第47話 奴隷契約



次の日、俺と片山は、水澤さんと一緒にフェリバナ奴隷商へとやってきた。

俺たちが協力したおかげで、目標金額の金貨三百枚に到達したため目的の奴隷たちを購入するためだ。


「ここが、奴隷商ですか……」

「ほ~、結構きれいな店構えなんだな」

「では、入りましょうか」


水澤さんを先頭に、片山、俺と続き店内に入っていく。

店の中に入ると、すぐに執事のような服を着た初老の男性が迎えてくれた。


「お待ちしておりましたよ、ミズサワ様。

約束の期限まで、今日を入れて二日。

購入するためのお金は、ご用意できましたか?」

「はい、フェリバナ店主さん。

ここに、金貨三百枚を用意しました」


そう言って、腰のポーチから金貨三百枚が入った革袋を取り出し、店主という男性の前に出した。

店主はその革袋を受け取り、中身を確認する。


「……はい、確かに金貨三百枚、確認しました」


革袋を開けて、中に手を入れてざっと確認しただけに見えたけど、ちゃんとわかるのか?

もしかして、何か確認できるスキルでもあるのか?


そんなふうに、俺が不思議の思って見ている間に、店主は革袋の口を閉めてカウンターの中に置いた。

そして、俺たちに向き直ると店の奥を手で案内した。


「では、こちらにどうぞ。

私が、ご案内いたします」

「よ、よろしく……」


水澤さんが、緊張しているみたいだ。

俺たち召喚された異世界人の中で一番の年上でも、こういう時は緊張するのか……。


俺も、奴隷を購入するときは緊張してしまうのかな……。



カウンター横の扉から店内へ案内されると、どんどん奥へ奥へと進んで行く。

その間、長い牢屋が左側にあり、中にいる女性の奴隷たちを見ながら移動することになった。


俺と片山は、初めて奴隷を見ることになったが、いろいろな姿の奴隷がいるものだと感心しながらの移動となった。

ただ水澤さんは緊張のためか、まっすぐ前を向いたままだった。


そして、何度か隠し扉を通って、地下への階段を降りる。


「こんな奥に、地下への階段があるのか……」

「これって、やっぱり特別な奴隷ってことなのか?」

「そうでしょうね。

何せ、奴隷となっている方たちは、異世界人なのですから……」

「……え?」

「水澤さん? それって……」


俺と片山は、困惑しながらも階段を降りきると、目の前に大きな牢屋が現れた。

床から天井まで、鉄格子がはめられている牢屋だった。


ここで、案内してくれた店主が俺たちの方に振り返る。


「ここからは、購入者のミズサワ様だけついて来てください」

「わ、分かりました」

「じゃあ、俺たちはココで待ってるぜ」

「はい」


店主さんと水澤さんは、俺と片山さんを置いて牢屋に近づいていく。

そして、店主さんが牢屋に掛かっている三重の鍵を外す。


三重に鍵をかけるなんて、厳重過ぎるような気がする。

が、牢の中にいるのが異世界人ならしょうがないのか?




▽    ▽    ▽




Side 水澤大輔


店主さんが鍵を外すと、牢屋の扉が開き中へと案内される。

店主さんと二人で中へ入ると、三人の女性が床に座ったままこちらを見た。

表情も変えず、ただ確認のために見た後、再び目をそらした。


彼女たちは全体的に薄汚れていて、髪はボサボサ、服は灰色のワンピースを着ているだけだった。

完全に、どこか諦めている感じがする。


「ミズサワ様、順番に奴隷契約をしていきましょうか」

「は、はい。お願いします」

「ではまず、この女から……」


一番左端にいた女性の側に行き、左腕をさわって持ち上げる。

すると、女性の左肘の上に黒い腕輪がはめられていた。


「この腕輪は?」

「これが、当店の奴隷の腕輪です。

通常奴隷は、奴隷の首輪を嵌めるのですがそれだと、自分は奴隷ですと分かってしまいます。

特に、ここにいる異世界人の奴隷は通常は手に入らない者たち。

そのため、首輪では目立ってしまう上に世間の目が気になります。

そこで、目立たない奴隷の証として腕輪を開発いたしました」


な、なるほど。

異世界人の奴隷と分かってしまったら、いろいろと問題があるから目立たない奴隷の戒めを作ったということですか。


「それで、奴隷の制限はどうされますか?」

「自殺禁止でお願いします」

「自殺禁止だけで、よろしいので?」

「はい、それだけでお願いします」

「分かりました」


そう返事をすると、店主は呪文を詠唱して私の左手を掴んだ。

するとすぐに、私と女性との間に何か繋がった感覚がする。


「……はい、これで奴隷契約ができました。

ミズサワ様には、こちらをお渡ししておきます」

「……指輪?」


店主さんは、懐から指輪を一つ渡してきた。


「これは、奴隷の主人の証となる指輪です。

もちろん、通常は違うのですがこれも当店自慢の特別製です」

「な、なるほど……」


店主が自慢気に指輪を渡したので、とりあえず左手の人差し指に嵌める。

嵌めた直後は、ブカブカだったがすぐにちゃんと嵌まるサイズに小さくなった。

サイズが自動で変わるのか……。


ふと誰か視線を感じ、顔をあげると今契約した女性が、私をジッと見つめている。

さっきまで死んだような目だったのに、今は少し光りが戻ってきたように見えた。


「ミズサワ様? 次の奴隷との契約に移りますよ?」

「あ、ああ、お願いします」


今も私を見つめる女性から離れて、真ん中の女性の側へ移動する。

そして、左端の女性と同じように自殺を禁止して奴隷契約をした。

さらに、最後の女性とも同じように、自殺することを禁止して奴隷契約を結ぶ。



「ミズサワ様、お疲れさまでした。

これでこの三人は、ミズサワ様の奴隷となります。

このまま、連れて帰りますか? それとも、後ほどお届けにあがりましょうか?」

「あ~、いや、連れて帰ります」

「そうですか、では、三人に立ち上がるようにご命令ください」

「ああ、分かった」


そう返事をして、三人の女性の方を見ると、すでに立ち上がって私を見ていた。

な、何だろう。

物凄く、居心地が悪いような感じがするのだが……。






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