第26話 ゴブリンマスター



「ニック! レオンの班に、連絡は行ったか?」

「行きました! 連絡鳩は、ちゃんと飛んで行きました!」

「オルブラン?」


片山の地図スキルに敵の動きが現れた後、すぐに動いたのがオルブランさんだ。

もう一つの捜索班の班長、レオンさんに連絡を送ったのか確認している。


そして、焦るオルブランにセシリア隊長が声をかけた。


「アイラ、ビリー、すぐに戦闘準備を急げ!

エミリーは、保護した彼女たちの側で守ってやってくれ!」

「「はい!」」

「わ、分かったわ!」

「セシリア隊長!」

「な、何?!」


オルブランさんは、自分の班のメンバーに指示を出した後、セシリア隊長の名前を呼ぶ。

その表情は、真剣そのものだ。


「すぐに迎撃準備を! ミズサワ、あの守護騎士を前面に配置してくれ!」

「わ、分かりました!?」

「りょ、了解!」


水澤さんの返事を聞いたところで、オルブランさんが何かを感じ取ったのか、洞窟の入り口に視線を急いで向ける。

その視線につられて、その場にいたみんなが同じように視線を向けた。


すると、洞窟の中から人と同じ姿をした者たちが六人現れた。


「……え?」

「人? で、でも……」


俺たち全員が、現れた者たちに困惑している。

片山の方を見るも、片山は何度も頷いていることからアレが洞窟の奥から出てきたことは間違いないらしい。


だが見た目は人そのものだが、どうなっているんだ?

そんなふうに混乱していると、現れた一人の男? が声を出した。


『……人族か?』

『でしょうね。

私たちゴブリンに敵対するなんて、人族しかいないでしょ?』

『でも、何か驚いてないか?』

『フフフ、私たちの姿に驚いているんでしょ?

こいつらは知らないのよ、ウーナ。

ゴブリンの最終進化の形態が、このゴブリンマスターだとね』

「……ゴブリン、マスター?」


俺の呟きに反応した、ゴブリンマスターの一人がこちらを見てニヤリと笑う。

その姿は、美女そのものだ。

スタイルのいい美女で、赤い髪をなびかせ銀色の軽鎧を装備しているが、魅力的なスタイルを隠すことはできていなかった。


ただ一つ人と違うことは、緑の肌の色だろうか……。


『なぁ~に? 私をそんな目で見て……。

フフフ、触りたいのかなぁ~?』


そう言って自分の胸を、自分で揉み始める。

俺を誘っているの、か?


『ベーニ、あんなのが好みなのか?』

『うふふ、可愛いと思わな~い?』

『ったく、進化してから欲望が強くなったんじゃねぇか?』

『そうかもしれないわぁ~』

『まあ、それは! 俺も同じだがよぉ~!!』


そう言うと、戦闘狂のような表情をして戦闘態勢をとる。

そして、自身の体に魔力を纏い始める。

傍から見ているが、魔力を纏い始めるのが見えるのだ。


「来るぞ! ミズサワ!」

「守護騎士! 防御!」

『行くぜぇ!!!』


構えた一体のゴブリンマスターが、勢いをつけて襲いかかってくるが、守護騎士の大きな盾が防ぐ。

大きな衝突音が辺りに響くと、今度は連撃音が響いてきた。


守護騎士の大きな盾に、ゴブリンマスターの一体が連撃を当てている。


『オラオラオラオラオラオラッ!!!!』


その光景を見ていた他のゴブリンマスターが、呆れた表情を見せる。


『……ムムの攻撃を防ぐのかぁ~。

あの盾の鎧たち、なかなかやるねぇ~』

『行け』


ゴブリンマスターの一人が感想を言うと、最後に洞窟から出てきた腕を組むゴブリンマスターの女が顎で合図をした。


『了解!』

『は~い』

『ウーナ、あの人族は私のよ~。取らないでねぇ~』

『ベーニ、君の趣味が分からないよ』

『うふふ~』

『いいから行くぞ! ココ様のお望みだ!』

『『は~い』』


行けと命令した女のゴブリンマスターと守護騎士の盾に攻撃を続けているゴブリンマスター以外の、四体のゴブリンマスターたちが襲いかかってきた。

それと同時に水澤さんが、守護騎士の配置を変えてゴブリンマスターたちの前に置く。


『! 何こいつら~』

『邪魔よ!?』

『かてぇ盾だな!!』

「……」

『何か言いなさいよぉ~!!』

『オラオラオラオラオラーッ!!!!』


五体の守護騎士は、縦を構えてゴブリンマスターたちの攻撃を防いでいる。

だが、水澤さんの表情は苦しそうだ。

もしかして、出現時間が迫っているのか?

それとも、ダメージ限界があるのか??


「水澤さん!」

「高坂君」

「もう、もうたないんですか?!」

「そうなんだ、ああっ!」


連撃を防いでいた守護騎士が、いきなり砕け散った!


『オラーッ!!』


そして、一体の守護騎士が砕け散ったのを皮切りに、他の守護騎士たちも次々に砕け散っていった。


「しゅ、守護騎士が―!」

「水澤さん!」

「ミズサワ! あの騎士たちはもう出せないのか?」

「だ、ダメです。

ここに来るまでに手に入れたカードですから、もうありません!」

「セシリア! 俺たちで何とか抑えるぞ!」

「シャーリー! 行くわよ!」

「了解!!」


震える水澤さんを見て、オルブランさんは覚悟を決めて前に出る。

また、セシリア隊長やシャーリーさん、それにニックさんも剣を構えて前に出る。

それをカバーしようと、アイラさんやビリーさんは弓を構え、エミリーさんは保護した女性たちの前に出て杖を構えた。


熊谷さんが対物ライフルを構えると、その隣で、武内さんが銃を構える。

片山は、水澤さんの側で地図を確認していて、佐藤さんもその側で震えていた。


俺は水澤さんたちの前にいて、俺を見てニヤリと笑みを浮かべるゴブリンマスターに狙われて、どうすればいいのか考えていた。

焦りもあったのかもしれないが、何も考えが浮かばない。


どうすれば……。


そんな中で、一筋の希望の光を見つけた。






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