第17話 服や靴の調達



ルーマス村の東側を進み、ゴブリンの捜索を開始する。

村の東側は、広大な森となっていてどんな魔物がいるのか、外から見ているだけでは分からない。


村が襲われた時も、森からいきなり襲ってきたという証言があったから、この森にゴブリンたちの集落があるのかもしれない。


俺たちは、シャーリー班に組み込まれ森を進む。

そして、三十分ほど捜索したところで水澤さんと佐藤さんが座り込んでしまう。

どうやら、疲れてしまったらしい。


「つ、疲れた……」

「ご、ごめんなさい。これ以上は歩けないわ……」

「まあ、佐藤さんのその靴じゃあねぇ~」

「それに服も、探索向けじゃないし……」


疲れて座り込む二人を見て、熊谷さんと武内さんが同情している。

確かに二人の指摘通り、俺たち異世界人たちの姿は探索向きではない。

召喚されて、王都で準備をする前にこの依頼に参加させられてしまったからな。


何が悪かったかとすれば、強制参加させたセシリア隊長の判断だろう。


「なあ高坂、みんなの服とか靴とか召喚できないか?」

「そうだよ! 高坂君、みんなの服や靴を召喚して? お願い~」

「どうだ? 高坂。召喚できないか?」


片山の提案を聞いて、熊谷さんと武内さんが俺にお願いしてくる。

確かに、俺の召喚魔法なら召喚できると思う。

だが、問題があるんだよな……。


「ん~、召喚は可能だ。ただ……」

「ただ?」

「男性の服はともかく、女性の服は購入したことがないし選んだこともないぞ?」

「つまり?」

「情報がないから、召喚できないってこと」

「そうか~」

「……ねぇ、本は召喚できない?」


服の情報が無くて召喚できないと分かると、熊谷さんはがっかりした。

だがそこへ、武内さんがある提案をする。


「本?」

「そう、ファッション雑誌。コンビニとかにも並んでいただろ?

中身はどんなものか想像もつくし、召喚できるんじゃないか?」

「……なるほど、やってみるか」


俺は、コンビニの雑誌コーナーに並んでいたファッション雑誌を思い浮かべる。

いくつか目にしたファッション雑誌を思い浮かべて、召喚魔法を使った。


【召喚!】


すると、足元の地面に魔法陣が浮かび上がり、三冊の雑誌が出現した。


「出た!」


熊谷さんと武内さんに佐藤さんが、召喚されたファッション雑誌三冊をそれぞれ手に取りページを捲る。

中身もちゃんとあってくれと祈りながら三人を見ると、笑顔で雑誌を見ていた。


どうやら、雑誌の中身もちゃんとあったようだ。


「……うん、ちゃんとファッション雑誌だよ!」

「コンビニに並んでいたヤツだな。

いろいろと載っているが……」

「でもこれは、今必要な服とは違うみたいよね……」

「ファッション誌だからねぇ~。

でも、今必要な服が載っている雑誌もあったはずだよ?」

「え? そんな雑誌あったか? 舞」

「登山関連の雑誌だよ。

確かあのコンビニには、登山関連の雑誌を置いていたよね?」


ファッション誌を見ながら、今必要な服ではないことを残念がるが、ここで熊谷さんがコンビニに置いてあった雑誌を質問する。


「確かに、登山関連の雑誌も置いてあるよ。

コンビニの近くにある高校には、登山部があるからね。

だからか、オーナーの意向で置いてあるんだけど……」

「高坂君、その登山関連の雑誌を召喚できないかな?」

「登山関連……」


俺は再び、コンビニの雑誌コーナーを思い浮かべる。

そして、雑誌の中に登山関連の雑誌がなかったか思い出そうとするが、どれが登山関連か分からない。


そこで、召喚される前までいたコンビニで見た雑誌をすべて召喚することにした。

雑誌コーナーに並ぶ雑誌を思い浮かべて、召喚魔法を唱える。


【召喚!】


すると、地面に魔法陣が浮かび、二十二冊の雑誌が出現した!


「わっ! すごい量!」

「高坂君、並んでいた雑誌をすべて召喚したんだね?」

「この中から、登山関連の雑誌を探しましょう」

「……どれが登山関連なんだ?」

「ん~……」


召喚された雑誌を、一冊一冊手に取り中身を確認していく。

そして、ようやく登山関連の雑誌を熊谷さんが見つけた。


「あった! これだよ!」

「おお、それじゃあ残りの雑誌はどうする?」

「残りは、佐藤さんが預かってくれませんか?」

「私が? ……あ、そうか。私のスキルで預かれってことね?」

「そうです! 後で必要になるかもしれませんし~」

「分かったわ」


二十一冊の雑誌を受け取った佐藤さんは、収納と唱えて自分の収納倉庫に収納した。

ポーターという職種柄、どんなものでも収納できるのだろうか?


「それで舞、どんな服や靴を選ぶの?」

「それはもちろん、歩きやすい靴や動きやすい服でしょ。

登山靴なら、佐藤さんのヒールよりも歩きやすいでしょうし、水澤さんや片山さんのコンビニ店員の制服よりも動きやすいと思うよ?」

「……」


そういえば水澤さんも片山も、コンビニ店員の制服のままだったな。

靴も、それぞれで違うものを履いているし。


それにしても、シャーリーさんもセシリア隊長も静かだなと見渡したら、二人で周囲の警戒をしていた。

そういえば俺たち、ゴブリンの探索をしに来たんだったよな……。


「あ」

「あら」


俺の視線に気づいたのか、佐藤さんと水澤さんがシャーリーさんとセシリア隊長の方を見て驚いていた。


「は、早く服とか召喚して着替えましょう」

「私たち、ゴブリンの探索に来ていたんでした」

「そういえば……」

「水澤さんが言うまで、忘れていたな」

「高坂、これを見て召喚してくれ」


片山から、登山関連の雑誌を受け取り中を見ていく。

そして、服のページで熊谷さんたちがそれぞれこれがいいと指で差してきた。

その後、それぞれサイズを聞いて召喚作業に入る。



結論から言えば、全員分の召喚はできた。

それぞれ木陰などで着替えて、今まで着ていた物は、召喚した段ボールに詰めて名前を書き、佐藤さんが預かることになった。


これで、全員の服と靴が手に入ったが、今後のみんなの身の回りのものは俺が召喚することになるのだろうか?

男と女では、身につけるものから何から違うというのに……。






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