第5話 異世界人の自己紹介



女剣士が言った、召喚魔石に反応して攻めていた人たちが静かになる。

召喚魔石があれば、俺たちを元の世界に帰すことができる……。


「……その召喚魔石があれば、私たちは帰れるんですね?」

「はい、帰れます」


女剣士の言葉に、召喚された人たちが安堵の表情になるが、すぐに険しく変わった。

元の世界に帰るには、召喚魔石が必要なことは分かった。

だが、その魔石はどこにあるのか?

どうやって、手に入れることができるのか? だ。


「すぐ手に入るんですか?」

「すぐに、手に入れることはできません」

「そんな……」

「どこで、手に入れることができるんですか?」

「召喚魔石は、魔石屋で販売しています」

「……魔石、屋?」


魔石屋? 魔石を販売している、店があるのか?

でも、お手軽な値段というわけにはいかないだろう。

そんな値段で販売していれば、この世界では異世界人が当たり前になるはずだ。


こんな扱いにはならないはず……。


「それで、いくらぐらいで販売されているんですか?」

「年間の騎士団の予算の半分です」

「?」


コンビニ店員の水澤さんが聞くが、どのくらいなのか分からない。

かなりの値段だと思うのだが、どうもピンとこないな……。


「と、とにかく、ものすごい値段だから、今すぐというわけにはいかないよ。

今回の召喚にだって、だいぶ無理してもらったんだし……」


セシリアが、俺たちに話しながら俯いていく。

それだけ、かなり無理したっていうことなんだろう。


「隊長……」

「セシリア様……」


隣に座っている女剣士と、俺たちの後ろにいるメイドが何とも言えない表情でセシリアを見ている。


そして、誰もしゃべらなくなり沈黙が続いたが、これではいけないとセシリアが少し明るく俺たちに声をかけてきた。


「そ、それじゃあ、右側の女性から、自己紹介をしてくれるかな?」

「……私?」

「うん、そう。

名前と、できれば年齢を教えてくれるかな?」


セシリアは笑顔でお願いしてくるが、少し焦っているような気がするな。


「わ、私は、武内小春(たけうちこはる)。歳は十七歳、です」

「あ、隣の部屋で鑑定してもらった、職種も教えてくれるかな?」

「職種? え~と、私の職種は、錬金術士、だったかな……」

「錬金術士?! あなたがそうなのね!」

「隊長!」

「あ、ごめんなさい……。

隣の女の子、お願いします」


セシリアたちから見て、右端から自己紹介を始める。

そういえば召喚された人たちの名前、俺も知らなかったな……。

俺も、心ここにあらずだったのかもな。


「私は、熊谷舞(くまやまい)。小春と同じ、十七歳よ。

職種は確か、ガンナーって言われてたわ」

「ガンナー……」


ガンナー。

確か、魔導銃が高額で手に入りにくいとか言われていたな。

しかも、値段の割に攻撃力が低いとか?


「私の名は、佐藤真由(さとうまゆ)。に、二十八歳、独身。

職種は、ポーターと言われたわ」

「ポーター。

ならば、空間関連の魔法かスキルを持っているということかな?」

「普通のポーターは、無限鞄を持つだけでもできる職種ですが、異世界人召喚で召喚されたポーターとなると……」

「特別な何かがあるってことね……」


特別な何か?

セシリアと女剣士の会話を聞いていると、召喚された者というだけでかなりの特別なスキルか魔法を持っているということになるな……。


「次は俺か。

俺は、片山亨(かたやまとおる)。歳は二十一の、大学生だ。

職種は、マッピングマスターとか言ってたと思う」

「マッピングマスター?

その職種は、初めて聞いた職種だわ。

シャーリーはどう?」

「私も、初めて聞きました。

でも、その名前から推測はできますね……」


確かに推測はできるな。

あの、ローブを着ていた男たちも言っていたしな。

地図を作成するというものだろう。


しかも、マスターと付いているから完璧な地図ということになるか……。


「次は私ですね。

私の名前は、水澤大輔(みずさわだいすけ)と言います。

歳は、この中で一番年上の四十五歳です。

職種は、カードマスターでしたね」

「カード、マスター?」

「この職種も、初めて聞きますね。

それに、これはどんなことができるのか想像できませんね……」


セシリアも女剣士のシャーリーも、困惑している。

二人は知らないようだが、あのローブを着た連中は何か話していたな。

確か、アイテムや魔物などをカードに封じるとか?


そして、封じた魔物はカードで呼ぶとテイムモンスターと同じように扱えるとか?

そんなことを言っていたな……。


「最後は、あなたですよ?」

「ん?」


セシリアに声をかけられ、考え事をしていたと気づく。

他の召喚された人たちも、俺を見ていた。


「ああ、すまない。

俺の名前は、高坂隆(こうさかたかし)。十七歳だ。

職種は、召喚士と言われたな」

「召喚士、か。

召喚士というと、魔物を召喚して契約や条件付きで仲間になってもらう職種だったね」

「はい。ただ、召喚した魔物の強さは召喚士の格で決まりますから、最初の内は弱い魔物のみとなるはずです」

「それだと、戦力というより探知とかが役割になるのかな?」

「ですね」


探知? つまり、鳥とかを召喚して仲間にして情報収集って感じか。

自分のステータスが、って!


ステータスと思うと、目の前に透明な板が出現し自分のステータスが表示されていた。

こういうとこは、ファンタジー世界って感じだな……。


「ん~……」


俺が、目の前に現れたステータスボードを見ているのが分かったのか、セシリアが他の召喚者たちにもステータスボードを見るように促す。


「あ、みんなも、彼と同じようにステータスボードを呼び出して、自分の能力を確認するといい。

ステータス、と念じるだけで呼び出せるからね」

「え?!」

「わ?!」

「な!?」

「お!」

「おお!」


異世界と言えば、ステータスボードだろう。

こんなことに、気づくのが遅れるとは……。






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