第14話 ルーマス村
ゴブリンに襲撃された場所から一キロほど進んだ場所に、目的地のルーマス村があった。
村の周囲を高い塀で囲み、塀の手前には深い堀が掘られてある。
たぶん、この堀でゴブリンなどの魔物による襲撃を防いでいるんだろう。
そして、上げ下ろし式の橋が村の入り口に設置してあった。
上げられたままの橋を見つつ、堀の手前で停止する馬車。
馬車が止まると、セシリア隊長が馬車から降りて大声で村に向かって叫んだ。
『ブロネーバル王国騎士団より、依頼を受けてきましたセシリア騎士隊です!
村の中に入れてくださーい!!』
セシリア隊長の声は、女性とはいえかなり響いた。
普段から、あんな大声を出しているのだろうか?
俺の疑問を察したのか、マリーさんが答えてくれた。
「セシリア様の大声は、魔道具によるものですよ。
あのような大声を普段から出されては、魔物が寄ってきますからね」
「へぇ~、そんな魔道具があるんだ~」
「俺たちの知っているもので言えば、マイクみたいなものか」
「マイクよりも、メガホンの方が近いと思いますよ。片山君」
「あ、そうか……」
マイクだけでは、大声にはならないということか。
確かに、魔道具単体で声を大きくするというならマイクよりメガホンだな……。
そんなことを考えていると、村の塀の上に二人の男が顔を出した。
あの位置からすると、塀の後ろに高い台か梯子をかけて登ってきたってところか。
『私は、ルーマス村の村長のルーマスだ!
騎士隊だという、証拠を見せてくれ!』
『分かりましたー!』
セシリア隊長はそう返事をすると、馬車の中から旗を持ち出して掲げた。
ブロネーバル王国騎士団の旗と、セシリア騎士隊の旗の二つをはためかせる。
それを確認したのか、上にあがっていた橋がゆっくりと降ろされ始めた。
『確認した! 橋を降ろしたらすぐに村に入ってくれ!
近頃は、ゴブリンがこの辺りをウロウロしているんだ!』
『ありがとう!』
ドオンと大きな音をたてて、堀を渡るための橋が降ろされた。
そこを、セシリア騎士隊の馬車の四台が急いで渡る。
渡り終えると、すぐに橋が持ち上げられて村の入り口をふさいだ。
村の中に入って、セシリア隊長は馬車から降りて、近づいてきたルーマス村の村長のルーマスと挨拶を交わす。
「よく、このような村にいらしてくださった」
「セシリア騎士隊、騎士団からの依頼により助けに来ました!」
馬車から降りてくる騎士隊のメンバーを見ながら、ルーマス村長は少し期待をしているようだ。
これで、村が助かると思っているのかもしれないな……。
「騎士団に出した依頼通り、ゴブリン討伐をしてくれるのじゃな?」
「そのつもりです。
それで、私たちの逗留場所はどこになるのでしょうか?」
「村の東側を使ってください。
あそこには、広場があるだけですから……」
「分かりました。すぐに馬車を移動させてから、ゴブリン討伐の準備をはじめさせてもらいます」
「よろしくお願いします」
そう言って頭を下げる、ルーマス村長。
それに対し、セシリア隊長は頷いてから、すぐに隊員に指示を出した。
「オルブラン! 馬車を村の東に!
そこで野営の準備を!」
「了解、隊長!」
「シャーリーは、隊の数人と村人に聞き込みを!
ゴブリンについての詳細が知りたい!」
「分かりました」
「マリーは、異世界の隊員の側で面倒をみてあげて。
それじゃあ、あとは村の東側に移動して野営の準備を!」
「畏まりました」
セシリア隊長の指示を聞いて、隊のみんなが動き出す。
俺たちは、マリーさんが面倒をみてくれることになった。
またセシリア隊長は、レオンとともに村長の家に向かうようだ。
ゴブリンに関することを、聞いてくるらしい。
特に、ゴブリンの数的に、集落が存在していると思われるためらしい。
そういえばゴブリンは、数が多いと集落をつくるとか。
これは、マリーさんからの情報だ。
「ではみなさま、村の東側に移動しますよ」
「「は~い」」
熊谷さんと武内さんが返事をして、他はみんな黙ってマリーさんについて行く。
隊の馬車とともに、移動を始めた……。
▽ ▽ ▽
しばらく歩いて、塀で囲まれているとはいえある程度広い、村の東側に到着した。
だがそこは、壊された家が所々にあり捨てられた場所だと分かる。
中には、燃えたであろう家もあった。
「これは……」
「これ、たぶん襲われたんだろう。ゴブリンか他の魔物に……」
「村の中なのにかい? 片山君」
「水澤さん、見てください。
あの塀の下に続く黒いシミ。
あれ多分、地面が焼けた跡ですよ」
「……なるほど、村のここが襲われて、その後で塀や堀ができたってことね」
「たぶんね、佐藤さん」
片山と佐藤さんが、村の東側の様子を見て推測している。
魔物、もしくはゴブリンに最初に襲われた場所がここだと。壊された家々を見るに、犠牲者もいたかもしれないと。
そして、燃やされた家もあった、と。
片山と佐藤さんの推測を聞いて、改めて東側を見ると胸に来るものがあるな……。
「小春ちゃん、ゴブリン、許せないね……」
「そうだな、舞。ゴブリンは許せないな……」
熊谷さんと武内さんの二人は、村の様子を見て決意を新たにしているって感じか。
「水澤さん、今何時ですかね?」
「今? え~と、午後三時頃かな。
私のスマホの時間では、だけどね。どうかしたのかい?」
「いえ、お腹が空いたもので……」
「そういえば、私もお腹空いたね……」
片山と水澤さんがそんな話をするものだから、他のみんなもお腹を押さえて俺を見てくる。
もしかして、また食事を召喚するのか?
馬車で移動の間中、ずっと俺の召喚した飯だったが、いい加減この世界の飯を食べようぜ。
村の食事がどんなものか、気にならないのか?
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