第4話 送還の条件



俺たちは、セシリアが話してくれた創世の話を聞いて考えこむ。

そして、自分たちの中の召喚にまつわる話を整理する。


考えてみれば、俺の召喚に関する知識は、創作のファンタジー小説を読んで得た物ばかりだ。勇者召喚だの、魔王だの、実際経験してみれば想像と現実は違う。


「どうかな?

この世界のこと、少しは理解できたかな?」

「……」


セシリアが、俺たちに向けて声を掛けてくると、俺たちはお互いを見てセシリアに頷いた。

自分たちが、勘違いしていたと認めたのだ。


「それでは、私たちはなぜ召喚されたのでしょうか?」


そう質問するのは、ポーターの職種と言われた女の人。

服装と雰囲気から、俺よりも年上だと思う。


「それは……」

「……」


セシリアと隣の女剣士が顔を見合わせて、困った表情をする。

何か、言いにくいことがあるんだろうか?


「隊長、ここは正直に説明した方がいいと思います」

「正直に、全部?」

「はい、今後の関係を築くためにも……」


セシリアは少し俯いて考えると、隣の女剣士を見て頷いた。

そして、俺たちの方に向き直る。


「皆さんを異世界から召喚したのは、偶然です」

「偶然?!」

「はい、皆様を狙って召喚したわけではありません。

隣の部屋で行われた異世界人召喚は、どんな人物が召喚されるかは召喚してみるまでは分からないのです」

「そんな……」


ポーターの女の人は、落胆したように肩を落とした。

何か、期待していたのか?


「そ、そういえば、上の階にいた男の人」

「上の? ホグラン様?」

「そうそう、その怖そうなホグランドって人。

その人が、救済召喚って言ってたんだけど、どういう意味なの?」

「あ~……」


そう言って、暗い表情になるセシリア。

そして、すぐにその理由を話し始めた。


「私の率いている騎士隊、設立して半年なんだけど、弱いの……」

「え?」

「私の騎士隊が、弱いんです!

……何とか強くしようと、強い隊員を募集したりスカウトしたりしたんだけど、みんな断るのよ……。

隊員が集まらないなら、せめて装備でもとそろえようとしたんだけど……」

「したんだけど?」

「お金がなかったのです」

「はあ…」

「私の騎士隊設立に反対していた、お父様は援助してくれないし、お母様は実績を作ってからっていうし……」

「実績、ですか?」


セシリアの愚痴に近い現状説明に、俺が騎士隊の実績とは何か気になり質問した。

するとセシリアではなく、隣の女剣士が答えてくれた。


「騎士隊の実績は、騎士団よりの依頼を成功させることでできます。

騎士隊は、王国の騎士団に所属し、王国内で起きる問題の解決を依頼されるのです。

その依頼を解決させることができれば、騎士隊の実績となるのですがセシリア騎士隊の今の実績は、三勝四十三敗。

その成績もあって、騎士団の中では『お荷物騎士隊』と言われる始末で……」


……なるほど、それであのローブの男たちがお荷物騎士隊と。

しかし、王国内で起きる問題を解決する騎士隊か。


「なあ、冒険者ギルドとかはないのか?」

「冒険者ギルドはあります。

騎士団に依頼をせずに、冒険者ギルドに依頼する人たちもいます」

「騎士団への依頼と、冒険者ギルドへの依頼の違いは?」

「報酬の違いです。

冒険者ギルドに依頼した場合は、報酬が高ければ高いほど受けてくれる冒険者がいます。

騎士団への依頼にも報酬がありますが、基本、騎士隊は給料制。

国から騎士団に支払われる予算から、騎士隊へ給料が支払われるので報酬は少なくてすむのです」


つまり、成功報酬が少なくてすむというわけか。

でもそれだと、騎士団への依頼が多くなるはずだな……。


「でもそれなら、騎士団への依頼が多くなるんじゃない?

報酬が少なくてすむのなら……」

「ですが、騎士団への依頼は時間がかかります。

冒険者ギルドなら、依頼をしてから半日以内に掲示板に貼られ、冒険者が受けることができますが、騎士団へ依頼をすると、騎士隊へ依頼が届くのが最短でも二日後なのです」

「二日後!? それじゃあ、急を要する依頼の場合は……」

「はい、間に合いません」


なるほど、それで使い分けるってことか。


「それと、依頼の内容でも分けています」

「依頼の内容?」

「はい。例えば、薬草採取などは冒険者ギルドで常駐依頼となって受け付けていますが、騎士隊は薬草採取を受け付けていません。

国の予算を使って、薬草採取をするわけにはいきませんからね」


確かに。

国の予算を使ってまで、薬草採取に騎士隊を動かすことはないな。

それぞれに見合った依頼を精査して、騎士隊に降ろすため時間がかかるわけか。


「あ~、話を戻すと、つまりお荷物騎士隊と言われた騎士隊に、テコ入れをするために、俺たち異世界人を召喚したってことか?」

「はい、その通りです」


話が脇にそれたため、俺が要約して確かめると、女剣士が認めた。

なんてことだ……。

そんなことのために、俺たちは召喚されたってことか……。


「あ、あの!」


その時、大きな声で話したのは錬金術師と言われていた女だ。

容姿と雰囲気から、俺と同じぐらいの年齢かもしれない……。


「な、何でしょうか?」

「わ、私たちは、元の世界に帰れるのでしょうか?!」

「そ、そうだ! 俺たちは帰れるのか!?」

「そうよ! 帰れるんでしょ?!」

「お、落ち着いてください。

帰れます! 帰れますから、落ち着いて!!」

「……」


帰還できる?

こういう召喚ものだと、帰れないことが当たり前のように書かれているが、帰れるのか……。


「……本当に、帰れるんですね?」

「はい、元の世界に帰すことはできます」


女剣士の言葉に、みんな安堵する。

そして、女たちが必死にお願いし始める。


「なら、帰してください!」

「私たちを、元の世界に帰して! お願い!」

「元の世界に、帰れるんですよね?! お願いします!」

「ま、待ってください!」


タジタジの女剣士が、待ったをかける。

……これは、条件があるパターンか?


「すぐに、帰すことはできません!

みなさんを元の世界に送り返すには、召喚魔石が必要ですから!」

「……?」


召喚魔石?







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