第32話 討伐終わって



洞窟前で、野営の準備を終えて夕食の準備をしていると、洞窟の中からオルブランさんたちが帰ってきた。

三人の弱りきった女性をおぶっていたのだが、オルブランさんたちも顔が青いようだった。


洞窟の奥で、何か目撃したのだろうか?


救出した女性たちを受け取りながら、話を聞いたセシリア隊長が同じように青い顔になっていた。

やはり、洞窟の奥で何かあったのだろう。


「ねぇ、高坂。そのシチューって、もしかして?」

「ん? ああ、デパ地下のシュロールで売っている『野菜ごろごろシチュー』だ。

平日に買いに行ったことがあって、覚えていたんだ」

「やっぱり! 舞~! やっぱり、シュロールのシチューだって」

「やったね!」


夕食にみんなで食べようと、俺が召喚して出したシチューに熊谷さんと武内さんが喜んでいた。

このシチューの美味しさを、二人とも知っているんだな……。


「ね、高坂」

「ん?」

「パンで食べるの? それともご飯なの?」

「パンだよ。隊でもってきているパンがあるから、それを食べるって。

俺は、何かスープを用意してほしいって頼まれたから、このシチューを用意したんだよ」

「……よく魔力がもつわね」

「それなんだけど、よく分からないんだよな。

俺が、どれだけ召喚魔法が使えるのか実験してないし……」

「そういえば、ステータスにも表示されてなかったわ……」

「よくある数字表記か?

この世界では、ないのかもしれないな……」


でも年齢は数字表示だったし、ないわけではないのかもしれない。

HPやМPが表示されればって考えたけど、表示されてもあまり変わらない気がしないでもないかな。


たぶん、チート全開の俺たち異世界人の魔力とかはかなり多いのかもしれないしな。


そんなことを考えていると、喋らなくなった俺に見切りをつけて武内さんは熊谷さんのいる方へ向かって行った。

周りを見れば、片山がセシリア隊長たちと地図を見せながら話をしている。


熊谷さんと武内さんは、佐藤さんと話をしている。

水澤さんは、俺の後ろでカードをドローしていた。

いつの間に、後ろにいたんだ?


洞窟内に捕らわれていた人たちは、全員一緒に固まっていた。

その人たちに、話しかけているのがエミリーさんだ。


たぶん、今後のこととか傷の手当とかをしているんだろう。

俺たちセシリア隊は、ここで一泊野営をした後、ゴブリンの襲撃を受けていたルーマス村に帰る。


そこで、セシリア隊長たちによる報告がされるはずだ。

俺たちが見つけたこの洞窟以外、オルブランさんの班もレオンさんの班も、ゴブリンの集落などは見つけることはできなかった。


そのためこの洞窟こそが、ルーマス村を襲撃したゴブリンの巣ということだろう。


「よしっ! 守護騎士ゲット~」


俺の後ろで水澤さんが、いいカードを引き当てたのだろう。

守護騎士ゲットとか言っているし、例の俺たちをゴブリンから守ってくれた守護騎士のカードが出たらしい。


「水澤さん、守護騎士のカードが出たんですか?」

「ああ高坂君、そうなんだよ。

欲しいカードが出ると、テンションが上がるんだよね。この歳になっても」

「他のカードは、どんなのが?」

「これだね。回復ポーションや、木の枝みたいなもの。

ポーションは分かるんだけど、この木の枝って何だろうね~」

「説明とかないんですか?」

「木の枝としかないんだよ。

どう使っていいのかもわからない……」

「ん~」


これって、カードから出して鑑定しないといけないのか?

守護騎士とか、回復ポーションとかはかろうじてわかるけど、この木の枝はどうすればいいんだろう。


謎なカードも、あったものだな……。




▽    ▽    ▽




夕食も終わり、交代で見張りを立てて寝ようとしたところでセシリア隊長に呼び止められた。


「コウサカ、ちょっといいかな?」

「何ですか? セシリア隊長」

「ちょっと報告書を書いているんだけど、協力してくれる?」

「報告書?」


セシリア隊長の話では、騎士団に報告するための書類だそうで、ちゃんと報告書を提出しておかないと報酬や給料がもらえなくなるらしい。


「それ、依頼が成功しても失敗しても提出するんですか?」

「もちろんだよ。

成功すれば、報告書で誰が活躍したか分かるし、失敗しても、どう失敗したかや敵の数や強さも報告されるから次の騎士隊が参考にできる。

だから、報告は必ずしないといけないんだよ」

「なるほど」

「それじゃあ、コウサカの召喚魔法について教えてくれる?

もちろん、話せる範囲でいいからね」

「それなら……」


俺は、今回召喚したワルキューレのことや召喚魔法について話した。

別に秘匿するようなことでもないし、知識さえあれば召喚の幅も広がるからな。


それに今後、知識を広げるには協力も必要だ。

俺は今、この世界の知識はほとんどないからな。

この世界の知識や歴史を知るには、協力をお願いしないといけないからな……。


まあ協力をお願いしないといけないのは、俺だけじゃない。

特に武内さんは、全面的な協力が必要になってくるはずだ。

今回の騎士隊への依頼で、役に立たなかった職種が錬金術師だったからな。


「……なるほどね、ありがとうコウサカ。

それじゃあ、隊舎に帰ったら図書館の使用を許可してもらうように申請しておくね。

それで許可が下りれば、いろんな本を読むことができるようになるはずだよ」

「ありがとうございます、セシリア隊長」

「どういたしまして。

それじゃあ、今日はお休み。

明日は、ルーカス村への帰還と報告、その後は王都へ帰還します」

「分かりました」


そう言うと、セシリア隊長は自分のテントへ歩いていった。

こうして、ゴブリン討伐の緊急依頼は終わった、と思う。


寝るためのテントに戻ると、片山と水澤さんが起きて待っていてくれる。

俺に声をかけると、見張りの順番を教えられた。


「五番?」

「明け方近くになった」

「だから今から寝て、早く起きましょう高坂君。

まあ、私たちの前の見張り役が起こしに来ますから大丈夫だと思いますがね」


こうして一日が終わる。

はぁ~、森の中で寝ることになるとはね~。






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