第31話 洞窟の奥で



Side オルブラン


私は、オルブラン・コルレン。

セシリア騎士隊設立時からいる、古参の護衛騎士だ。

セシリア隊長の父親は、ブロネーバルプ国の貴族の一人でかなりの地位の高い人だ。


その人からの直接の依頼で、私がセシリア隊長の護衛を頼まれた。

その時私は、別の騎士隊に所属していたが、その騎士隊の隊長にはすでに話が通っていたようで、すんなり辞めて今のセシリア騎士隊に所属することになったのだ。


本当に、貴族の力は怖いよな……。



「オルブラン、こっちの道でいいのか?」

「ああ、カタヤマの地図だと最奥に行くにはこの道で合っている」

「……しかし、そのカタヤマの地図か?

すごいな。捕まっている人の場所や、人数まで分かるなんてな……」

「召喚された異世界人、ならではの力なんだろう」

「でも、召喚された神殿では無能扱いだったか?」

「それなんだが、鑑定で分かった職種を聞いて、既存の職種とスキルに当てはめての感想だったようだぞ」

「なるほどね~」


今、俺たちはゴブリンのいた洞窟内部に来ている。

カタヤマの地図で、洞窟内部にまだ捕まっている生存者がいるらしいと、進言されたからだ。

大量のゴブリンやホブゴブリン。


さらに数は少なかったが、ゴブリンジェネラルやゴブリンアーチャーにゴブリンメイジという上位種。

さらに、ゴブリンマスターなる知られていなかった進化種という存在。


俺が想像するに、既存の最上位種のゴブリンキングやゴブリンロードとは別の進化先だったのではないか。

そして、そんな進化先は別の魔物にも存在するような予感がするが……。


「そんなにすぐ、危険があるわけではないよな……」

「ん? 何か言ったか?」

「いや、何でもない。独り言だ……」

「そうか」

「レオン班長! こっちの奥に牢がありました!」

「オルブラン班長! ここの奥に牢があります。

七人の男女が捕まっているようです!」


私は、レオンを見ると別行動をとることにした。

レオンの班は、報告のあった奥の牢へ行き、私たちの班は、七人の男女が捕まっている牢へと向かった。


「それにしても、男女で七人ですか?」

「はい、男女で七人でした」

「オルブラン、何か気になることでも?」


一緒についてきたエミリーが、私に質問してくる。


「いや、ゴブリンに捕まっている人といえば女性が大半と聞いたことがあったのでね」

「そういえばそうね。

ゴブリン討伐の依頼なんかでも、女性が攫われる話はよく聞くけど、男性が生かされて攫われるのは珍しいかもね」

「何か、理由があるのでしょうか?」


エミリーと話していると、発見したビリーが話に加わってきた。


「そういえば、牢の中の男性は全員裸でした。

女性も裸でしたし、やっぱりそっち方面でやられていたのではないですか?」

「……そっち方面……」

「でも確かに、ゴブリンマスターに女性型がいますからおかしい話ではないですね……」

「……嬉しい経験、とは言えないですね」

「相手が、ゴブリンのメスだと思いますからね……」

「……」


私たちは、何も言えなくなりました。

そして、黙ったまま牢に到着すると、確かに裸の男女七人が一緒の牢に入れられています。

さらに、全員の両手両足が鎖で壁に繋がれていました。


「セシリア騎士隊の者です! 救出に来ました!」


そう言うと、全員の視線が私たちに向きます。

涙を流したり、私たちに手を伸ばしたり、声を出そうとして呻き声になったりと、全員が助かるということに縋ろうとしているようだった。


「ビリー、牢を開けられるか?」

「はい、大丈夫です……」


そう言うと、牢の前で鍵を開けて牢を解放する。

そして牢の中に入り、男女に付けられている足枷や手枷を外し解放してやる。


「さっ、もう自由ですよ。

牢から出てください」

「あ、あ…」

「わ、私……」


ゆっくりと牢から出てくると、エミリーたちがその辺りにあった大きな布をかぶせる。

この布は、洗濯したシーツか?

牢がある場所の奥に部屋みたいな空間があり、そこに大きなベッドのようなものがあった。


私からすれば、それはベッドというより生贄台といった感じだ……。


「オルブラン?」

「ああ、すまない。この人たちを連れて、外に出ようか」

「では、行きましょう」


ゆっくりと付き添いながら、捕まっていた七人を連れて洞窟の外へ歩き出す。


その後、レオンたちの班が救出した四人も一緒に洞窟の外へ連れ出していくが、私とレオンと、あと三人ほど残ってもらいさらに洞窟の奥へ進んだ。


実はカタヤマの地図では、まだ洞窟の奥にも捕まっている人がいるらしい。

人数は、三人。

ただし生きている人は、ということだったが……。


「この洞窟、結構奥まであるんですね……」

「カタヤマの地図だと、この洞窟はかなりの長さがあるそうだ。

そして、ところどころ通路が分かれているのは、上位種たちの部屋だったのではないか、とな」

「上位種たちの部屋か……。

確かに牢のあった場所の奥には、おかしな部屋があったな」

「はい、ベッドみたいな台がありましたね」

「そこに横たわっていた女性もいたぞ。

俺たちが声をかけても、遠い目をしていたがな……」

「その後、助かると分かって大泣きしていましたね……」

「そうなんだがな……」


レオンは、従騎士のロブランとの会話に表情を歪ませる。

その横たわっていた女性が、どんな扱いを受けていたのか想像したのだろう。

痛ましいことだよな……。




洞窟の最奥に到着する。

例のゴブリンマスターたちがいた場所だが、ここはまるで王城にある謁見の間だな。

中心に鎮座しているあの椅子は、ゴブリンマスターの長が座っていたのだろうか……。


「謁見の間、見たいですね……」

「それでオルブラン、捕まっている人はどこにいるんだ?」

「確か、向こうだ。

右側の、あの通路の奥だと思う」

「行くか」


私たちは、右側にある通路を通って奥へ進む。

そして、見えてきた広間を見て目を背けた。


「うっ!」

「な、何だ、ここは……」

「レオン班長……」

「これは……うっ!」

「ひ、酷い……」


壁に、磔にされている三人の女性たち。

その足元には、複数の人の骨が散らばり、台の上にはお腹を裂かれて内臓が取り出されている最中だったようだ……。


ここは、連中のキッチンということか……。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る