第3話 創世の話



真ん中の椅子に座った女騎士は、隣に座る女剣士を何度かチラチラと見ている。

何だ? 許可とかを待っているのか?

それに、女騎士はさっきからソワソワしているな……。


「セシリア様、まずは自己紹介からしてはどうですか?」


沈黙の時間が長かったのだろう、俺たちの後ろにいるメイドから声がかかった。

それを気いた女騎士は、ハッとしたように笑顔で頷く。


「そ、そうだな。まずは自己紹介からしよう!

私からでいいか?」

「はい、お願いします」


隣に座る女剣士に聞いてから、自己紹介を始める。


「私の名は、セシリア。

セシリア・アーグバロン騎士爵だ。

現在、ブロネーバル王国所属の騎士隊は百近くあるが、その中でも比較的新しい騎士隊の隊長をしている。

おっと! 女だてらに騎士隊の隊長と不安に思うなよ?

百近くある騎士隊の中には、女性騎士隊長は結構いるのだ。

まあ、その中の一人が私なのだが……ん?」

「隊長、話が長いですよ……」


一人で長々と話していることに、ようやく気付いたセシリア。

隣の女騎士が、気づかせたわけなのだが、何だか大変そうな騎士様だな……。


「す、すまない!

とにかく君たちは今後、私たちの隊で預かることになる。

同じ隊の一人として……『ちょっと待ってください!』」

「……何でしょうか?」


セシリアが、自分の隊で俺たちの面倒をみると発言すると、俺たちの側から片山という人が待ったをかけた。

その発言に、セシリアは固まったので隣の女剣士が答える。

そういえば隣の部屋でも、この片山って人がしつこく聞こうとしたよな……。


「俺たちは、何が何だかさっぱりです!

ここはどこで、俺たちはどうなったのか!

そして、これからどうなるのか、教えてください!」

「……」


片山って人の必死の質問にセシリアは戸惑っているようで、隣の女騎士をチラチラと見ている。

女騎士は、ため息を吐くと片山って人の質問に答えた。


「あなたたちは、この世界に召喚されました」

「しょ?!」

「え?!」

「先ほどまでいた隣の部屋が、召喚の間といわれる場所です。

あの部屋で、異世界人召喚をすることでこことは違う世界から人を召喚できるのです」

「そんなバカな!

違う世界なんて、ありえないでしょう!」


片山って人は、召喚を信じてないようだ。

だが実際、俺たちは召喚されて知らない場所にいた。

あのコンビニのレジ近くではなく、神殿のようなあの広間に……。


「漫画や小説じゃないんだ!

そんな召喚なんて、あるわけが……」

「……まさか」

「そんな……」

「ええ~……」

「まさか、本当に……?」

「……」


片山って人が抗議し、俺以外の四人は信じられないと驚いているが、セシリアたちの真剣な表情で本当のことだと思ったようだ。

気持ちの整理が、追いついていないんだろうな。


俺たちを召喚した連中は、俺たちを物のように扱っていたし……。


「コホン。みんながいるここは、ブロネーバル王国という国の中心にある王都だ。

そして、王城の中にある召喚神殿という建物の中で、この部屋は説明室と呼ばれている」

「説明室、ですか……」


なるほど、召喚された異世界人たちに説明するための部屋か。

王城の中にあるとはいえ、召喚神殿というからには独立した建物ということか?


「それで、あんたたちは、俺たちに何をやらせようというんだ?

魔王でも、倒せっていうのか?」


困った表情で聞いたのは、片山という人の隣に座る同じ制服を着た水澤という人だ。

セシリアと剣士の女は、お互いを見合わせると水澤という人に向き直って答える。


「魔王、ですか?」

「勇者召喚したなら、目的は魔王討伐じゃないのか?!」

「……あの、魔王って、魔族の王の?」

「そうだ。人々を苦しめる、魔族や魔物の王だ。

……違うのか?」

「違います!」


水澤さんの言っていることに、セシリアが大声で間違いを指摘する。

そしてまた、女剣士がため息を吐いた後答えてくれた。


「隊長、どうやらこちらの方々は勘違いというか、思い違いをしているようですね」

「思い違い……?」

「まず、魔王という方は魔族の王で間違いありません。

ですが、魔物の王ではありません。

魔族と魔物は別の種です。

分かりやすく言うと、人と動物ほど違います」

「な、なら、魔族が暗躍して人の生活を脅かしているとか、戦争しているとか……」

「そういうのも、ありませんね。

というか、悪は人も魔族も同じでしょう。

魔族だけが悪とするのは、差別というものですよ?」

「……」


魔族と魔物は別、ということは、魔族も魔物も存在している。

そして魔族と魔物は、人と動物ほど違う種だと……。


「それに、勇者召喚ではありません。

異世界人召喚です」

「ねぇ、シャーリー。

この方たちに、創世のことを教えたほうがいいんじゃないかな?」

「創世話を、ですか?」

「だって、この方たちは違う世界から来たんだよ?

なら創世の話をしたら、この世界のことを理解してくれるんじゃないかな?」


創世の話?

この世界の誕生の話か?

神様がどうこうという、宗教話……。


「ではセシリア様、お話しできますか?」

「もちろん!

乳母がよく、寝る前にお話ししてくれていたからね」

「では、お願いします」


俺たちの後ろにいるメイドが、セシリアが話すように誘導したな。

そして、女剣士もそれに乗っかった。


「コホン。では……


昔々のずっと昔。

世界は、創造神様が創られました。


星を創り、海を創り、空を創り、大地を創った。

そして植物を創り、生物を創ろうとした。


だが、創造神様はうまく創れなかった。

そこで創造神様は、他の世界の神様に助けを求めました。

すると、二柱の女神様が助けてくれることになりました。

白い女神様と黒い女神様です。


白い女神様が、人族を創りだすと、黒い女神様が、魔族を創りだしました。

白い女神様が、エルフ族を創りだすと、黒い女神様が、ダークエルフ族を。

白い女神様が、ドワーフ族を創りだすと、黒い女神様が、エルダードワーフ族を。

白い女神様が、天使族を創り出すと、黒い女神様が、悪魔族を創り出しました。


白い女神様が創りだす種に、黒い女神様がさらに優れた種を生み出す。

いつしか、二柱の女神様たちはいがみ合うようになってしまいます。

創造神様は、これ以上は戦いになると思い、二柱の女神様にお礼を言って帰ってもらいました。


二柱の女神様がいなくなってから創造神様は、獣人族を創りだし、その後、動物を創りだしました。

こうして、世界に生命が溢れていったのです。


ところが、二柱の女神様たちのいがみ合いは、思わぬものを生み出してしまいました。

それが、魔の澱みです。

魔の澱みは世界中に現れ、動物を魔物へと変えていきました。


これが、魔物の誕生です。

魔物はすべての生物たちに牙をむき、生存の戦いが始まりました……。


……これが、創世の話です」


女剣士とメイドは頷きながら、よくできましたとセシリアを褒めた……。







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