第29話 焼却処分



Side オルトリンデ


『ゴハッ!』


私の持つ槍の石突で、ムムという男性型のゴブリンマスターの鳩尾を思いっきり突いて苦しませる。

ガタイのいい人型なのに、膝が笑っていた。


『グオオォォ』


表情を歪ませ、歯を食いしばって立ち上がってくる。

根性だけは、人一倍あるようね……。


「あらら、さっきまでの威勢はどうしたのかな?

他のゴブリンマスターたちも、私の姉妹たちに手も足も出ないようだけど~」

『……へっ、強いな女』


私を見て、笑った。

こいつの攻撃を軽く躱しながら、私の槍でボコボコにしてやったのにまだ笑えるの?

タフなゴブリンマスターね~。


『~フゥ』


深呼吸をして、私に正面を向ける。


『女! 名前は?!』

「……オルトリンデよ」

『じゃあオルトリンデ! 俺の子を産んでくれないか?!!』

「……は?」


……えっと、何言っているの? このゴブリンは……。

私に、ゴブリンの子を産め?

…………。


『俺より強い女は、ココ様以来初めてだ!

だから、俺の子を産んでくれ!! そして、強いゴブリンを育てていかないか?!!』

「……本気なの?」

『当たり前だっ!!

俺は、強い女が好きだ! それも、俺より強い女ℊa…』


ゴブリンマスターが言い終わる前に、私の槍が一刀両断する。

そして、両断した槍は地面に勢いよく振り下ろされた。

その勢いはすさまじく、両断されたゴブリンマスターの足元に二重のクレーターを作ったほどだ……。


「焼却っ!!!」


私がそう叫ぶと、槍の穂先が光り輝き青白い炎が立ち上がり両断されたゴブリンマスターを文字通り焼却した。

一瞬にして焼却処分した後には、両断されたこぶし大の魔石が転がっていた。


「……ゴミは焼却するに限るわね……」

「そ、そうね……」


そう声をかけてきたのは、いつの間にか私の後ろにいたグリムゲルデだ。

少し表情が硬いようだけど、どうしたのかな?


「どうかした?」

「ううん、何でもない。

それよりブリュン姉様が傷を負ったって……」

「ブリュン姉が? お父様より強いといわれていたのに?」

「まあ私たち、召喚されたばかりだからね。

レベルも一桁台ぐらいになるから、強い連中なんて結構いるよ」

「……強くならないといけないのね」


この世界は、レベル制度はないようだけど隠しレベルみたいな感じなのかもしれない。

今、ゴブリンマスターとか言うゴミを倒したおかげで、私の力が底上げされたような感覚がある。


これは、私のステータスが上がった感じとよく似ている。

私たちの世界のように、魔物を倒してレベルを上げて強くなることができるのかもしれないわね……。


「あら?」

「ん?」


今だ戦いが繰り広げられている場所を見れば、ヘルムヴィーゲだ。

あの娘は、私と数カ月しか誕生部が変わらないほどの歳の近い姉妹だから、何かとライバル視することがある。


だけどあんなに苦戦するなんて、思いもよらなかったわね。

そんなに、相手が強いのかしら?




▽    ▽    ▽




Side ヘルムヴィーゲ


召喚主様の命令通り、ゴブリンマスターとかいうヤツと戦っていると、いつの間にか私だけが残った。

私がライバルとして競っているオルトリンデは、あんなにもゴブリンを軽くあしらっていたのに……。


「ハッ!!」

『どりゃッ!!』


私の三叉戟の攻撃が、相手の大きな両手剣に防がれる。

切り結ぶたびに、火花が散っているが相手にダメージを与えているわけではない。


何度か私の刃が届いたりしたものの、致命傷にはなっていないようだ。


相手の両手剣は、太く長く硬い。

それを流れるように振り回して、私の攻撃を躱したり受けたりしている……。

このゴブリンマスター、剣の扱いに長けているみたい。


「ハァ、ハァ、ハァ」

『ハァ、ハァ、ハァ』


お互い、肩で息をしている。

相手を睨み、どう動いてどう躱すか考える。

そして、再びお互いに襲いかかり、なかなか決着がつかない……。


『チッ! いい加減にしろよっ!!!』

「それは! こっちのセリフ!!」

『クソッ!!』


三叉戟の穂先と、両手剣の刃の部分が火花を散らして激突し、お互い距離をとる。

一度当てただけで、この攻撃も致命傷にならないと距離をとって考え直す。


『いい加減にしろっ! しつこいんだよ!!』

「それはこっちのセリフよ!

あんた以外、もう生きているゴブリンなんていないわ!

いい加減、覚悟を決めたらどうなの?!」

『……チッ! 多勢に無勢かよ。

卑怯だぞ、このブサイク!!』

「?! あんたの方がブサイクでしょ!!」

『わ・た・し・の、どこがブサイクなのかしら~?』


そう言いながら、スタイルのいい体をのけぞらせて長い髪をかき分ける。

女性型のゴブリンマスターだが、自慢するほどのバランスのいいスタイルはしていた。

だが、大きいわけではない!


「……小さいくせに、胸を強調するな!」

『クッ! 胸はベーニが一番大きかったからな……』

「ベ―ニ? もしかして、あそこで胸に穴をあけられて死んでいる?」

『……あいつは、男や女をテクニックで喜ばせることに心血を注いでいたから戦闘がダメなんだよな……。

武器も用意してなかったし……』

「……あなたたちゴブリンマスターって、バカなの?」

『うるさい! 強くなり過ぎた進化は、特化型になるんだよ!

ベ―ニはあっちに特化したし、私は、剣技に特化した!!』

「くっ!!」


仲間の死体を見て、表情を歪ませると再び両手剣を構えて襲いかかってくる。

確かにこいつは、剣技に特化しているのだろう。


こんなにも、戦いで苦戦するなんて……。






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