第37話 転移してきた場所
エミリーさんに連れて行ってもらった本屋で、目的の本を探していると急に、何の前触れもなく景色が変わった。
それは、一緒にいた武内さんも同じで一緒に周りを見渡してしまったほどだ。
「高坂、何が起きたの……」
「分からない。
でも、あの本屋から多分転移したんだと思う……」
「転移?!」
ここは、どこかの部屋だろうか。
かなり広い部屋だが、床に大きな絨毯がひかれているだけで家具などは何もない。
窓にはカーテンがあるが、薄い物で外の光が部屋の中に入ってきていた。
「……何もないわね」
「もしかして、この部屋は転移してきた人が最初に来る部屋なのかも……」
その時、部屋の扉が激しく開き、一人の少女が姿を見せた。
「ああ! また転移させてしまっている!!」
「?!」
俺たちの姿を確認した少女は、すぐに俺たちの前まで来ると滑り込むように土下座をした。
その姿に、俺隊は少し引いてしまった。
「申し訳ございません! 本当に、申し訳ございませんでした!!」
「……えっと、どういうことか説明してくれるかな?」
「は、はい!」
少女の名前は、コニー。
王都のスラムに住んでいた女の子で、現在7歳らしい。
ただ、見た目はもう少し幼く見えるがたぶんスラムで生きていたための影響だろう。
コニーはある日、スラムで食べ物を探していたが何もなく、ウロウロしていた。
そして、城壁まで来て外へ出られる隙間を見つけたそうだ。
このままスラムにいても食べ物はない、意を決して外へ出ようと隙間を通り抜けると、なぜか城壁の外へ出た瞬間穴に落ちた。
そして、落ちた穴の中は小さな空洞になっていて中心にきれいな水晶の玉が光っていたらしい。
コニーは、痛いお尻をさすりながら立ち上がり、中心のきれいな水晶玉にひかれるように近づき手で触れた。
すると水晶玉は一層輝き、コニーの頭の中に今まで体験したことの無い記憶がよみがえったという。
「記憶?」
「はい、それは飯島今日子の記憶だったり、レニオス・クレランドの記憶だったり、ハーキスの記憶だったり、鈴谷美也子の記憶だったりと十人くらいの記憶なんです。
でもそれは、ただの記憶で知識でしかありません。
私は、今も昔コニーです」
「つまり、それだけの知識を得たってことなのね?」
「はい、その通りです」
その後、記憶がよみがえった後はダンジョンマスターになったことなどが天の声と言われる声で知り、慌てたらしい。
が、十数人の知識がダンジョンマスターの利点などを教えてくれて、冷静にダンジョンマスターとしてやるべきことが分かったらしい。
コニーはまず、水晶玉と思っていたダンジョンコアにあるDP、ダンジョンポイントを使い戦闘メイドを召喚。
その戦闘メイド、アニーに王都周辺の魔物を捕まえてダンジョン内で殺すように指示を出す。
これで、DPを貯めることができやるべきことが増えると、コニーの知識が教えてくれる。
「こうしてダンジョンポイントを貯めて、階層を広げました」
「へぇ~」
「階層を広げたら、私の住む家を造り畑などを造り、生活できる場所にしていったのです」
胸を逸らせて、エッヘンと自慢する姿は少し可愛かった。
「でもそれと、私たちが転移させられたこととどう繋がるの?」
「あ~、それでですね、ダンジョンの階層を広げたのはいいのですが、広げ過ぎたのか土地が余っちゃったんです。
そこで、スラムにいる人たちをここに連れて来て生活させればいいのかと考えて、ダンジョンから出てスラムに行こうとしたのですが……」
言い淀むコニー。
もしかして、あれか? ダンジョンマスターになるとダンジョンから出ることができなくなるという定番の?
「もしかして、ダンジョンマスターになったことでダンジョンの外に出られなくなったとか?」
「はい! そうなんです!
アニーに、魔物を捕まえてくるようにお願いしたとき、なぜか褒められたのでおかしいなとは思っていたんです。
それで、私がスラムに行こうとしたらアニーに止められて、ダンジョンから出ることはできないと……」
そして、どうすればスラムの人をこのダンジョンに連れてくることができるのかをアニーに相談したところ、転移トラップを使ってはどうでしょうかと提案された。
転移トラップ。
それは、人などがそのトラップに掛かると、別の場所に移動させられるというものだ。
これを使って、スラムにいる人をこのダンジョンに移動させてしまおうという。
だが、転移トラップをスラムに仕掛けようとしたところで問題が発生した。
それは、DPが足りなかったのだ。
何とか、使用DPを押さえて転移トラップを仕掛けようとしたが、場所がスラムではなく王都全体になってしまったらしい。
「……本当に、申し訳ございません」
再び、その場に土下座するコニー。
俺たちは、その姿を見てどうしようかと思っていると開きっぱなしの扉に一人の女性が現れた。
「ここにいましたのね、コニーさん!」
「スフェール様! あの、何か……」
「あら? また、転移してきた人がいましたのね。
ちょうどいいですわ。あなたたちも手伝いなさい」
「……手伝う?」
「そうです。
混乱しているでしょうけど、今は私たちを手伝ってくださいませ」
確かに何がどうなっているのか分からないが、俺たちの他にも転移させられている人がいたのは分かった。
そして、何を手伝わされるのかもわからないが、このままこうしていても何もならないだろう。
ここは、情報収集のためにも他の転移してきた人たちに会って話を聞くのもいいかもしれないと考え、このスフェール様という人について行くことにした。
ただ、コニーが少し落ち込んでいる感じがあったがどうかしたのか?
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