第41話 見えた黒煙
Side ビリー
俺はエミリーたちと別れた後、すぐに隊舎に戻り帰っていたセシリア隊長に事情を説明すると、このまま衛兵の詰所へ知らせるように指示される。
シャーリーさんには、クマヤとサトウを連れて、カタヤマの地図に記された場所へ向かうように指示を出していた。
とりあえず俺は急いで衛兵の詰所へ行き、失踪事件の失踪者の居場所が分かったことを知らせると、すぐに案内するようにと衛兵三人がついてきた。
「どっちだ?!」
「こっちです! 東門を出て、城壁沿いを南へ行った途中にあります」
「そんなところに、連れて行かれていたのか……」
「急ぎましょう!」
詰所から走って、東の門へ向かう途中の曲がり角で会話があった後は、俺たちは無言で走った。
隊舎から二分ほど走って、衛兵の詰所にたどり着き、そこから三分ほどで東門に到着する。
俺たちセシリア騎士隊の隊舎は端にあるからな、衛兵の詰所とも距離が近い。
だからこそ、こんな短時間で移動できるわけだが……。
東門につくと、門にいる兵士に声をかけられる。
「止まれ! お前、衛兵に追いかけられていたのか?」
「ああ、違う違う。
例の失踪事件の、失踪者の所に案内をしてもらっているところだ」
「失踪事件の?! 見つかったのか?!!」
「それを確認しに行く所だ」
「そ、そうか。……ご苦労様です!」
「ん!」
そう言って敬礼で挨拶をして、東門を通してもらった。
通るついでに、俺は門兵に質問する。
「この門を、変わったお揃いの服の男二人と魔術師の女性が通りましたか?」
「ん? ん~、そんな感じの男たちと女が確かに通って行ったな……」
どうやら、エミリーたちもここを通って行ったようだ。
カタヤマの地図に表示されていた場所は、まっすぐ行けばスラムを通って行くことになるからな。
エミリーが、スラムを通らずに向かう道を教えたんだろう……。
「あ、でも、その三人の後を追いかけるように女性が通って行ったぞ。
あの女性も、たぶん魔術師だな」
「分かるのか?」
「そりゃ、分かるさ。
魔術師は、何ていうか雰囲気が違うからな~。
魔力っていうのか? 体から、こう、オーラみたいに出ているみたいなんだよな……」
「へぇ~、見えたのか?」
「見なくても分かるよ。
そういうのに敏感にならんと、門兵は務まらんよ」
「そうか」
門兵だからこそ感じる、何かってところか。
まあ確かに、怪しい奴とか分からないと職務怠慢なんて言われるだろうからな。
特に、この王都の門兵となれば……。
「ビリー殿! 行きましょう!」
「あ、はい!」
衛兵の一人に呼ばれ、俺は城壁沿いを南へ走って行った。
城壁沿いを走っていると、後ろから馬の走る音が聞こえたかと思ったら俺を呼ぶ声が聞こえたため、振り返る。
するとそこには、馬に乗ったセシリア隊長と貴族の貴公子、そして、どこかの騎士や兵士たちが馬に乗って続いてきた。
「ビリー! 止まって!」
「え?! セシリア隊長?!」
馬に乗ったセシリア隊長が、俺の側で止まり降りてくる。
貴公子は馬に乗ったままだが、それについてきた騎士や兵士は馬から降りた。
「ビリー、よかった。追いついた」
「隊長、どうしたんですか? それにこちらの方は……」
「こちら、例の失踪事件で失踪されたスフェール様の兄、ウィリアム・スファローグ様よ。
失踪者が見つかったと知って、案内を頼まれたの」
スファローグ家って、王弟のヤスバルド公爵様の?!
スフェール様って、そんなに大事にされているお嬢様ってことなのか?
「そ、そうでしたか。
初めまして、セシリア騎士隊の弓兵、ビリーと申します!」
「うむ、今回はよろしく頼む。
それより、急がぬか? 見つけた場所は近いのであろう?」
「はい。ではいそ…」
そこまで言った時、俺たちの向かう先で大きな爆発音が響いた!
俺たちはすぐに、そちらに視線を移すと、大きな黒い煙が上がっていくのが見えた。
「爆発?」
「おいアレ……」
「まさか……?」
ざわざわと、心配する声や戸惑う声があがる中、ウィリアム様が馬で駆け出した!
そして、大声で叫ぶ。
「スフェール!!!!」
▽ ▽ ▽
Side エミリー
カタヤマの、地下にいるという声に思わず振り返ると、アルニーがカタヤマの後ろに立っていた。
そして杖を取り出し、詠唱を始めたのだ。
私はすぐに、隣にいるミズサワの手を取り、カタヤマの方へ走った。
アルニーは魔法を使って、ボロイ木の小屋を破壊する気だ。
詠唱を始める前に、地下ならその小屋壊してもいいよね~なんて言っていたからね。
アルニーがどんな行動をとるかなんて、よく分かっているわ!
面倒くさがり屋のくせに、派手な魔法を撃ちたがるのよ!!
そして、派手な魔法を撃って、宣言通りボロの木小屋を吹っ飛ばしてしまう。
大きな黒煙が上がり、木小屋は跡形もなく吹き飛んでいた。
「あ~あ、アルニー……」
「地下にいるなら、問題ないでしょう~」
「問題あるわよ! ていうか、何であなたがここにいるのよ!
本屋で別れたはずでしょ?」
「あ~、気になって来ちゃった」
「……も~」
かわいく、てへッて表情したから許してあげようと思ってしまった……。
可愛くて才能があるといいわねぇ~……。
そんなやり取りをしていると、一頭の馬がこちらに走ってくる。
しかも、何やら乗っている人が大声で叫んでいた。
「……スフェーール! スフェーール!!」
さらにその後ろからは、大勢の人たちがこちらに向かって走っていた。
走っている馬と同じような速度で走れるなんて、すごいわね……。
て、そんな訳ないか。
すぐに馬に乗った人が到着して降り立ち、吹っ飛ばされた小屋に近づいていった。
「スフェール!! スフェール!!! ス、スフェー……」
そして、地面に現れた階段の前で立ちつくした……。
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