第46話 購入資金



Side 水澤大輔


「ミズサワ様、ついて来てください」

「は、はい」


フェリバナ奴隷商の店の奥にあった部屋には、地下への階段があった。

そこを降りていく店主のフェリバナさんと私、水澤大輔。


一階の店内よりも、少しだけ暗い地下への階段。

足元を注意しながら、階段を下りていくと降りきった先に牢屋があった。


「……牢屋?」


そう呟くと、店主さんが私に振り返り核心をついてくる。


「ミズサワ様? あなたは異世界人ですね?」

「え、わ、分かりますか?」

「もちろんです。

私たちとは少し姿形が違いますし、魔力の感じも違いますからね。

何となくですが、私とは違うものだということは分かるんですよ」

「そ、そうなんですか……」

「あ、そう警戒する必要はありません。

私があなたが異世界人かどうか聞いたのは、理由があるのです」

「理由?」

「ええ、この牢に入れられている奴隷たちは、特別な奴隷なのです。

その主人になるには、同じように特別な主人でなければなりません」

「それが、異世界人であること?」

「はい、その通りです」


……ちょっと待って、今店主さんは何を言った?

牢の中の奴隷は特別で、主人になるには特別でなければならない。

その特別は、異世界人であること。


……と言うことは、牢の中の奴隷は、異世界人?!


どういうことだ?

この世界は、魔王がどうのこうのはなかった。


それに、元の世界に帰るには送還魔石が必要で、その魔石はかなりの高額。

だから、お金を稼いで魔石を購入すれば、元の世界に帰れるはずだ。

セシリア隊長は、そう私たちに説明していた……。


それならば、異世界人が奴隷になるとはどういうことなのか?


「あの、もしかして、その牢の中に奴隷たちは……」

「気づかれましたか。

そうです。この牢に入っている奴隷三人は、全員異世界人です」

「やっぱり……。

でも何故、異世界人が奴隷に?」


店主さんは、私の質問に表情を暗くして後ろを振り向き、言葉を続ける。


「……この三人を奴隷にしたのは、ある騎士隊の隊長です。

使えない異世界人などいらないと、そう言って奴隷として売られました……」

「異世界人でも、奴隷になることがあるんですか?」

「それは、まあ、あります。

過去何度か、奴隷になった異世界人はいます。

ただ、表立って扱うことはできません」

「表立って?」

「はい、騎士隊などが異世界人を召喚するのは、救済措置で召喚されるのだと聞いています。

例えば、騎士隊の成績がよくないとか、人員が極端に少なくなったとかですね。

今回売買を申し出てきた騎士隊は、この人員確保のために異世界人を召喚したそうです」


……騎士隊の人員が、何かの依頼の失敗などで極端に減り、騎士隊存続の人員を確保するために召喚したということか?


それで、いらなくなって奴隷って理不尽すぎるだろう……。


私は牢に近づき、中を確認する。

すると、手枷、足枷をつけられた三人の女性が座り込んで動かなかった。

少し暗がりではあるが、目が死んでいる……。


「ミズサワ様、どうでしょうか?

この三人の購入を、考えてはもらえませんか?」

「……いくらですか?」

「ミズサワ様?」

「店主さん、この三人の値段は、いくらですか?」

「おお、ご購入いただけるんですね?

この三人は、表立って売買できる奴隷ではありませんが、ミズサワ様は条件を満たしています。

ですので、三人合わせて金貨三百枚でいかがでしょうか?」

「き、金貨三百枚、ですか……」


金貨三百枚、か。

今私の持ち合わせは、報奨金も合わせて金貨九十三枚。

全然足りない……。


私の苦悩する表情を見て察したのか、店主さんが救済案を提示してくれる。


「……いかがでしょう?

五日までであれば、このまま待つこともできますが……」

「本当ですか? では五日後にまでに、金貨三百枚持ってきます」

「では、お待ちしておりますミズサワ様」

「……えっと、ちなみに五日経つとこの三人はどうなるんでしょうか?」

「別の国の、私どもの系列の奴隷商へ送られます。

この国以外でも、異世界人召喚はされていますので……」

「なるほど、別の国の異世界人のもとに?」

「はい、異世界人の奴隷は、異世界人の主人しか持てませんので……」


この国以外でも、異世界人召喚は行われているのか。

で、その異世界人で購入してくれそうな異世界人に渡るということか。


でも、扱いはどうなるんだろうな……。

私は、奴隷に対しては初心者だけど別の国の異世界人はどうなんだろうか。


もしかすれば、もしかするかもしれない……。

そんな嫌な予感を振り切り、私はこの日より購入資金を何とかしようといろいろなバイトを始めた。


しかし、時間はわずか五日。

どうにかなるか分からない時間だが、やるだけやってみる。




▽    ▽    ▽




水澤さんの様子がおかしくなってから三日目の夜、俺と片山は水澤さんから奴隷購入についての告白を受けた。


水澤さんは、自分のベッドに腰かけて俯いている。

それはそうだろう、俺たちに奴隷を購入したいからお金を貸してもらえないだろうかと言われたのだから……。


「……水澤さん、奴隷購入の資金が足りないんですか?」

「あ、ああ、三人合わせて、金貨三百枚必要なんだよ……」

「さ、三百枚?!

何で、そんな高い奴隷を……。いや、そもそも、何で三人も買いたいんですか……」

「そ、それは……」


水澤さんが、頭を下げてお願いしてきたんだし、貸してもいいんだけど理由が知りたい。

奴隷を、三人も購入する理由が。


別に、奴隷購入に反対しているわけではない。

俺も、機会があれば奴隷を購入してみたい野望はある。

それは、片山も同じ気持ちだろう。


……ん~、ここは黙ってお金を貸したら漢らしいか?

お世話になっている水澤さんの頼みだ、叶えてあげたい……。


俺はそっと、水澤さんの前に俺の全財産、金貨百十二枚が入った革袋を置く。

それと同時に、片山も同じように金貨の入った革袋を水澤さんの前に置いた。


「……高坂君? 片山君?」

「水澤さん、使ってください。

理由を言えないということは、訳ありの奴隷なんでしょ?

水澤さんは優しいですから、その奴隷を助けたいんでしょ?」

「高坂君?!」

「水澤さん、水臭いですよ!

コンビニのバイトの時も言いましたけど、ずっと力になりたかったんです。

金貨百五枚入ってます。使ってください」

「……ありがとう! ありがとう! 高坂君、片山君!」


片山と俺のを合わせて、金貨二百十七枚。

水澤さんがどれだけ持っているか分からないけれど、金貨三百枚に届くといいが……。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る