第28話 強者との戦い



Side ブリュンヒルデ


私の前に、女性型のゴブリンが腕を組んで睨んでいます。

他のゴブリンマスターとは、隔絶したような威圧を感じますね……。


「あなたが、ここの長ですか?」

『……そうだ』


答えとともに、さらに圧が増したようです。

何か、気に障ったのでしょうか?


「ここは、降伏してはどうですか?

そして、この場所から去るという選択もできるはずですよ?」

『……我らを見逃すというのか?』

「私は構いませんわ。

……でも、去る気はないのでしょう?」

『当然だ。ここまで同胞を屠っておきながら、信じられると思うのか?』

「……でしょうね」

『ならば喋ってないで、全力でかかってこい!!』


腕組を外し、構えをとると一気に何かがゴブリンマスターの中で爆発した。

その爆発の威圧は、私に風圧として襲いかかってきた。


私は持っていた槍を一回転させて、石突で足元の地面を思いっきり突いた!

すると、突いた場所を中心に直径十メートルほどのクレーターができる。

また、それと同時に私とゴブリンマスターを激しい揺れが襲った。


『……』

「……」


風圧と揺れで、お互いをけん制し合いながら睨み続ける。

そして、ゴブリンマスターが右腕を何もない空間に押し込み、そこから一振りの剣を取り出す。


「空間魔法? ……いえ、アイテムボックスですか?」

『フッ』


ゴブリンマスターは何も言わず、右手に掴んだ剣を構えると私に襲いかかってきた。

その初動は速く、私が一瞬感知できなかったほどだ。

だが、剣で私に襲いかかったときは感知できた。


「クッ!」

『ガアッ!!』


私の左側から、剣を振り上げてくるが、私はそれを槍の柄を振り回して上へと逸らして躱す。

攻撃を逸らされた後、ゴブリンマスターは体を回転させて逸らされた勢いのままの剣を、再び私に向けて今度は振り下ろしてきた。


左上から振り下ろされる剣を、私も体を回転させて躱した後、回転させた槍でゴブリンマスターの脇腹に一撃を入れた。


『グガァッ!!』


お互い離れて距離をとり、再び睨み合う。

私は冷静に、槍を構えて目の前で威嚇してくるゴブリンマスターを見る。


ゴブリンマスターは、入れられた脇腹を左手でさすりながら剣の切っ先を前に出してきた。

そして、ゴブリンマスターの目が細くなると同時に、私の視界から消える。


やはり速い!!


槍を持つ左腕に痛みが走ると、ゴブリンマスターが剣を前に突き出し、私の左腕を突き切っている。


「ウグッ!」

『チッ! 外した!』


私は切られて力が入らない左手を槍から放し、体の回転と右腕の力だけで槍の柄をゴブリンマスターの脇腹に叩きこんだ。


『グアハッ!』


口から緑の液体を吐いたゴブリンマスターは、自身の襲いかかってきた勢いと私のくらわせた衝撃で、左へと吹き飛び洞窟の壁に大きな音とともに衝突した。


私は、切られた左腕を押さえながら吹き飛んだ先を見ます。

大きく崩れた洞窟の入り口の壁が、衝突の激しさを物語ります。


「……な、なかなか速い攻撃でした」

『……フンッ!』


崩れ落ちた瓦礫を吹き飛ばすと、ゆっくりと立ち上がるゴブリンマスター。

無傷であるかのように歩こうとしますが、一歩進むごとに表情が歪んでいます。

脇を手で押さえていることから、かなりの深手を負わせることができたようですね……。


『貴様、名は?!』

「ブリュンヒルデと申します」

『我が名はココ。

同胞の中で、最初にゴブリンマスターとなった強者だ!

貴様の名、覚えておいてやる。ペッ!』


そう言うと、口の中にあった緑の液体を地面に吐く。

そして剣を構え、私を睨んだ。


私は、切られた左腕に腰布を巻いて応急処置を済ませると、なるべく左腕を使わない構えをとると、ゴブリンマスターを睨む。


少しの間睨み合った後、ゴブリンマスターが動く。

再び、私も捉えられないほどの速さ、気配も察知できないほどで動けません。


ゴブリンマスターを見失った後、すぐに私の右脇腹が燃え上がるように熱くなりました。

そして、口から吐き出す赤い液体。

気づけば、ニヤリと笑うゴブリンマスターの表情が目の前にあります。


どうやら私は、この女に刺されたようですね……。


「グフッ」

『……フフ、見えなかったか』

「……ええ、でも!」

『!?』


槍の中間を握っていた右手に力を入れ、右脇に槍の柄を固定するとそのまま痛みに耐えながら腰を回転させて槍の刃をゴブリンマスターの左側から振り抜いた。

たいした抵抗もなく、槍はそのままゴブリンマスターを通り過ぎ、私ごと地面に倒れた……。


私の持つ槍は、刃の部分が槍の全体の長さの三分の一ほどあり、グレイブのような形をしている。

また、日本刀のような切れ味をしているので、切ったという手応えがない時が多々あった。


「グッ! ……い、痛い……」


倒れたときの痛みと、脇腹の痛みに耐えながら体を起こすと、上下に別れたゴブリンマスターが地面に転がっていた。

その表情は、信じられないと驚いているようだった……。


「つ、強かったですよ、あなたも……」


左腕の痛みに、右脇腹の痛みで意識がもっていかれそうになるものの、何とか立ち上がろうとすると、誰かが手を貸してくれた。


「……ブリュン姉様」

「ロスヴァイセ……、護衛は、いいのですか?」

「ジーク姉様に、任せてきました」

「そうですか……」

「みんなは?」

「全員勝利しました!」

「フフフ、それはよくやりましたね……」


そう笑った後、私の意識はここまででした。

その後どうなったかは、召喚主様に膝枕されて気づくまで分かりませんでしたから……。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る