第18話 装備をそろえて探索再開



登山用の丈夫な上下の服に、それぞれのサイズに合わせた登山靴に着替えた俺たちは、周りを警戒しているシャーリーさんとセシリア隊長に頭を下げて謝った。


シャーリーさんとセシリア隊長は、気にしないでと笑って許してくれた。


「それより、謝らなくてはいけないの私の方よ」

「セシリア隊長?」

「騎士団からの依頼を優先したために、みんなの着替えとか準備を怠ってしまったわ。

本当なら、一日か二日はみんなの準備に時間を取らなければいけなかったのに……」


申し訳なさそうに頭を下げるセシリア隊長を、みんなで宥めていると片山が話しかけてきた。


「なあ、高坂に聞いておきたいんだが……」

「何か質問が?」

「ああ、この今来ている服とか靴は高坂が召喚してくれたものだろ?

それの所有権はどうなっているんだ?」

「所有権?」


片山によれば、俺が召喚した物の所有権が俺にある場合、俺が送還すると今来ている服や靴が消えるのではないかというものだった。

それを聞いた佐藤さんが、驚いた表情の後、顔色を青くして俺に注目してきた。


まあ、女性たちにとっては問題だろう。

で、ステータスのスキル欄を指でなぞる時に、片山の言っていたことを思い受けべて見ると、答えが出る。


「……召喚した物の所有権は、召喚者の意思による、とあるな……」

「つまり?」

「つまり、召喚者の俺が、これは佐藤さんのですと渡した場合は、所有権が俺から佐藤さんに移るということです。

ですから、俺が送還しようとしても送還できないってことですね」

「そ、そうなんだ……」

「なるほど……」


佐藤さんが、安堵した表情を見せ、片山は納得したように頷いた。

でも、このことは確かに今後、俺が召喚で出すものに関して必要な情報だよな。

着ている服が、俺の一言で消えるというのは問題だし……。


そんなことを話していると、セシリア隊長が、ゴブリン探索を再開しようと提案する。

元々、この班でゴブリン探索をする予定だったから、再開するのは当然だな。


そこへ、ジャキッという金属音が熊谷さんの方から聞こえてきた。


「舞、それって……」

「対ゴブリン用の武器だよ。

こんな森の中でゴブリンを捜索するなら、自分の身を守る武器が必要でしょ?」

「でも、私たちは武器を持っていない……」

「大丈夫! 私が小春のことを守るから!」


キリっと、キメ顔ですごい宣言をする熊谷さん。

何だか、聞いてたこっちが恥ずかしいな……。


「な、なあ高坂。俺たちにもあんな銃を召喚できないか?」

「……たぶんできると思いますけど……」

「あ、日本人の俺たちが銃の情報といっても知らないことが多いか……」

「ん~、いや、たぶん大丈夫だと思います」


片山に聞かれ、俺もみんなの仕える銃を召喚しようとする。

頭に思い浮かべるのは、銃撃戦などのゲームで知っている情報と、ネットで調べたときに知った情報。

さらに、動画配信などで見た、銃の威力動画などを思い浮かべる。


【召喚!】


すると、地面に魔法陣が浮かび上がり、五丁の銃が出現した。

しかも、予備のマガジン付きで。


「こ、これって、USPタクティカルじゃないか?

しかも、サプレッサー付とは……」

「……水澤さん、銃に詳しいですね?」

「これでも、スネーク関連のゲームは得意なんだよ。

お客様に気づかれないように仕事をしていた時期があったな~」

「いや、コンビニの店員として、それどうなんですか……」


水澤さんのスネークって話、あのゲームかな?

俺もプレイしたことあるけど、すぐに発見されて序盤で諦めた思い出があるな……。


水澤さんも片山も手に取って、いろいろ構えをとっているけど、佐藤さんは恐る恐る手に取っていた。

武内さんは、熊谷さんに教えてもらいながら手に取っている。


「……銃って重いのね……」

「使いにくいですか? 佐藤さん」

「私は、こういうの得意じゃないから……」

「あ、持つ時は引き金に指をかけない方がいいですよ。

間違って、撃ってしまう時がありますから……」

「え、そうなの?」


俺が注意すると、すぐに指を引き金から離す。

安全装置が掛けてあるから、引き金は引けないようになっているんだけど、危なっかしい。


「佐藤さんは、銃は持たない方がいいかもしれませんね」

「そ、そうね~。

私は、こういうのは苦手だわ……」


そう言って、俺に銃を返してきた。

佐藤さんは、今後自分の身をどう守るか考えないといけないかな。


「それにしても高坂君、銃を召喚するなら、これよりもMk23のサプレッサー付が良かったんじゃないかな?」

「ん~、一応使いやすそうなものを思い浮かべたんですけど……」

「俺はこれでいいけど、水澤さんは、あんまり納得いってないみたいですね……」

「いや、これはこれでいいものなんだけど、やっぱりスネークファンとしては……」

「と、とにかく! ゴブリン探索に集中しましょう!」

「……そうだね」


さんざん召喚した銃を手に取り、構えをとっていたのに文句を言われるとは。

水澤さんの、負の一面を見た気がするな……。

普段はいい人なんだけど……。



とりあえず、服も靴も装備も一応そろえて、俺たちはシャーリーさんとセシリア隊長と一緒に、ゴブリン捜索を始めた。

召喚や装備に時間を取ったが、一時間もなかったはずだ。


にもかかわらず、ゴブリンに遭遇することはなかった。

ならば、ここにはゴブリンはいないのだろうか?


そんなことを考えながら、ゆっくりと前進を続ける。

木々の間を抜けて、捜索を続ける。



『シッ!』

「……」


先頭を進んでいた、シャーリーさんが何かに気づいて止まる。

そして、草むらの間をかき分けながらゆっくりと進み、草むらが終わる場所まで進む。

するとその先に、十匹ほどのゴブリンが大きな袋を運んでいる現場に遭遇した。


「……何ですか、あれ」

「何を運んでいるのだろうか?」

「シッ! 静かに」

「……」


シャーリーさんに注意され、俺たちは口を手で覆い黙った。

どうやら、ゴブリンたちには気づかれずに済んだようで、こちらを気にすることなくゴブリンは進んで行く。


俺たちの前を通り過ぎていった後、シャーリーさんが後を追おうと進む。

ゴブリンの後をつけて、集落を発見しようということかな?


俺は、後ろにいるセシリア隊長を見る。

するとセシリア隊長は、黙って頷きシャーリーさんの後を進んで行った。

どうやら、シャーリーさんの行動が正しいということかな。


「私たちも行こう」


水澤さんに促されて、俺たちもシャーリーさんの後を追った……。






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