第38話 捜索手段
Side エミリー
本屋で消えてしまったコウサカとタケウチを探そうとして、手掛かりが無いことに気づき頭を抱える。
だが、取りえず衛兵の詰所に届け出を出すだけでもしておこうとアルニーに言われて、衛兵の詰所へ行く道中で同じセシリア騎士隊のビリーを見かけた。
「馬車を止めて!」
「へ、は、はい!」
ゆっくりとはいえ動いている馬車を急に止めるのだ、馬車を引いていた馬が嘶き両前足をあげて急停止。
その衝撃で馬車もすごい振動があるが、そんなの気にしていられない!
私はすぐに馬車を降りて、ビリーに近づいた。
「ビリー!」
「エ、エミリー? 一体どうし『カタヤマはどこ?!』…え?」
「だから、カタヤマはどこにいるの?
あなたが、王都を案内していたわよね?!」
「カタヤマなら、あそこに……」
ビリーが指さす方向には、カタヤマがミズサワと屋台の前で何か話をしている。
あの屋台はアクセサリーを売っている屋台だが、今はどうでもいい!
私はすぐに、カタヤマを呼んだ。
「カタヤマ!」
「ん? エミリーさん?」
「え、エミリーさん? どうしてここに、エミリーさんが?
高坂君と武内君と一緒に、本屋か図書館に行ったはずじゃ……」
ミズサワの言葉に胸を痛めるが、今はそんなことで痛がっている場合ではない。
私に呼ばれて、すぐに近づいてきてくれたカタヤマとミズサワ。
そのカタヤマに、私は掴みかかる。
「カタヤマ! あなたの地図で、コウサカとタケウチの居場所を探して!」
「へ? それはどういう……」
「お願い! 今は急いでいるの!」
「わ、分かりました! 分かりましたから、ちょっと離れてください!」
私の鬼気迫る必死さに、驚いていたようだが地図を使ってくれるようだ。
これで、コウサカとタケウチの居場所が分かるはず。
本屋から消えた二人の消息が分かれば、今王都で起きている消失事件の解決にもつながるかもしれない……。
▽ ▽ ▽
扉のあった場所に姿を現した、スフェール様という女性。
会ってすぐに、手伝いなさいと言われて情報収集のためにも手伝うためについて行くことにした。
コニーと武内さんと一緒に部屋を出ると、長い廊下が続いていたものの人の気配がない。
どうやらこの屋敷と言えるぐらい大きな家には、今誰もいないようだ。
階段を下りて一階に着くと、そのまま大きな扉を抜けて外へ出た。
そして外に出て、ようやく今までいたのが大きな屋敷の二階だったと知ったぐらいだ。
屋敷の玄関から外に出て、正門に続く道を歩いて正門を通り過ぎる。
すると、スフェール様という女性の恰好とは違う、みすぼらしい恰好の子供たち三人がスフェール様に声をかけてきた。
「スフェール様~」
「スフェール様、コニーは捕まえた~?」
「ええ、捕まえましたわ!
それと、新しい人でも確保しましたわよ」
「わーい」
スフェール様は、にこやかに笑いながら子供たちと手を繋いで、一緒に歩いていく。
たぶんすごく身分の高いお嬢様なんだろうけど、こんなにも自然に子供たちと手を繋げるなんてな。
子供たちも、格好からおそらくスラムの子供たちだと思うけど、スフェール様を怖がっている様子は感じられない。
「ところでコニー、私たち何するの?」
「種まきですよ。
畑を作ったので、そこに種をまくんです」
「畑?」
「はい、野菜とかを作って食糧にしようかと思いまして……」
食糧確保か、ダンジョンに住むなら必要なことだけど……。
「コニーはいつから、ダンジョンマスターとしてここにいるんだ?」
「え~と、一年前からですね。
最初の頃は、戦闘メイドのアニーに魔物を捕まえてもらって、ダンジョンで倒してもらいながらDPを貯めて過ごしていました」
「最初から、人を集めていたわけではないのね」
「最初は、ダンジョンを広げたり環境改善を目指してました。
ようやく人が住めるぐらいになったのが一カ月前で、転移トラップを使いだしたのがその頃です」
「……で、転移トラップが暴走」
「あう!」
叱られた幼女の表情で、両手を頭の上に持ってくるが転移トラップが暴走したとなれば、王都中で大変なことになってないか?
「畑を作る前の、食糧確保はどうしていたの?
転移トラップの暴走で、いろんな人が転移して来ていたんでしょ?」
「そうなんです。
だから、DPの交換で食料を何とかしていました。
でも、全員を食べさせるには足りなくて……」
「そう……」
「それで、スフェール様が畑を作って野菜を育てようと提案してくれたんです」
なるほど、畑を提案したのは、俺たちの前を子供たちと手を繋いで歩くスフェール様だったのか。
お嬢様にしてはいいアイデアだが、野菜ができるまではどうするつもりなんだろうか?
「種は、DPと交換で用意しました。
それで、畑で野菜ができるまでは何とかしていこうと……」
野菜を育てて食糧を確保しようと………ん?
野菜を育てなくても、王都で購入すればいいんじゃないか?
金になりそうなものを、DPで交換して王都で売って食糧を買えば……。
というか、ここから出ることは考えないのか?
「なあ、一ついいか?」
「何です?」
「このダンジョンから、出ることはできないのか?」
「さっきも言ったはずですが、ダンジョンマスターになった私は…」
「いや、コニーじゃなくて、転移トラップでここに来た人たちだよ」
「あ~、それは考えたのですが……」
そこへ、俺のすぐ後ろから声が聞こえた。
「王都にダンジョンがあると分かったら、討伐隊を差し向けられてしまうでしょ?
そうなったら終わりですよ?」
「わっ!」
「アニー」
声の聞こえた後ろを振り返ると、メイド服を着た女性が立っていた。
黒いメイド服に白いエプロン、そして金髪碧眼の美人だ。
さらにプロポーションも良く、貴族の家なんかにいれば絶対その家の貴族が手を出しそうな女性である。
「マスター、畑の準備ができております。
皆様も待っておりますよ?」
「これから行く所だよ。
あ、この二人は新しく転移してきた……えっと……」
「俺はコウサカ」
「私は、タケウチよ」
「私は戦闘メイドの、アニーでございます。
これからよろしくお願いします」
一礼して挨拶してくれるが、アニーさんの目、滅茶苦茶鋭いぞ。
この目に睨まれたら、怯んでしまいそうだ……。
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