第43話 兄と妹



このダンジョンマスターのコニーを庇うスフェール様に、その兄であるウィリアム様が剣を向けている。

妹に向けているというより、その後ろのコニーに向けているんだよな……。


「そこをどくのだ、スフェール!

ダンジョンマスターがなぜ、討伐対象になっているのか知っているだろう?!」

「知っていますわ!

ダンジョンは、魔王を生み出し育てる揺り篭のような存在とされているからですわ!」

「ならば今ここで、ダンジョンマスターを討伐する必要があるのも分かるだろう?

今討伐しておかねば、のちにこの王都で魔王が生まれ世に出てしまうかもしれぬのだぞ!!」

「それは推測でしかありませんわ!

それよりも、ここを我が公爵家で保護するのです!」

「な、何っ?!」

「そして、第二の王都として食糧を作る場所とするのです!」

「……我が妹よ、今自分が何を言っているのか分かっているのか?」

「もちろんですわ、お兄様。

考えてもみてください。こちらのコニーさんが、魔王を生み出すようなダンジョンマスターに見えますか?」

「ん……」


今まで言い争っていた二人だったが、スフェール様は穏やかな表情で、後ろにかばうコニーを見る。

それにつられ、ウィリアム様も改めてコニーを見た。


スフェール様に庇われていたコニーは、おどおどとしながらスフェール様の背後から顔を出してウィリアム様を見た。


その二人のやりとりを、少し離れた位置から俺たちは眺めている。

また、戦闘メイドのアニーさんは、兵士と戦わずに膠着状態だ。


「……た、確かに、ただの少女にしか見えないが……」

「コニーは、元々王都のスラムで生きていたのですわ」

「何と……」

「ある日、食糧を求めて歩き回り、城壁の穴から王都の外へ出た。

そこに穴があって、落ちた先にダンジョンコアがあったそうです」

「……」

「コニーは、きれいだと思ったダンジョンコアに触れたことでダンジョンマスターになりましたが、今の今まで人を襲ったことや殺めたことはありませんわよ?」

「……それは本当か? コニーとやら」

「は、はい! 本当です!

今まで、ダンジョン成長の糧としたのは、王都周辺の魔物だけですし……」


ウィリアム様に、コニーはダンジョン成長のことを言うが最後は声が小さくなってしまう。


「そうか……」

「あ、それじゃあ、最近王都周辺の魔物討伐依頼や魔物による被害が少なかったのはそれが理由か~」

「?! それはまことか?」

「はい、王都の騎士隊への依頼も減っていましたし、冒険者への依頼も少なくなっていたようですよ」

「なるほどな……」


コニーの言ったことに反応したのは、ウィリアム様ではなくエミリーさんの友人のアルニーさんだった。

それを聞いて、ウィリアムさんはコニーを討伐する考えが変わってきたようだ。


現に、ウィリアム様の構える剣が下がっていた。

そして少し考えた後、兵士たちの方を向くと命令する。


「皆のもの、剣を納めよ!」

「え?」

「ウ、ウィリアム様?!」

「この者たちは敵ではない! 私の早とちりだったようだ。

だから、剣を納めよ!」


そう強く命令すると、兵士たちは渋々構えを解き剣を納めた。

敵意が無くなった兵士を前に、戦闘メイドのアニーさんも構えを解きコニーの側に移動する。


改めて、ウィリアム様は妹のスフェール様とコニーに頭を下げた。


「すまない。私の早とちりで、コニー嬢に剣を向けてしまった」

「あ、い、いえ、私は、大丈夫ですから……」

「お兄様、先ほどわたくしが進言したとおり、このダンジョンは公爵家の庇護下に置き、大農園場を作るのです!」

「大農園場か……」


なるほど、フィールドダンジョンの階層を大農園場としたら、天候とかはダンジョンマスターのコニーの思い通りになる。

ということは、自然による災害で農作物がダメになることがないから、作り方次第では毎回大豊作ということになるな……。


「でもそれなら、理想は大きな町に一つの管理ダンジョンということですな」

「……なるほど、確かにその通りだ。

君、なかなかいい着眼点を持っているようだね。名前を教えてくれるか?」

「セシリア騎士隊所属の、ミズサワと申します」

「ミズサワか、覚えておこう。

それにしてもセシリア隊長、セシリア騎士隊は、いい人材をそろえているな。

とても噂にある、お荷物騎士隊とは思えないぞ?」

「お、お褒めにあずかり、光栄です……」


セシリア隊長の笑顔が、引きつっている引きつっている……。

ウィリアム様には悪気はないんだろうが、ああも面と向かってお荷物騎士隊と言われるとな……。


「ねぇねぇ、コニー……」

「ん? どうしたの、みんな」

「早く種まき行こうよ……」

「そ、そうね。みんなで、種まき行こうか?」

「うん!」


コニーのさらに後ろで固まって震えていた子供たちが、俺たちの雰囲気が柔らかくなったことを感じ取って、コニーに当初の目的である種まきに誘ってきた。

不安そうな表情で、話しかけるもコニーの笑顔で子供たちも笑顔に変わる。


「そうですわね、まずは種まきをしましょう!

さ、お兄様も、手伝ってくださいませ!」

「わ、私もか?」

「当然ですわ! 公爵家の者なのですから、庶民がどんな生活を送っているのか知るいい機会ではございませんか!

さ、行きますわよ」

「ス、スフェール?! て、手を掴まなくても……」

「ウィリアム様! スフェール様!!」


コニーと子どもたちの後を追いように、ウィリアム様は、スフェール様に掴まれて連れていかれた。

その二人を追いかけるように、兵士たちがあとを追いかける。


さらに、俺たちがそれについて行く形だ。


「セシリア隊長! 我々は、入り口で衛兵の本隊を待ちます。

説明をしないといけないようなので……」

「あ、はい、分かりました。

くれぐれも、害はないと説明をお願いします!」

「分かりました!」


セシリア隊長がそう言うと、衛兵の三人は笑顔で了承していた。

あの様子なら、このダンジョンは大丈夫だろう。




▽    ▽    ▽




Side ???


どこかの執務室の椅子に座った男が、報告のために渡された小さい紙を見て笑みを浮かべていた。


「クックックッ、王都にダンジョンか……。

しかも、失踪事件の原因となっているとはな……」


さらに男の近くには、跪いた女性が頭を下げている。


「……それにしても、セシリア騎士隊に入った異世界人、なかなか使えるではないか。

やはり異世界人のスキルは化けるようだな、なあ、オオガミ?」

「……」


跪く女性は、頭を下げたまま歯を食いしばっていた……。






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