第10話 緊急の依頼
二階から階段を下りていると、玄関が激しく叩かれる。
その音を聞いて、俺たちを案内していた執事さんがすぐに反応して、急いで会談を降りて玄関ドアの前で声をかけた。
「どちら様でしょうか?!」
『騎士団長からの緊急の通達です!』
「少々お待ちください!」
そう言って、すぐに玄関扉を開ける。
すると、一人の兵士が赤い紙のような物を執事さんに渡した。
そして敬礼した後、外へ出ていった。
執事さんは、その赤い紙のような物を受け取って中を確認する。
黙読していくうちに、顔色を変えて走り出した。
「皆様は、そこでお待ちください!」
「え? あ、ちょっと……」
「何かあったんですかね? 水澤さん」
「あの慌てようは、何かあったんだろうね。
……仕方ないから、ここで待っていようか」
「はあ……」
俺たちは、階段の一番下の所で座って待つことに。
するとそこへ、マリーさんが案内してきた熊谷さんたちが降りてきた。
そして、俺たちを不思議そうに見ていた。
「あの、このような場所で何をしているのですか?」
「それが、案内してくれていた執事さんがここで待ってくれと……」
「執事というと?」
「えっと、赤黒い髪で私より年上の……」
「それは、執事のミシェルですね。
皆様を、食堂に案内するように言われていたのでしょう。
それを途中で投げ出した?」
「ああ、いや違うんですよ。
投げ出したんじゃなくて、玄関で騎士団長の使いという兵士に何らや赤い紙を受け取って……」
「赤い紙?! ミズサワ様、受け取ったのは赤い紙で間違いないですか?」
「はい、間違いありませんが……」
メイドのマリーさんが、焦りを見せている。
どうやら、騎士団長からの赤い紙が原因なんだろう。
でも、どんな意味があるのか……。
すると、一階の奥の部屋から次々と人が現れてくる。
その中には、オルブランさんやレオンの姿も確認した。また、俺たちを案内していた執事さんの姿もあった。
そして、最後にシャーリーの後からセシリアが姿を現した。
セシリアは、俺たちの姿を見て大声をあげる。
「みんな! 騎士団長から緊急の依頼が届いた!!
場所は、ルーマスの村だ! レオン、すぐに馬車の準備に取りかかってくれ!」
「了解です隊長! ミシェル、アスリー、手伝ってくれ!」
「はい!」
「分かりました!」
執事のミシェルと、メイド服姿のアスリーが返事をして、三人で外へ出ていく。
馬車の準備ってことは、すぐに移動するってことかな?
「他のみんなは、遠征の準備だ!
どんなに飛ばしても、ルーマス村までは二日かかる。
緊急の依頼とはいえ、準備は怠らないように!!」
『『『『はいっ!!』』』』
セシリアの命令を聞いて、集まっていた全員が移動を始める。
二階に上がる者、一階の奥へ移動する者など様々だ。
そして残ったセシリアとシャーリーが、唖然としている俺たち異世界人六人のもとに来た。
「みんなもこれから、馬車で移動します。
本当は、夕食の時に隊の全員へ紹介をして、明日は買い物をしようと思っていたんだけど、騎士団から緊急の依頼がきてね?
すぐに、隊全員で移動しないといけないのよ」
「みんなが乗る馬車には、私とマリーが乗り込むから詳しい説明はその時に」
そう言って、セシリアとシャーリーは階段を走って上がって行った。
「皆様は、この場でお待ちください。
馬車の準備ができ次第、私がご案内いたしますので」
そう言って、一礼するマリーさん。
展開がいきなりすぎて困るが、俺たちは早速騎士隊として働くことになるらしい。
そう考えると、俺は少しワクワクする……。
▽ ▽ ▽
階段の下で待たされること数十分。
玄関の扉から、馬車の準備を終えたレオンが入ってきた。
「馬車の準備ができた! いつものように乗り込んでくれ」
「それじゃあ、全員乗車! 乗り込んだ順に出発!!」
セシリアが命令して、玄関前の広場に荷物を持って集まっていた隊員たちが、それぞれの荷物を持って玄関から出ていく。
レオンも、オルブランさんから荷物を受け取り外へ移動する。
「ではみなさま、移動しましょう」
そうメイドのマリーに言われて、俺たちも玄関から外に出る。
すると玄関前の広場に、二頭の馬が繋がれた馬車が四台あった。
結構、大きい馬車だな……。
「皆様は、こちらの馬車に乗りこんでください」
「これか……」
小さな階段を取り付けた馬車に、俺たちは順番に乗り込んでいく。
最初に熊谷さんたちが乗り込み、女性たちが乗りこんだら片山を先頭に俺たちが乗り込む。
馬車の中は、端に座る場所の板があるだけのシンプルなものだ。
隊の隊舎に案内された時の馬車とは違い、平民が使う馬車と同じらしい。
騎士隊結成当初から使っていると、マリーさんが説明してくれた。
そして、乗り込んだ順に馬車は出発していく。
「では、私たちも出発しましょう」
最後に乗り込んできたシャーリーが御者に声をかけて、馬車が動き出した。
ゆっくりと動き出した馬車。
俺たちはすぐに、異世界の馬車の乗り心地の悪さの洗礼を受ける……。
王都の中の道だというのに、すでにお尻が痛い。
整備されている道で、こんなことになるのだ。
これが、王都の外に出たらどうなるか……。
「い、いたた……」
「こ、これは」
「くうぅ~」
「クマヤ、サトウ、カタヤマ、大丈夫?
他のみんなも、苦しそうだけど……」
「シャーリー様、皆様は馬車に乗りなれていないものかと」
「そうなの?」
シャーリーは驚き、マリーは俺たちの態度で分かったようだ。
「でもどうしよう。
王都から出たら、すぐに馬車を走らせるから……」
「今より、もっとひどくなりますね……。
お尻の下に、何か置けば多少はましになると思いますが……」
何か置くといっても、俺たちには何もない。
かといって、他の人の荷物を俺たちの尻の下に置くわけにもいかない……。
どうする?
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