第36話 王都の失踪事件



Side エミリー


ローズ騎士隊のアルニーに言われて、コウサカとタケウチを店の奥へと移動させた。

奥の棚に、歴史書や錬金術に関する書があるかのように言ってね。

ゴメンね、コウサカ、タケウチ。


後で、本当に並べてある棚に案内してあげるからね……。


アルニーと二人きりになると、彼女の方から話しかけてきた。

そういえば、何か話がありそうだったけど……。


「それで、どう?」

「? どう、とは?」

「あの異世界人たちよ。

騎士団の、お荷物騎士隊と言われるほどに落ちこぼれなエミリーさんたちに配属された助っ人の異世界人たち。

騎士隊の連中はみんな、使えるのかどうか聞きたがっているのよ」

「……あのね、アルニー。

いくら本当のこととはいえ、そう何度もお荷物騎士隊だの落ちこぼれとか言わないでくれるかな?

いい加減私も、頭にきているんだけど?」


私が怒った表情で注意すると、アルニーは驚いた表情ですぐに謝ってきた。

若いし騎士隊の新入りだから、生意気なのはしょうがないけど、面と向かって言うのは勘弁してほしい。


「ごめんなさい! 言い過ぎました!」

「……まあ、いいけど。

それで、異世界人たちのことが聞きたかったんだっけ?」

「そ、そうです! どうですか?」


私たちの隊に入隊した異世界人たち。

召喚されたときに鑑定された職種は、役立たずと言われていたらしい。

興味を示していたのは、タケウチの錬金術師だけだって話だ。


「召喚されたときはたいしたことないって言われていたようだけど、今回の依頼では物凄く活躍してくれたよ。

特に召喚士のコウサカが、大活躍だったかな」

「コウサカって、さっきの男の方?」

「そうそう。魔物を圧倒する剣士を召喚して倒したからね~」

「……報告書通りってことですか」

「私たちの隊の報告書、読んだんだ」

「セシリア騎士隊が、依頼を成功させた報告書ですからね。

私以外にも、注目を集めていましたよ」


今回の、ルーマス村のゴブリン襲撃からの討伐依頼の報告書か。

ゴブリンマスターの出現や、異世界人たちの活躍なんかも細かく報告されていた。

セシリア隊長は、マメな性格だからな。


報告しなければならないことは、すべて報告する。

もちろん、本人の許可を得て、だけどね……。


「でもね、俄かには信じられませんでした。

異世界人が加わっただけで、あんな活躍ができるなんて……」

「そこは、これからってことかな……」

「これからですか……。

あ、話は変わるんですが、最近の王都で頻発している事件、聞いてます?」

「事件? 王都で?」

「その表情は、何も知らないようですね~。

いいでしょう、私が特別に教えてあげましょう」


急に偉そうになったな、アルニー。

でも、王都で何か起きていたの?

セシリア隊長からは何も聞いていないし、気になるな……。


「……お願いします」

「うんうん。

え~、実はですね、最近王都で失踪事件が起きているんですよ」

「失踪事件?」

「はい、王都の中でいきなりいなくなるらしいんです。

買い物中に、ちょっと目を離したすきにいなくなった子供。

さっきまで、手を繋いで歩いていたのに、ちょっと店の商品を見ていたらいなくなっていた彼氏とか。

一緒に帰ってきて、先に家に入ったはずなのにいなくなった旦那とか。

昨日までで、三十人以上が失踪しているんです」

「三十人も?! ……でも、迷子とか勘違いってことはない?

高い物を買わされそうになって逃げた、とか」


アルニーの言う失踪状況を聞いていると、そんな感じに思えてしまう。

いなくなった子供は迷子になっているとか、ね。


「じゃあ、決定的なことを話しますよ。

三日前、王都にあるプレイグナー辺境伯のお屋敷で、四女のレミナー様のお披露目パーティーが行われました。

そのパーティーには、公爵令嬢のスフェール様も参加されていたらしいんですが……」

「……まさか?」

「ええ、パーティー会場から消えちゃったんです。

その後は大騒ぎでしたよ。

パーティーから帰ってこない娘を心配した公爵様が、辺境伯の屋敷に怒鳴りこむ騒ぎから、王都中の衛兵に公爵様の家の兵士まで総動員で捜索が行われました。

「そんな騒ぎに?」

「はい、王都中が大騒ぎ。

公爵様は、各ギルドにも協力を要請したうえで、スフェールお嬢様を見つけたものに報奨金まで掛けたぐらいです。

その額、金貨一千万枚!」

「金貨一千万枚?!」


それだけ大掛かりに捜索すれば、すぐに見つかるはず……。

と、思ったけど、アルニーの表情を見るかぎりまだ発見に至っていない。


「それでも、見つかっていない……」

「はい、手掛かりすらないそうです。

騎士隊にも、捜索の通達は来たんですが、騎士隊は人探しは苦手で……」


王都の町の人通りが少なかったのは、失踪事件が効いているからか。

この本屋に来る道中の、屋台が少なかったのはそのためなのね。


報奨金目当てに、いなくなった人を捜索したり、自分の身を守るために外出を控えたということか。


でもそれなら、カタヤマの力を使えば失踪した人達が見つかるかも!


「アルニー、それならいい手があるわ!」

「いい手?」

「ええ、捜索にぴったりの力を持った人が、セシリア隊にいるわ!

彼の力を使えば、いなくなった人を見つけることができるかもしれない!」

「そ、そんな力を持った人が、お荷物騎士隊に?!」

「……アルニー?」

「ご、ごめんなさい! それより、その力とは?」


こうしてはいられない!

すぐにでも、隊舎に戻ってカタヤマに王都の地図で捜索してもらわないと!


「コウサカ! タケウチ! すぐに……」

「エミリーさん、その力、と、は……」

「……コウサカ? ……タケウチ?」


いない。

狭い本屋の店内なのに、コウサカとタケウチがいなくなっている。

私はすぐに、扉を開けて店の外に出た。


もしかしたら、帰ってしまったのかと思ったが、店の前にいた通行人が私を見て驚いていた。

急に出てきたからだろうが、今は気にしている場合ではない。


私が、周りを見渡して二人を探していると、店の中からアルニーが出てきた。


「エミリーさん。店員に聞きましたが、お二人は確かに店内にいたそうです。

ですが、扉を開けた音が鳴らなかったのに、店内からいなくなっていたそうです」

「音……」


そうだ、この店のドアにはドアベルがついていた!

それが鳴った形跡がない!

あの音が鳴れば、アルニーと話していても気づくはず……。


「ど、どうしようアルニー……」

「ど、どうしようと言われても……」


コウサカとタケウチが、消えてしまった……。






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