊長の方を見た。

セシリア隊長も、シャーリーさんの視線を受け取って頷く。


「ええ、この三人は召喚された異世界人ね。

それも、どこかの騎士隊に預けられた異世界人ということね。

ミズサワたちと同じようにね……」

「ん~、最近、異世界人を失ったって届け出が出ていた騎士隊といえば、一つしかない……」


セシリア隊長の話を聞いて、オルブランさんが答える。

全員の視線が、オルブランさんに集まる。


「ブランシス騎士隊、だな……」

「ヒッ!」

「!」

「……」


佐藤さんたちに慰められていた三人が、オルブランさんの言った隊の名前を聞いて身を縮めている。

怯えているようだが、何かあったのか?


「……この反応、彼女たちに何かあったらしいな……」

「ブランシス騎士隊には、よくない噂もあります。

特に、オスティオ副隊長のことが……」

「「「!!」」」


オスティオ副隊長の名を出したところで、大神さんたち三人は佐藤さんたちの服を力いっぱい握っている。

それに気づいた佐藤さんたちが、三人の頭を撫でて気持ちを落ちつかせていた……。


「……彼女たちの反応。

やっぱりブランシス騎士隊で、何かあったのでしょうか……」

「セシリア隊長、俺がちょっと調べてみるわ」

「気をつけてね、オルブラン」

「ああ」


……召喚された異世界人は、騎士隊の助っ人として召喚されたはずだよな。

現に俺たち六人は、お荷物騎士隊と揶揄されていたセシリア騎士隊の助っ人になるために召喚されたし……。


それが、隊の名前を聞いただけで怯えるなんてな……。







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