天神さまの細道

おじさんさん

さゆ

 むかし。むかしのお話。


 その村では七つの誕生日を迎えると、あるしるしがついた子どもを天神さまの使いが来て連れていってしまうという。


 貧しい農村での口減らしの口実かもしれないこの風習はせめて死んだ魂は神さまのところに行ってほしいという親心か。


 人差し指にささくれができたら、それがしるし。昔からの言い伝えでささくれができたら「親不孝」だとされその為、天神さまのところに行けば親孝行になると子どもに教えて行かせるという。


 その年。七つになったさゆ坊の指にささくれができた。


 両親は今年は娘の番だと思う悲しい気持ちと口減らしができたという安堵感と複雑な感情でいた。


 その村に旅の僧侶が立ち寄った。


 道端に立って村を見渡しているさゆ坊を見つけた。


「坊、名は何という」


「さゆ」


 なんの感情なく答えた。この不幸な村に生まれた少女はこれから起きるであろう運命をすでに受け入れていたかの様だった。


 僧侶はさゆ坊のささくれだった指を見て。


「天神さまへ使いに行ったらもうお父にもお母にも会えなくなるけど淋しくないのか」


 僧侶はこの辺りの習慣をわかっているのか、さゆ坊に問いかける。


「指にささくれができたから、さゆは親不孝なんだって天神さまのところに行けば、父ちゃんも母ちゃんもみんなもしあわせなって親孝行ができるから」


 やはり、さゆ坊は自分の運命を知っているかの様だった。


 僧侶は袖口から一枚の木札をさゆ坊に渡す。そこには観音様が描かれていた。


「これを持ってお行き」


「これ、なあに」


 あまり、人から親切にされた事などなかったであろう少女は僧侶のやさしさが嬉しかったのか、年相応の反応をしてみせた。


「これはお守り、持っていると道に迷わず天神さまのところにちゃんと行けるのだ」


「でも使いの人が来るんでしょ?」


 さゆ坊が疑問に思うのも無理はない。言い伝えでは天神さまの使いが来て連れて行ってくれるという事なのだから、しかし実際は村の誰かが山に連れていって捨て置かれるだけだった。


「そうだったな」


「そうだよ」


 屈託のない顔を僧侶に向けるさゆ坊。


「邪魔になるものでもないから持ってお行き」


 全てが終わった時、魂が浄化できる様にお守りを渡したのだろう。


 立ち去る僧侶。


「さようなら〜」


 この時間だけはさゆ坊にとって幸せな時間であったのだろう笑顔で手を振る。


 僧侶は道すがらある歌を口ずさんでいた。


 通りゃんせ 通りゃんせ。


 ここはどこの細道じゃ。


 天神さまの細道じゃ。


 行きはよいよい。帰りは怖い。


 怖いながらも。通りゃんせ。


 通りゃんせ。

 

 

 

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