第45話 フェリバ奴隷商



Side 水澤大輔


大きな屋根の白い壁のこの一軒家が、奴隷商。

黒い玄関扉が印象的だが、その扉の前に執事のような男性が挨拶してくれる。


「ようこそ、フェリバナ奴隷商へ。

まずは、中へどうぞ?」

「あ、はい」


黒い扉を開けて、執事のような男性が中へ入るように促してきた。

私は、その男性に導かれるように中へと足を踏み入れる。


店の中に入ると、十畳ほどの白い壁が特徴の店内だ。

そこに、黒いカウンターがあるだけ。何もない……。


「まずは初めまして、私はこの奴隷商の店主をしているフェリバナです。

お客様は初めて、私どもの奴隷商をご利用ですか?」

「あ、は、はい。

買うかどうかは、あの、まだ、分かりません…が……」

「それは構いません。

奴隷は、高額のものもありますからね。

ご利用する貴族以外の方は、値段を見てからお決めになります。

ですから、ご購入されなくても問題はないのですよ」

「そ、そうなのですか……」


奴隷購入初心者は、値段を見てから購入を決めるのか。

高い買い物だからな、そこは奴隷商側も理解しているってことか。


「ではお客様、こちらへどうぞ?」


そう言われると、カウンターの前に椅子を用意され座るように勧められる。

私は、勧められるままに椅子に座った。


「では、まずはお客様のお名前を教えてもらえますかな?」

「あ、水澤です。よろしくお願いします」

「はい、こちらこそよろしくお願いします、ミズサワ様。

では、ミズサワ様は何故奴隷を購入しようとお考えに?」

「えっと……」


こっちの世界に召喚される前から、考えていましたとは言えないな……。

だから、身の回りのお世話をお願いしようと考えていると伝える。


「なるほど、身の回りのお世話を……。

となると、女性の奴隷の方がいいでしょうか?」

「……そ、そうですね」


店主さん、ニヤニヤしながらこちらを見ないでくれませんか?

分かっていますよお客様、という心の声が聞こえてくるようです。


「では、こちらへ。どのような奴隷がいいか、ご確認ください」

「は、はい!」


カウンターの隣にある扉のノブに手をかけて、店主の男は案内してくれる。

その扉の奥に、商品の奴隷が用意されているらしい。


壁と同化している扉を開けて、奥へと案内してくれた。



扉を抜けると、そこには長い廊下が真っ直ぐ伸びていて、右側が壁で、左側が牢屋になっている。

鉄格子が廊下と同じ長さだけ続き、その牢の中に女性奴隷たちが入っていた。


「まず、手前の子たちは元貴族といった身分あった者たちです。

見目も美しく、それなりに高額となります。

次が、借金奴隷の子たちですね。

購入の際は、彼女たちの借金を肩代わりしてもらうために高額となります。ご注意ください。

最後は、訳あり奴隷となります」

「訳あり、ですか?」

「はい、訳あり奴隷です。

他の奴隷商から回ってきた者や、欠損部分がある者、あとは呪われているとかですね。

ああ、犯罪奴隷はこの先の別部屋になります。

一緒に並べると、問題を起こす可能性がありますので……」


店主の話では、犯罪奴隷と一般奴隷を一緒に並べていると傷付けられる可能性があるらしい。

他にも、脅されたりして精神を病んでしまい価値が下がるんだとか。

犯罪奴隷の中には、他の奴隷で鬱憤をはらすものが一定数いるらしい。

困ったものですと、本当に悩みの種になっているようだ。


私はそんな、犯罪奴隷を購入しようとは思わないが、一応確認しておくことに。


「では、こちらにどうぞ」


そう言われて、行き止まりにある壁に同化しているノブを掴んで、扉を開ける。

店主と一緒に、扉の先に入ると雰囲気が一気に変わった……。



造りはさっきの閲覧場所と変わらないのに、空気が違う。

特に、牢屋の中にいる女性奴隷たちからすごい睨まれている。


「……チッ、おっさんじゃねぇか」


睨む女性奴隷たちの誰かが、ボソッと言った声が聞こえる。

それだけ、静かなのだ。

店主と私の足音だけが響き、牢屋の中からずっと睨まれていた……。


「あ、あの、ここはいつもこんな感じなのですか?」

「ええ、ここにいる女性たちは、全員犯罪を犯して奴隷になった者たちです。

ただし、中には冤罪の者もいるでしょうね」

「え、冤罪?」

「ええ。ですが、それを証明したところで奴隷から解放されることはないでしょう。

ここにいる者たちの大半は、鉱山やダンジョン、あとは戦場に送られることになります。

そこで生き延びたとしても、恩赦で解放されることはありません。

せいぜい、訳あり奴隷になるくらいなのです……」

「……」


鉱山やダンジョンでの壁役、戦場に送られて最前線へ、か。

そんな中で生き延びたとしても、せいぜい訳あり奴隷になるだけ……。


それに、犯罪奴隷は一般の人への販売は基本されていない。

その事を知って、先ほどから睨んでいる彼女たちを見ると、恐怖心が何故か消えて哀れみだけになった。


「チッ!」


それが分かったのだろうか、睨んでいた女性たちが目をそらすようになった。


廊下を進み、牢の中の女性犯罪奴隷たちを眺めながら突き当りに来た。

すると、壁に同化したノブを店主が握り扉を開ける。

もしかして、まだこの先があるのか?


店主について、扉の中に入ると地下への階段が現れる。


「……これは?」

「この下は、時別な奴隷たちが集められております。

特別に、ミズサワ様にはご覧に入れましょう」


そう言って、階段を降りていく。

私は、店主に続いて、階段を下りていく……。




▽    ▽    ▽




Side ???


暗い部屋の中、牢獄に入れられている私たちは手枷、足枷を嵌められている。

そして、奴隷の首輪をされていた。


ここ奴隷商に売られた時から、ずっと考えていた。

なぜ、私たちはここに売られたのだろうか、と。


連中から見れば、私たちは役立たずだったのだろうか……。

自分たちのスキルを使いこなれるように、一生懸命勉強し考えて使っていたのにな……。

こんなところに、捨てられるなんてね……。







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